第24話 気分転換

「やっぱ!気分を変える為には、魔術だよな!!宗教とか面倒くさい話題はかったるいわ。そう思うだろ?フォス」


 高木は、長期の思考により、だるくなった頭を休めようと、離れた場所で魔術の特訓をしようというのだ。いつもなら、こんなメチャクチャな発想はフォスが咎めるはずなのだが。


(まぁ…今回に限ってはご主人に同意見ですね。さっさと忘れましょう!)


 承諾だ、高木は、リュックサックのようなものから、杖を取り出し魔術を使用する。


「試しに中級魔術使ってみるか!!」


 中級魔術の詠唱破棄により、新たに中級魔術を使用可能となった高木。実は、高木は疼いていたのだ。駆け足の旅の準備と、出発により、まともに魔術を使える機会がなかったのだ。なにかモンスターでも出てくれれば良いのだが、それすら出ない。なら、今!気が落ち込んでいるこのときに、ぶっ放すという名目で、魔術を練習するほうが良いだろう。


(ぶっ放しちゃってください!!)


「よし!いくぜ!中級雷魔術【電気のボルトフィスト】!!」


 高木は、高らかに魔術を発動させる。発動直後、両腕が黄金の電気に包まれていく。よくアニメとかで見る電気の色だなと思う。腕にまといし雷電らいでんは、周囲にバチバチととどく。


「すげぇ!!これが電気の拳か…適当に岩でも殴ってみるか!」


 シュッシュッ!


 電気を纏った拳は、今までの高木とは思えないほど重く、早く繰り出される。高速の一撃により、岩は簡単に割れる。もしや、粉々に粉砕することができるのではないか?という妄想までしていたが、さすがにそれほどの力は持ち合わせていなかったようだ。だが、今までの高木の筋力で岩を割ることなど到底不可能だ。とてつもない力を持った魔術であることに違いはない。


「すげぇな…これ…」


 ただ単純に前方に何かを放つ魔術とは違い、こちらは、自分の身体で体験することができる。自分の身体が、どれほどまでの強化を遂げたのか。本人からすれば驚くべきものだ。


「あっ…高木さーん!1遅くないですかぁ!!もう…」


「もう1時間も経ってるよ、豪散。お楽しみな様子だけど、もう少し位アタシたちを気にかけてくれ:


 時間はあっという間に過ぎ去ってしまっていたようだ。先程まで、なんとかあたりを見渡せる程度の明るさはあったはずだ。だが辺りはすでに真っ暗になっており、既に夕暮れ時だ。そんな時間になっても戻ってこない高木を心配したのか、マーソ達が迎えに来た。


「…もうこんな時間か。最後にじゃあ、俺の新技見てくれ!!」


 自身の新技を見てもらおうとする高木に、やれやれといった様子で付き合う。


「中級雷魔術【電気の拳ボルトフィスト】!!」


 もう一度ボルトフィストを使用し、近くにあった適当な岩をもう一度殴る。自身の現在出せる最高速で、岩を殴ると今度こそ粉々に粉砕することに成功した。


「……流石にやべえ…こんなやばいのか…俺の本気の中級魔術って。」


 高木自身も、想定を容易く超える威力にビビる。これに付き合わされた二人はというと


「全く見えなかったよ…豪散。それにこの威力…どんな技かと思ってみれば…こりゃ…凄いね。」


「え?見えなかったんですか?確かに滅多に見れない貴重な魔術ですけど…」


「マジ?見えたの?俺ですら見えるか怪しいレベルだったのに。」


 マーソがボルトフィストの軌道を見えたことには驚いた。もしかすると、とてつもないほど視力が良いのかもしれない。


「ま、戻るか!いやぁ…ほかの中級魔術も試したかったけどな」


 その後は、高木が作った食事を食べ、寝床を作り、就寝につく。


 三日目、マーソは、マーシネーまでは大体1週間程度で着くと言っていた。今日の段階で折り返し地点までつけるよう、少し足早に、そして安全に行動していた。


 ある程度時間が経ち、疲れた。またいつも通り休憩地点を作り、高木が昼食を作る。空は未だ晴れだ。だが、先日や一昨日おとといと比べると、やや雲がかかりかけていたように見える。


 楽しく席を囲み、和気あいあいと食事を楽しむ。そんな楽しかった食事を終え、片付けを始める。


「いやぁ〜我ながら結構美味しく作れてた気がするんだけど。どうだった?」


「とても美味しかったですよ!」


「これは…100点満点中なら…辛口評価で97点位の逸品だね…溶けちゃいそうだよ…ほわ~」


(正直、ほんっっっまに美味しいです!!主人にこんな特技があったなんて…)


 そんな食事を終え、他愛もない話というより、高木がほくほくしたいだけの話を終え、休憩地点を片付ける。


 ポツリ

 

「あれ?なんか、顔に水が降ってきたような…っていうか…空模様そらもよう悪くないですか?」


 先程まで、あれだけ晴れていたというのに、急激に天候が変化する。空は鉛色になり、水の雫がポツポツと降り始める。だが、それだけでしか無い。あくまで霧雨。そのまま片付け作業を続け、作業を終わらせる。

 一向に空模様は良くならないが、それで歩みを止めるということにはならない。少し淀んだ空気だが、気を切り替え、マーシネーへと向かう。


「いやぁ!このまま順調に進めばいいなぁ!!」


 ザザザザーザーザザザーザザー


 唐突に、天気は悪化する。先程まで、弱い雨であったのだが、片付けを終えた瞬間霧雨は、豪雨へと変貌へんぼうする


「えっ!ちょ…まじか…!とりあえず走れ!!」


 突如として変化した雨模様。困惑よりも先に焦りが来る・


「あぁ!!もう…なぁんで、昨日あんな天気良かったのに雨なんだよぉ!!」


「わかりませんって!!神様がお怒りなんじゃないんですか!?昨日宗教の話しましたし…!」


「確かに一理あるね…!とりあえず、雨宿りできそうな場所でも探すしかないさね」


 昨日、寸分も乱れることがなかった天気が、大荒れである。理由は分からないが、とにかく大荒れである。幸いにも、食事を食べたあとなので、体力は余っている。


 雨の中、高木たちは走る。なぜ、豪雨の中雨風をしのごうとせず走っているのだろうか。それは、異世界にはテントのような、雨風をしのげるようなご都合キャンプ用品など存在しないからだ。


 唯一あったのは、一定量の魔力を注ぎ、発現させる”ポケット結界くん”であった。結界は、結界発動者が入ることを承諾した生物以外の侵入を防ぐことができる。だが、防げるのは”生物”である。雨風などの、生命を含まぬ物体を防ぐことはできない。


「なんか雨凌げるもん持ってないの!?」


「持ってないですってぇ!!」


(それなら、私が大きくなりましょうか?)


「いい案だね!!頼めるかい!?」


(…流石に冗談ですよ…)


 手詰まり。森の木々により、多少は雨が凌げているかもしれない。だが、それでも雨は激しく降り注ぐ。このままでは体調不良コースになってしまう。だが、それは高木ではなく、マーソ達への心配である。


 高木は固有スキル不屈の精神を保有しているので、状態異常にめっぽう強い。風邪程度、かかるはずもない。


 だが、マーソにイロハは特別なスキルなどない、ただの一般人だ。回復魔術の影響下えいきょうかは、身体の損傷そんしょうまでだ。体内の異常に対応するほど万能ではない。マーソ達にとってこの豪雨は、災厄さいやくともいえるだろう。フォスは、まぁ元々チンアナゴだし、心配する必要もないだろう。


 ともかく、マーソとイロハのために、雨風を凌げる場所を探す必要がある。


「あれ!!家じゃないか!?…入れてもらえるか聞いてみるしかない!!」


「分かりました!!」


 前方に民家らしき影を見つけた。これほどまでの極限状態、不躾ぶしつけだろうが、なんだろうが、一筋の蜘蛛くもの糸にすがるしかない。

 家の全貌が確認できるほどの距離まで近づく。民家は、多少の汚れはあるが、損傷など、苔等が放置されていた様子はなかった。

 おそらくだが、これほどの山奥で、これほどの良状態。誰かが住んでいるのは、ほぼ確実といっていいだろう。


「すみませーん!!雨宿りさせてもらえませんかぁ!!」


 どれだけ、失礼だろうと、無礼だろうと、知ったことではない。友人の身体の危機だというのに、丁寧な言葉など不要だ。友人優先である


「はいはい、なんだね?」


 中から出てきたのは、少し老け顔の眼鏡をかけた男だった。

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