第6話 デラザ2

レッドが森の中に突き出た岩場の上に着地してくれた。


すぐに街に向かって出発したいが、この森にも魔物がいると思う。

魔物に襲われた時のことも考えておかないといけない。

俺を魔物から守って下さいとは、さすがにレッドに頼めない気がする!


「魔物が出てきても少しは戦えるように、刀の素振りをしておきたい。少しの間、待っていてくれないかな」


「いいぞ。フウタが魔物とどう戦うのか、興味があるしな!」


バックから棒を取り出し『刀になれ』と念じる。

棒が鞘付きの日本刀に変化する。スルリと刀を抜いてみる。

如何にも切れ味良さそうな刃文が浮き上がっている。


この日本刀も、あのスーパーナイフと同じ切れ味なのかと思うと緊張するな。

やはり刀の扱いを練習しておいて正解だ。

この刀だと、間違えて自分の足を切ったりしたら大怪我では済まないような気がする。


「刀を振り回してみるね」


刀を両手で持って、軽く縦横に素振りをしてみる。

安定して刀を振れるように、足の置き場所を微妙に変えていく。

少しずつだが、良い構えに修正されてきている気がする。


姿勢や筋肉の使い方に気に注意を払いながら、丁寧に刀を振っていく。

だんだんと刃筋がブレない良い素振りになってきている。


さらに素振りを繰り返す。しかし無闇に素振りの回数を増やしても意味がない。

刀の重さに、自身の重さを乗せることもできてきた。

姿勢をつなげて、頭や腕、胴体、足といった各パーツを一体化して動かせているようだ。


いい感じに振れてきた!


それにしても刃筋がブレないなんて言葉が、なぜ普通に頭に浮かんでくるのだろう?

前世で、刀の扱いをかなり鍛錬していたのかもしれないな!


そういった記憶は残っているのだな!

それにしても、俺は前世で何をやっていた人なのだろう?


もうしばらく素振りを続けていると、足の開き方や刀を構える姿勢も様になってくる。

もう十分だと、なぜか納得した。素振りを切り上げることにしよう。

『棒に戻れ』と念じて、日本刀を元の棒に戻しバックに収めた。


フウタの奴、随分と刀の扱いに慣れているみたいだな。

それにしても、あの刀は変わっているな。騎士が持っている剣とは少し形状が違うみたいだぞ。

本当に分からないやつだ。フウタのやることは、見ていて飽きないな。


「街に行こう!」

レッドとともに森を移動していく。


この森の中にも多くの魔物がいるはずなのだが、ドラゴンと一緒だと1体も出てこない。

ドラゴンの放つオーラを感じて、魔物は全て遠くに逃げ出してしまったみたいだ。

それならそれでいい。彼らも生きている訳だし、意味もなく命を奪いたくない。


ちなみに俺は、魔物が挙って逃げ出したドラゴンオーラを、なぜか心地良く感じている。

ドラゴンオーラに、優しさとか温かみとかを感じるのは俺だけなのかな? 

フレンドリードラゴンさんだと思うのだが!


それにしても、転生した体のスペックがいいのか、狼並みの速度で森を移動している。

なぜそんなことが……

倒木なんかも、ピョンピョンと軽快に飛び越えて走り抜けている。


しかもまったく疲れない。若いからか?


フウタは魔法が使えないとか言っていたが、この移動速度は驚きだな! 

転生した時に女神から加護を受けているのかな?

それとも剣技と同じで、前世で覚えた技なのか? 


しかしフウタが魔法を使えないとは、とても思えないな。

使えないのではなくて、魔法の使い方が分からないだけではないのかな? 

そのうち教えてやるか……あいつがどう変わっていくのか楽しみだ……


その時、前方の右方角から大勢で争っている声が聞こえる。


警戒しながら、少しずつ声がする方向に移動していく。やがて大勢が争っている様子が見えてくる。

護衛10人に守られた商隊を、盗賊団30人が襲撃しているようだ。

盗賊団らしき者たちの顔が布で覆われていない。素顔を全員さらけ出している!


素顔をさらけ出しているということは、金目の物を奪えば、商隊も護衛も全て始末する積もりなのだろう。

強盗殺人だぞ、嫌な奴らだ!

戦い開始となれば、人数の少ない商隊側が不利だろうな。


見捨てれば、全員始末されてしまうだろう。


盗賊団が俺と人の姿になったレッドを見つけたみたいだ。

こちらの方に敵意を向け始める。すでに数名の盗賊たちがこちらに向かって走ってきている。

レッドが、盗賊たちに威圧スキルを放出し始める。


ドラゴンの威圧スキルをもろに受けて、あっという間に盗賊は動けなくなる。

苦しそうだな! 死にそうな顔をして恐怖と戦っている。

額に脂汗が流れ続けている者もいる。


ドラゴンが威圧すれば、普通はこうなるのか……

しかし、なんで俺は平気なのだろう? 


最初にレッドと会った時「私が怖くないのか?」と、不思議がっていた訳が分かる気がする。

俺と最初にあった時、盗賊団にしたように俺を威圧していたのだろうな。

不思議だ……


レッドが盗賊団全体に威圧エリアを広げ始める。盗賊団全員が苦しみ始める。

しばらくすると、盗賊団がその場に蹲って動けなくなってしまう。失神している者もいるようだ。

そのエリアに入ってしまっている商隊の護衛の一部も動けなくなって苦しんでいる。


盗賊団のリーダーだけが、何とかレッドの威圧に耐えて頑張っている。

だが顔色が悪い。

リーダーは俺に目を付けたようだ。一番弱そうに見えたのだろう。


こいつさえ人質にすれば、劣勢を逆転できると判断したようだ。

俺の方に向かって駆けてくる。

手には剣が握られている。


殺し合いになるな……人を殺したりしたくないのだけどな……


なぜ俺は、この状況を怖がっていないのかな……普通は怖いでしょ……

前世の経験で、こういう命のやり取りに慣れているのかもしれない。

俺は、前世で何をやっていたのかな!


俺はバックから棒を取り出し『刀になれ』と念じる。棒が鞘付きの日本刀に変化する。

『居合術』という言葉が、なぜか頭の中に浮かんできた。

刀をベルトの左側に差す。右ひざを前に出しながら、柄に右手添えて低い姿勢で構える。


自然に体が動く。

俺の意識の中で、この相手なら居合術で十分だと判断している。

日本刀は刀と刀で叩きあうものではないから、居合術で勝負がついてほしい。


フウタが、また妙なことをやり始めたな。

この世界の剣術と構え方が違う。


面白いな。お前の剣技を見せてくれ。

期待しているぞ。


俺が刀を抜いていないので、相手は俺の刀が届く間合いが分からない。

一方俺は、相手が無造作に剣を構えてくれているため、相手の剣の届く間合いが分かるのだ。


間合いが分かる俺が有利、分からない相手は不利という状況を作ることができた。


相手は名人級ではないようだし、これで俺の勝ちは確定だ。

命のやり取りの緊張感に負けて、抜刀を失敗しなければ問題ないだろう。







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