第41話 ゴザリア国4

ジレネに返事をするため、俺とアンジェとエメットはレッドの背に乗りドラゴンヒルに向かっている。

アンジェとエメットは、必死に感情を抑えようとしているのが分かる。


そりゃそうだと思うよ、仲間にあんな非道なことをされて、許せるわけがない。

しかもジレネは、国を乗っ取られてしかたなく……とか言っているが、女王なのだぞ……乗っ取られたら死ぬ気で反撃しろよ。

我が身を安全なところにおいて、何ができるのだ。


王なら、民の先頭に立って行動しろよ!

ドラゴンヒルでは、俺たちが来ることが知らされたのだろう、ジレネが待っていた。

ジレネの前に立ち、俺たちの考えを伝える。


「俺たちが協力する条件は2つ!  1つ目は、ゴザリア国を乗っ取った神官と一部の貴族に対し、女王であるジレネ自らが先頭に立ち、有力貴族たちと共に蜂起すること! 2つ目はゴザリア国が、過去に攻め滅ぼしたシルティ王国の再興を、書面を書いて認めることだ」


ジレネは条件を飲むことを誓う。

そしてシルティ王国の再興を認めるという書面も書いてくれる。


やっとやる気になった女王を、有力貴族の城までホワイトが乗せて行くようだ。

ドラゴンとともにジレネが現れたと知れば、蜂起に二の足を踏む貴族たちも参集してくれるだろう。

ドラゴン族からの、せめてものプレゼントだな。


アンジェとエメットはゼピュロス国に帰ってもらい、俺とレッドはシルティ城に向かうことにする。

グレーには、レッドから事情を説明してもらうことにした。


シルティ王国の再興を認める書面を持ってシルティ城に到着すると、アリスが俺に抱きついてきた。

結婚式以来、ずっと離れていたからね。


シルティ国の現状を聞くと、住民が2万人を超えてきているらしい。

内政官たちの生き残りが、少しずつ戻ってきてくれたおかげで、なんとか街の運営ができているようだ。


アリスに、シルティ城の主だった人たちを集めてもらう。

まず、キメラオーガの話をする。


キメラオーガを作り出すために、エルフや獣人が犠牲になっている話、そのために奴隷制度を作った話を聞いて、全員が怒っている。


さらに話を続け、エルフや獣人の数が少なくなったため、スラムの人たちも犠牲にしているという話をする。

それを聞いて、全員が体を震わせて感情を抑えきれなくなっている。

スラムの人たちというのは、ゴザリア国に滅ぼされた国の人たちなのだ! 

つまり、シルティを守って、共に戦った仲間たちなのだ!


俺は、キメラオーガ軍の討伐に協力する見返りに、ジレネにシルティ王国の再興を認める書面を書いてもらったことをアリスに伝える。

そして、彼女に書面を渡す。


彼女にとって、願っていたことが実現したわけだが、ゴザリア国に対する怒りが強烈過ぎて、気持ちの整理ができないようだ。

『こんな非道な行いを、平気で行うゴザリア国の奴らから、国を認めてもらいたくもない』という気持ちだろうな。

シルティ城の主だった人たちも同様だ。


気持ちは分かる。


俺たちにとっては、ジレネ軍の蜂起に関する情報や、王都から討伐に向かうキメラオーガ軍の情報が必要だ。

マーベリックさんに、商人ネットワークを通じて、情報を探ってほしいと伝え、ゼピュロス国に戻る。


レッドがキメラオーガの件を、グレーに伝えてくれたようだ。

人族に興味を持たないグレーも、ゴザリア国の非道に怒ったそうである。


ゼピュロス国に戻り、対キメラオーガ戦についての確認を4人で行う。


「ジレネ軍とキメラオーガ軍の戦いが間もなく起こる。ジレネ軍が負けようが別に構わない。しかしジレネ軍の次は同盟国に襲いかかるかもしれない。そのため同盟国としては、キメラオーガの戦力と戦い方を知る必要がある。観戦武官それぞれに、キメラオーガの戦力分析や対策方法を分析してもらう。現状、キメラオーガと戦えそうなのはこの4人だけだが、キメラオーガのことを知らなければ戦いようがない」


「キメラオーガとの戦いも重要だが、キメラオーガと合体させるために捕らえられているエルフや獣人たちを、一刻も早く助け出さないといけない。そのための別働隊が必要だ。ゼピュロス国からも奴隷救出に参加してくれる志願兵を募ろうと思う」


ゼピュロス国では、サイレント部隊が救出してくれたエルフや獣人たちが500人増えている。

現在のゼピュロス国の住民数は1000人だ。

救出した奴隷の中に、エルフの男性が20人と獣人の男性が20人含まれていた。


彼ら全員が、キメラオーガと合体させるために捕らえられているエルフや獣人たちを、救出するための志願兵に名乗り出てくれる。


志願してくれた彼らのために、ミスリル製の武器や武具をドアーフに頼んで作ってもらっている。

また志願兵をレッドに運んでもらうためのゴンドラの製作も頼んでいる。

兵としての訓練も必要となるが、訓練はエメットが行ってくれている。


俺は、ゼピュロス国でいずれ起こるはずの戦闘を待ちつつ、1週間に1回の頻度で、ゼピュロス国とシルティ王国を往復している。


商人ネットワークからの情報により、ジレネ軍が集結し始めたことを知る。

ジレネ軍による蜂起が近いと判断した俺は、シルティ王国に常駐し、さらなる情報を集めるとともに、レッドとゴザリア国の王都の偵察を行う。


ゴザリア国の西部の貴族が主力となり、ジレネ軍が蜂起する。

その貴族連合の中心人物、エーリッヒが本拠地としているザクセン城に兵が集結している。

それを鎮圧するために、近々王都からキメラオーガ軍が討伐に向かったという情報が入る。


シルティ王国から急いでゼピュロス国に戻り、アンジェとエメットに獣人国、エルフ国、魔王国に連絡をしてもらう。

観戦武官が、大急ぎでゼピュロス国に集合する。


観戦武官と共に、ザクセン城を見渡せる、小高い山の上にゴンドラで移動する。

ゼピュロス国の志願兵は今回連れてきていない。


観戦に同行しているのは、エルフ国からはパトリック将軍、魔王国からは将軍ではないがミシェル王女だ。

獣人国からはロルフ将軍、シルティ国からは騎士のクリスが来ている。


クリスを乗せてきたグレーも戦況を眺めている。

キメラオーガに興味があるようだ。



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