第7話 デラザ3
相手が間合いに入れば、無心で刀を抜いて切り捨てる。
敵を可哀想だとか、上手く切れなかったらどうしようとか、余計なことを考えたら負ける。
無心で刀を振り抜くことが大事なのだ。
相手が防具を身に着けていれば、防具をつけていない所を切る、あるいは防具の隙間を突くのがセオリーだ。そうしないと刀が傷むからね。
しかしあのナイフの切れ味からすると、この日本刀なら防具ごとというか、防具も人もまとめって両断できる気がするな!
盗賊団のリーダーが、両手で剣を斜め上に振り上げ、そのままの姿勢で俺のところに走ってくる。
その姿を見た時、こいつは俺より数段弱いことを確信する。
こういう殺り合いの時には、相手に自分の動きが読まれないようにしないとダメだ。
肩の動きや意識の向け方にも注意しないといけない。
こいつまるでダメだな!
こんな分かり易い動作で切り込んできたら、私の太刀筋はこうですよと教えてくれているようなものだ。
こんなバレバレの初動で、切られる相手などいないだろう。
相手が振り下ろすタイミングで、刃筋がぶれないように、体の重さを刀の重さに加えて振り抜く。
腕の部分を俺の刀が通過していくのだが、抵抗をまったく感じない。
思わず失敗したかと思ったぐらいだ。
しかしリーダーの腕が剣ごと地面に落ちる。盗賊団のリーダーも切られたことに気付いてないようだ。
状況が分からず。切り落とされた腕で攻撃を継続しようとしている。
やがて自分の状況を理解し、腕を抑えて座り込む。
命までは取るつもりはない。手当をすれば死ぬことはないだろう。
魔法のある世界なら回復魔法で、腕も元通りに治せるはずだ。
フウタの剣技はなかなかのものだぞ。
しかし女神様、あんな武器を転生者に与えてしまって大丈夫なのか?
ドラゴンでも両断できそうな、この世界最強の武器だと思うぞ!
フウタには言っていないが、あの棒が刀に変形した時、刀から放たれるオーラは尋常ではなかったぞ!
あれは神が所有すべきものであって、人が所有できるような代物ではない。
なぜフウタは、あの棒の強烈なオーラを浴び続けて平気なのだろう?
俺は刀を鞘に納める。
『棒に戻れ』と念じると、日本刀が元の棒に戻る。
この棒は本当にすごい。道具にも武器にもなる。
商隊を護衛する冒険者のリーダーと、商隊を代表する商人が走り寄ってくる。
深々と俺たちに頭を下げて感謝している。
商人の名前はマーベリックという。これから向かうデラザという街に住んでいるとのことだ。
冒険者のリーダーはガハリエという。筋骨隆々の若い男だ。
この商隊は複数の商店主で構成されており、護衛に守ってもらいながら、各地を商売で回っていたそうだ。
商売が一段落し、お金も儲かったのでデラザに戻る予定だったそうだ。
盗賊たちは商売で儲けたお金が狙いだったのだろう。
丁寧にお礼をされたので、そのまま立ち去るのもどうかと思い。
俺たちの名前を名乗っておいた。
「これからどちらに向かわれるのですか?」
「デラザです。その街に行くのは初めてなのですが、そこで道具類や日用品をまとめて買う予定です」
「おお〜、デラザに来られるなら、ぜひ私の屋敷にお泊まり下さい。知らない街で、良い店を探すのは大変ですよ! 私の娘に良い品を販売する店を案内させます」と、提案してくれる。
この世界のことは、国や街のことだけでなく、生活ルールすらまったく知らない。
それに肝心の商品の値段も分からない。分からない事だらけなのだ!
知らない街で揉め事を起こしたくないので、この話は渡りに船だ。
「分かりました、お世話になります」と即答する。
どうぞお乗りくださいという言葉に甘え、マーベリックさんの馬車に同乗することになった。
馬車に乗る前に、馬車を牽引する馬をちらっと見る。俺が知っている馬よりかなり大きい。
ホワイトバッファローに続き、こいつも魔物なのか!
目が草食動物の優しい目じゃないな。動作も荒々しい。
この世界には魔物じゃない動物はいないのかな?
荒々しかった馬だが、レッドを見た途端におとなしい動物に変身する。
レッドから漏れ出るドラゴンオーラに気付いたようだ。
なんでここにドラゴンが……ヤバい……とでも思ったのだろう。
そのまま馬車は、商隊と護衛と共にデラザに向かう。
俺たちが乗っている馬車を牽引する馬が、レッドから漏れるオーラで必要以上に怯えてしょんぼりして元気がない。
マーベリックさんも「あれ、どうしたのだろ……」と言いながら、やたらと汗をかいて緊張している。
俺たちは馬車から降りた方が良いかもしれないと思案していたら、レッドが漏れ出るオーラを完全に抑制してくれたようだ。
馬もマーベリックさんも元通りに復活する。良かった、良かった。
そんなことを思っているうちに、デラザの街に到着する。
デラザの検問所を抜けたところで商隊は解散した。
商人たちと護衛たちが別れの挨拶を交わしている。
俺とレッドも馬車から降りる。
街を見回してみる。街は建物の数も多いし、歩いている住民の数も多いようだ。
しかし明るい表情の住民が少ないという印象だ。
マーベリックさんが商人たちと別れの挨拶を交わしているところに、マーベリックさんの娘であるマディさんと、侍女さんが走ってくる。
商隊の到着が遅れていたので、安否を心配して街の入口まで迎えに来てしまったそうだ。
マーベリックさんがマディさんに、俺たちのことを説明している。
マディさんと侍女さんが、俺のところにやってくる。
父親を助けてもらったお礼を何度もしてくれる。
父親が無事に帰ってきた安堵感からか、マディさんは満面の笑顔だ。
「街にはたくさんの店がありますが、まじめな商売をしていない店もありますので、ぜひ私に街を案内させて下さいませ!」
「初めての街なので助かります。よろしくお願いします」
マディさんは、元気が良く可愛い感じの女性だ。商人の娘だけあって、愛想もいいし話上手だ。
案内されながら、街をキョロキョロ見ていて気がついた。
人族以外の種族は1人も歩いていない……
マディさんのお薦めの店で、日用品や工具類などの購入を終えることができた。
どれも安く買うことができたため、手持ちの金貨はほとんど使わないで残っている。
きっとマディさんが一緒にいるので、安くしてもらったようだ。商品の品質も良いと思う。
俺に似合う服や靴も選んでもらった。なかなか世話好きな女性のようだ。
いい買い物ができた気がする。
レッドは、人族の街を歩いて何だか楽しそうにしている。
馬車の中では、ドラゴンオーラの漏れ出しを抑制してくれたが、街中ではそれをすっかり忘れて歩いてしまったようだ。
人の姿になったレッドの容姿は最高の美人なのだが、行き交う若い男性たちは、レッドと顔を合わせようとしない。
向ける視線は、全て俺の方に向けられてくる。
『おまえ……マジか……怖くないのかよ?』という、俺を心配するような視線が向けられ続ける。
失礼な奴らだ。レッドはフレンドリードラゴンさんだぞ!
マディさんも侍女さんも、レッドと距離をおいて歩いている。
常に間に俺を挟んで話している。俺を壁にしている感じだ。
レッドに緊張というか恐怖みたいなのを感じているのかもしれない。
それに気づいたレッドが、ドラゴンオーラの漏れ出しを完全に抑制してくれたようだ。
マディさんも侍女さんの、緊張というか恐怖が消えたようだ。
ところで建物が中世のヨーロッパ風ということは、この世界には貴族とか王とかもいるのだろうか?
俺は興味ないけどね。
買い物が終わったので、マディさんに案内されてマーベリックさんの屋敷に向かっている。
マーベリックさんの屋敷は、立派な屋敷が並ぶ屋敷街の中に建っているようだ。お金持ちなのだな。
買い物は、すべてマジックバックに入れた。
たくさんの商品を購入したので全部入るか心配したのだが、全く問題なく収納されていく。
しかもマジックバックの重さは変わらない。最高だな。
マディさんによると、マジックバックは商人にとって憧れのアイテムだそうだ。
確かに商品の運搬が実に楽だ。
しかし、マジックバックは軍備や糧食も運べるため、貴族に目を付けられて軍に無理やり徴兵されたり、難癖をつけられて没収されたりするらしい。
またマジックバックが高く転売できることから、盗賊連中からも目を付けられ易いそうだ。
とにかくマジックバックを使うところは、他人に見られないようにしないよう注意して下さいとのことだ。
街は街でいろいろ物騒だな。
ということを考えると、あの荒地が一番のんびりと暮らせる場所になるのかな?
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