第42話 逃亡勇者と女神の憂鬱


不味い、不味い、不味いわ。


今迄、こんな絡めて使って来た事ないじゃない……


剣聖と賢者からの信仰が無くなったと思ったら……今度は聖女。


元とは言え、我々天界の住民を使うなんて卑怯よ。


しかも此処は私、イシュタスのみが女神として君臨する世界。


魔族側にも神は居るけど、人類側は一神教。


そして私は『あんな存在知らない』


魔族が信仰する神には天使は居ないから、私が知らない天使など居ない。


考えられる事は……どこか、他の世界からこの世界に流れ着いた天使という事になる。


あんな隠し玉があるなんて知らないわ。


大体『あれ』堕天使でしょう?


神や天使を戦いに参加させるなんてルール違反よ。


そんな事したら、神々の戦争になりかねない。


絶対に抗議してやるわ。


そして、私の意見が通らない時は……こちら側も最終兵器を投入してやるからね……


だけど、まずは……


◆◆◆


『勇者ライトよ!今すぐ、そこから逃げるのです! 逃げないと大変な事になります』


俺の頭の中に女神様の声が聞こえてくる。


天啓という奴だ。


この声が聞こえてくると言う事は非常事態が起きている可能性が高い。


『解りました! すぐに仲間を連れ撤収します』


『聖女も賢者も剣聖も魔族側に寝返りました! もう、貴方の味方じゃありません……最悪、貴方に危害を加えてくる可能性があります……一刻も早く逃げるのです』


『そんな事……信じられません……彼奴らは幼馴染で仲間です! 俺を裏切るなんて事は絶対にありません!』


『通常ならそうでしょう! ですが魔族側は卑怯にも新種のインキュバスをこの戦いに投じてきたのです』


『インキュバス?』


『そうです! 今迄のインキュバスやサキュバスであれば『聖なる力』で退けられました……ですがこの新種のインキュバスやサキュバスは対勇者パーティ用に作られ『聖なる力』を持つ者にこそ、より強く『魅了』がかかります』


『そんな、それでは三人は……』


『もう、インキュバスに魅了され虜になっています……命令されれば貴方はおろか親でも殺すでしょう……』


『そんな……』


『良いですか……対勇者用に作られたサキュバスは見た目は天使の様に美しいですが、それは偽りの姿です。本来の姿は恐ろしい魔族なのです。 すぐに逃げるのです……そして聖教国ではなく王国か帝国に逃げなさい! 対策が練れたら、また神託をおろします……そろそろ限界です……すぐに逃げるのです……良いですね』


『はっ』


まさか、三人が魔族の手に墜ちたなんて……


今の話では此処は知られている可能性がある。


すぐに逃げなくては……


俺は、身の回りの物を持ち、すぐに街を後にした。


◆◆◆


「ふぅ~どうにか勇者を逃がす事に成功したわね」


天界で女神イシュタスは鼻血を垂らしながら一息ついていた。


本来なら簡単に終わらせないといけない神託を長く続けたから、鼻血が出たじゃない。


問題なのは、相手側に『堕天使』が居ると言う事よ。


なんか強い存在が混ざっていると思ったのよね。


勇者を含む三職は『聖』に惹かれる。


私につぐ聖の属性を持つ天使に惹かれない筈はないわ。


こんなの反則も良い所だわ、神の世界のルール違反よ! 訴えてやるから。


と、いう訳で私は『上位神』に訴える事にしたの。


この世界は人間側の神である私と、魔族側の神である二人で治めている。


だけど、それにはルールがあり、それに違反した時だけ上位神に対しお伺いをたて、対処して貰う事が出来る。


敵に『堕天使』がいる。


これはどう考えても重要な違反だわ。


そんな事をして良いのなら、私だって勇者じゃ無く『天使を派遣』するわ。


光のオーブをかざし、上位神界に連絡をつけた。


『どうかしたのかね? 女神イシュタスよ』


誰か分からないが、上位の神と繋がったわ。


『邪神側に堕天使がいます……これは重要な違反だと思います。 なんだかのペナルティを課すべきです!』


『ふむふむ、そんな事が……ちょっと調べてみましょう。 暫しお待ちを……』


なんで、いつも待っている間オルゴールの音色が流れてくるのかしら……


随分、待たされるのね。


『それなら、なんの問題にもなりません。 他ならぬイシュタス自身が認めていますから……』


『嘘よ! 私が魔族側に天使がつく事を許したって言うの?』


『はい……』


『そんな記憶ないんだけど?』


そんな事許すはずがないじゃない?


『女神イシュタスが、異世界の者を召喚していた時代、邪神側からクレームが入った事があるのは覚えていますか?』


『なんとなくは……ね……でもそんな昔の事は覚えて無いわ』


『その時のやり取りで「あんた達もやればいいじゃない」そう女神イシュタスはおっしゃっていますよ!』


「それは……言ったかも知れないわね!」


「魔族側には異世界の存在を転移させる方法が無いにも関わらず『解った』と魔族側の神は認めました……つまり、異世界の者を使う事は他ならぬ、女神イシュタスからスタートして魔族側が認めた形で締結されています。 今現在、魔族に居る堕天使は別世界で神に謀反を起こし、その世界を追われた者です。 行き先が無く、幾つかの世界を彷徨い、困っていた異世界の堕天使を当時の魔族の神と魔王が受け入れて今に至ります……その為、これは違反していません」


「そんな……」


「あのですね……貴方は一時期、異世界から人間を召喚してチート能力を与え、無双させていたじゃないですか? 当時の魔族は地獄だったと思いますよ? それに比べたら遥かに良いじゃないですか?」


「それは……ですが今はしてないわ!」


「それは異世界人が、やたらとチートを欲しがったり、功績に対して欲求が強かったから辞めただけですよね? そこに魔族は関係ない。 兎も角、今回の件は、イシュタス自身が認めた事だから、何も問題無いですね」


「そんな……」


私と同じ『聖属性』の者が複数魔族に居る。


これでは、私が出ない限り、何時でも『勇者達』は獲られてしまう。


そういう事じゃない?


仕方ない、それならこちら側も最強の切り札を使わせて貰うわ。

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