処刑場のエビス

マスケッター

第1話 粗筋(注意 完結までのネタバレです)

 主人公・矢磯やいそ 十吾じゅうごは、表では個人の運輸業、裏では逃がし屋を生業とする二十代中盤の男性である。そして、ネコの鳴き声と波の音に安らぎを感じる人間でもあった。

 二○二四年五月の晩。

 夜逃げを希望する顧客の指定に応じて、彼は静岡県北東部にある廃倉庫に一人できていた。

 しかし、そこには死体が一つあったきりだった。死体は五十代くらいの男性としかわからず、外傷や肌の痛みはなかった。合流するはずの顧客は、ついに現れなかった。

 だまされたと知った彼は、まず休息のために帰宅した。

 夕食のあと、何気なくつけたテレビには、廃倉庫にいた故人が出演していた。それは少し前に収録された番組で、静岡県北東部にあたる黒銀町くろぎんちょうという山あいの町が舞台だった。故人の名は和辻わつじ 奏太そうたといい、山のなかでヒラメの養殖場を営んでいた。

 就寝後、報復かたがた真相究明の方策を練るべく黒銀町にむかった彼は、和辻養殖場を探った。そこで、首にロープをかけられたエビス像が場内にあること、養殖場の社員に奏太の娘がいることを知った。

 矢磯は彼女から、奏太が神奈川県南東部にある夜木聖町よきひじりちょうにかかわっていたと聞きだした。さらに、黒銀町にも夜木聖町にもエビス伝説があり、前者は海からきたエビスが福をもたらしたこと、後者はエビスを何者かに奪われて町がすたれたとも知った。

 夜木聖町はさびれた漁師町であり、幸か不幸か元顧客の逃亡予定地でもあった。必然的にそこへむかった。

 町に面した海岸で、矢磯は、警官と名乗る女性に呼びとめられた。面倒なやりとりになりかけたので、観光客という体でやりすごした。そのあと、海岸を散策しつつ、溺死体をエビスの遣いとして崇拝する習慣はどこの漁村にもありえるという話を反すうした。そして、この浜辺には四十年近く前に男女二人の身元不明溺死体が漂着したとも。

 歩いているうちに、矢磯は海岸沿いの崖にある洞窟を見つけ、奥まではいった。転倒して軽傷を負うが、引き換えに鳥居と絵馬を発見する。

 車中泊を経て、矢磯はかつて町に存在し、二十年ほど前に倒産した大間水産の廃墟を探索した。そこで、横倒しになったエビス像を発見し、奏太がまだ若いころ同社で養殖班長を勤めていたことと、同社社長の自宅をもつきとめた。

 社長の自宅も数十年来の廃屋となっていたが、会社の親睦会で進呈されたエビス像があった。さらに探索を進め、最後にポストから手紙を抜きとった。そこからつい最近の事実として、社長の一人息子、大間おおま 巨安こあが勤務先のホストクラブで着服事件を起こし、薬剤師の赤楠あかくすという恋人から音信不通を心配されているのを知った。

 赤楠へのアポ取りに成功した矢磯は、横浜市のファミレスで巨安について詳しい情報を入手した。さらに、大間水産は奏太に売上を着服されて倒産したこともわかった。

 巨安を追ってふたたび黒銀町にきた矢磯は、養殖場を外から監視していたが、赤楠とおぼしき人物の運転する車が養殖場に突入したのを受けて自分もむかった。あと少しで到着というときに、巨安と、巨安のもう一人の恋人で奏太の娘・礼美れみに拉致されてしまう。そして、養殖場に乱入したのはやはり赤楠であり、巨安は実質的に彼女の殺害を認めた。

 かろうじて巨安をいいくるめ、愛車に二人を乗せてその場を脱出した矢磯は、一時的な隠れ家として町外れの森林鉄道にあるトンネルに車ごと潜伏した。

 巨安が先に寝いった隙を突いて、矢磯は巨安が赤楠と礼美に二股をかけていたことを教える。見返りに、礼美は巨安の両親が、約四十年前に溺死して夜木聖町の海岸に漂着した奏太の両親の死体から金品をネコババしたこと、大間水産はその金で創立したこと、奏太が最初から復讐のために入社したことを教えた。赤楠が、巨安に殺害されたときの詳しいいきさつも知った。

 巨安は、両親から奏太の着服だけを聞かされ、ネコババについては知らされていなかった。

 翌朝、車からいなくなった二人を探した矢磯は、谷川で巨安に殺害された礼美の死体を発見する。その直後、巨安に背後をとられて人質にされた。

 そこへ、夜木聖町で会った警官の女性・鳥木とりき 彩絵さえがやってきた。実は巨安は、国際結婚詐欺組織の一員であり、以前から警察に見張られていた。同時に、彩絵と巨安は同郷の幼なじみでもあり、洞窟の鳥居と絵馬は二人で作ったものだった。

 矢磯の機転により、奏太が死んだ真相が明らかになった。すなわち巨安が黒幕となって、赤楠が調合した薬を礼美に使われることにより、毒殺されたことが暴露された。

 矢磯は、腕の負傷と引きかえに、強引に巨安から離れた。そこへ鳥木がピストルを撃ち、腕をやられた巨安は投降する。

 半年後、夜木聖町の海岸で、矢磯は鳥木から当人の左遷を告げられた。独断専行と、矢磯の負傷がその理由である。しかし、長年のこだわりが解決した彼女は、さっぱりした笑顔を浮かべた。

 二人が別れるところで終焉となる。

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