第39話 ゴザリア国2

ホワイトと、その背に乗っていた女性が、王宮の中庭に降りて俺の方に向かって歩いてくる。

「この女性はドラゴン族を頼って来た女性だ。同じ人族のフウタが相談に乗ってやってくれないか」


ホワイト……さらっと……面倒なことを言ったな。


ホワイトが連れてきた女性が俺に話しかけてくる。

態度がデカいけど……誰……この人?


「あなたがフウタ殿ですか?」

「そうだが、あなたは誰ですか」


「ゴザリア国の元女王のジレネです。いやまだ女王かもしれません。国を出てきたので、私の扱いがどうなっているか分からないのです!」


何だ……最も会いたくない奴が来たぞ。

元女王と名乗ったが、なぜだ?

こいつをここに連れてきたら、ゴザリア国にゼピュロス国のことがバレてしまうじゃないか!


何やってくれているの、ホワイト兄さん!


「さっさとお帰りください! ここにはあなたを恨むものがたくさんいます! エルフ族と獣人族と言えば分かりますね。それに俺もゴザリア国に良い感情は持っていませんよ」


これでいい……さっさと帰ってくれ!

ホワイトには、後で文句言わないとな……


「エルフ族と獣人族の方には、大変ご迷惑をお掛けしたと思っております。しかし少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「ん〜、どうしようかな……少し待ってもらえますか。お〜い……アンジェとエメットを呼んできてくれないか。大急ぎだぞ!」


数分もしない内に、アンジェとエメットが走って来る。

2人とも俺の後ろに立ってはいるが、俺の前にいるのが、ゴザリア国の元女王と聞いて表情がどんどん険しくなっていく。

そりゃ、表情が険しくならないはずがないよな……


「話は聞く! あくまでも話を聞くだけだ! どうするかはこちらで考える。アンジェとエメット、俺もどんな話なのか知らないのだ。まずは聞くだけ聞こうじゃないか!」


アンジェとエメットは今にも掴みかかりそうになっている。

俺が手を伸ばして、彼らが前に出るのを止めている状態なのだ。


「ゴザリア王も私も、エルフ族や獣人族を奴隷にしようなどと思っていませんでした。そんなことを言っても意味がないことは分かっています。ゴザリア軍が行った奴隷狩りの責任がないとも言うつもりもありません」


ジレネが頭を下げているが、頭を下げるぐらいで済むことではない……


「ゴザリア国は小さな国でした。信じてはもらえないと思いますが、平和で穏やかな国だったのです。しかしゴザリア国の実権を、神官と一部の貴族に握られてから、国が大きく変わってしまったのです。国王の一族はお飾りとなりました」


「彼らは国の財政を無視して軍隊の増強を行いました。そのせいで国民に、耐えられないような重税が課せられたのです。彼らはそんなことなどお構いなしです。保有する軍隊を動かし、問答無用で近隣国に攻め込んでいきました」


「国の規模を超えて保有する軍隊は、戦力に物を言わせて、近隣国を次々占領していきました。占領した国から奪った富は、軍隊をさらに増やすために使われ、国民の重税は変わりません。国は大きくなりましたが、国民は誰も幸せになっていないのです」


「ゴザリア国という大国を得た神官と一部の貴族たちは、ユニマ国とエーデリア国を倒し、この世界全てを支配しようと考え始めました」


「しかし、ユニマ国とエーデリア国は強国です。そこで彼らは、自分たちの意のままに戦ってくれるキメラオーガによる無敵軍団を作ろうと考えたのです」


「目を付けたのが、傷ついた肉体を驚異的な速度で再生回復させる能力を持つ特異体質のオーガです。彼らはそのオーガを偶然見つけてしまったのです」


「彼らは狂喜乱舞します。さっそく捕獲部隊を派遣し、何百人という犠牲を払い、特異オーガの捕獲に成功しました」


「さっそく彼らは、特異オーガの体の一部を切り取り、切り取った部位からオーガを再生しようと試みます。何回もの失敗を経て、オーガを再生させる方法を発見してしまったのです」


「しかも、増殖させたコピーオーガにも、特異オーガの再生回復能力があったのです。その結果、コピーオーガからコピーオーガを作り出すことが可能となり、コピーオーガを何千何万と量産することが可能になりました」


「しかし調査の結果、コピーオーガの知的能力が極端に低いという問題点が判明します」


「彼らはコピーオーガを念話によって遠隔操作しようと考えていたので、コピーオーガの知的能力が極端に低いことに落胆し、計画を断念しようとします。しかしここで、余計なアイデアを出す研究者がでてきたのです」


「そのアイデアというのは、コピーオーガの頭部を別の生物の頭部と交換するというアイデアでした。頭部を交換しても、特異オーガの再生回復能力により、拒否反応なくオーガの体とその生物の脳が接続されるのではないかという仮説でした」


「その実験には、奴隷にされたエルフや獣人たちが使われました。実験は見事成功し、オーガとエルフ、あるいはオーガと獣人とのキメラオーガを作り出すことが可能となったのです」


「知的能力が格段に向上したキメラオーガですが、キメラオーガにさせられたエルフや獣人の怒りが凄まじく、とても念話が使える騎士の遠隔操作など、受け入れられそうにありませんでした。そこで、キメラオーガに対して薬物を使った洗脳が行われたのです」


「まず洗脳薬物により、キメラオーガの自我を奪いました。自我を奪われたキメラオーガは、念話が使える騎士の遠隔操作で自在に動かせるようになりました。さらに身体能力、防御力、俊敏性を向上させるために、キメラオーガにあらゆるドーピング薬が注入されました」


「ここまでの研究に、何百という数のエルフや獣人たちが犠牲になりました」


ここまで、ジレネの話を聞いていたアンジェとエメットが、我慢の限界を超える。

剣を抜いて、ジレネに飛びかかろうとする。


俺は「最後まで聞いてからだ」と、2人を制止する。




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