第3話 ドラゴンさん登場2

「ドラゴンさん、これからも一緒にいてくれるのですか? ありがとうございます。この荒地に俺1人では寂しすぎます。話し相手がいてすごくうれしいです」


一緒にいてくれなどと、今まで言われたことがないぞ! しかし言われてみると何だかうれしいものだな。しかし話し相手とはなんだ……私はドラゴンだぞ。畏怖の対象なのだぞ……まあいいか。


それにしてもまあいいかと、何度も言っている気がする。


「私を怖がらない人族は、お前が初めてだ。」


ところで俺には名前があるのかな。思い出せないな。

どうするかな? 名無しでは不便だし、適当な名前を付けておくか。

この荒地にはいつも風が吹いているから、フウタとでもしておくか。適当すぎるかな?


どうせこの荒地には、俺とドラゴンしかいない。名前なんか気にしても意味がないだろう。なんでもいいよな。


「ドラゴンさん! 俺の名前は、フウタといいます。よろしくお願いします。ところでこの棒は何に使うのでしょうか?」


「マジックバックと同じじゃないか。手に持って鋸になれとか、鍬になれとか念じてみたらどうだ」


俺は棒を手で握って『鋸になれ』と念じる。

棒が鋸に変形した。これは便利な棒だ。

これ1つでいろいろな道具に変形するのか! これ1つあれば、道具要らずという代物だな。


食べ物と道具が揃ったな。

この世で何とか生きていけそうな気がしてきた。


しかし今の状況は、のんびりと幸せに暮らせるとは程遠い気がする。餓死はしそうにないけど、何か納得いかない。だけどそんなことを思ってみたところで、女神様には声は届かないし、意味がないから止めよう。


鋸を手で握って『ナイフになれ』と念じてみる。

鋸がナイフに変形した。


「このナイフがどの程度使えるのか確認してみます」

ナイフでリンゴの皮を剥いてみる。凄く薄く剥けた。切れ味が最高だ。何の抵抗もなく皮が薄く剥ける。


「この種の中に、大きな木に育つ種はあるのでしょうか」


「きっとこの種だと思うぞ」

ドラゴンがクンクンと種の匂いを嗅ぎながらいう。


その種を、さっき種を撒いた場所から少し離れた場所に蒔いてみる。

マジックバックで水を掛けると芽が出て枝が伸びて、どんどん木が大きく成長していく。

やがて成長がとまり巨木となった。高さは20m以上あるだろう。

当然、幹はとてつもなく太い。直径は3mぐらいありそうだ。


巨木なので、横に伸びている枝も、直径が30cmぐらいある。

試しにナイフで太い枝を切ってみた。普通なら切れないはずなのだが、ナイフを枝に当てたとたんにスーと枝を切り落とすことができる。


ほとんど抵抗なく切れる。


これは、すごい切れ味だ。自分の指を切ってしまっても、指が切れたことに気付かないレベルだ。

切れ味が良すぎるというのは少し怖い気がする。扱いに気をつけなくては。


スー、スー! 切り取った太い枝を輪切りにしていく。ほとんど抵抗なく切れる。

ナイフを動かせば、腕に力を入れなくても、ナイフの重さだけで切れていく。

太い木の枝なのに、大根を輪切りにしている感じで切れる。


輪切りにした枝を削りながら皿の形に整えていく。力はまったくいらない。

しかも切ったり、削ったりした面が、鉋で削ったようにツルツルなのだ。

まな板にフォークにスプーンと、木の加工が進んでいく。


加工している本人が一番楽しんでいる。

まさにスーパーナイフだ。切るのに力が要らないから、使っていても全然疲れない。


フウタの持っているナイフはすごい切れ味だぞ。

あれならドラゴンの硬い皮膚も、簡単に切れてしまうのではないか。

女神様からのプレゼントなのだろうが、恐ろしいものをプレゼントしたものだ。

あんな物を人族に渡して大丈夫なのか!


ナイフを使うのは楽しいのだが、どう考えても現状は、サバイバル生活だと思う。

道具が立派になっただけだ。

餓死する心配はなくなったものの、のんびりと幸せに暮らせるとはかけ離れている。


今のこの状況にタイトルを付けるとすれば、ドラゴンと暮らす荒野サバイバル生活だな。


もう少しで日が暮れそうだ。枝を切って薪を作らないと真っ暗になってしまう。

スーパーナイフでどんどん薪を作っていく。


「あの〜、ドラゴンさん! 薪に火を付けていただけないでしょうか?」

「いいぞ」


また、こいつ! 言うことを聞いてしまったじゃないか。

ドラゴンを小間使いにするなどという奴は、誰もいなかったはずだ!

他のドラゴン族にこの様子を見られたりしたら一悶着あるかもな!


ドラゴンの爪先から小さな火が出て、薪に火が付く。火があれば暗くなっても安心だよ。

後は寝るところがほしいな。今から家を作るのは無理だけど、地面で寝るのも辛いな。


ひょっとするとマジックバックに手を入れて『家』と念じれば、家が出てきたりするのかな。

まさかな!

しかし衣食住の食が何とかなったのなら、住もなんとかなる気がするぞ。


マジックバックに手を入れて『家』と念じてみた。

袋の中で手に当たるものがある。マジックバックに収納されている家なのかな。

手に当たるものを掴んで、外に引っ張り出してみた。


平屋の家が空中に浮かんでいる。

掴んだ家が空中に浮かんで静止している様子は、俺からするとすごい光景だ。


そのまま家を置きたい場所に移動して降ろす。

家の向きも微調整できるようだ。


マジックバックの大きさからすると、この中に家が収納できるわけがない。

マジックバックの機能は、収納したいものを小型化して、別空間に転送することなのかな? 


家は木造の別荘あるいはペンション風の建物だ。家の中に入ってみると部屋がいつくかあり、ベッドやトイレ、キッチンなどの設備も完備されている。食器類もある。

枝を加工して皿とか作る必要などなかったのか。まあ楽しかったからいいけど。


家がでてきて文化度が急上昇だ。生活が充実してきたな。

サバイバル脱出になってきている気がする。


ひょっとして、『大きな家』と念じれば、大きな屋敷も出てくるのかな。住人が増えるようなことがあれば、その時に試してみることにしよう。


女神様、家までマジックバックに入っているとは思いませんでした。食料と家があれば、のんびりと幸せに暮らせるに近づいてきました。

しかし贅沢かもしれないですが、荒地の光景は今ひとつだと思います。


頭の中で、いろいろ女神様に語りかけてみるも反応はなしだ。


とにかくこの荒地で、のんびりと幸せに暮らすことにします。ドラゴンさんもいるから淋しくないし。

ドラゴンさんは、時々何か考え込んでいるみたいけど、怒ってはいないと思う。

聞くのは止めておいた方がいいね。


イメージしていた生活と少し違うけど、いつまでも不満に思っていても仕方ない。

このままドラゴンさんと暮らしてもいいしね。


ドラゴンさんに会わなければ、諦めて死んでいた訳だから。

今の状況は丸儲けだよ。そう思うことにしよう。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る