荒野で途方に暮れていたらドラゴンが嫁になりました

ゲンタ

第1話 荒地にたった1人

時々風の音が聞こえる。それ以外の音は聞こえない。

少しずつと意識がハッキリしてくる。眠っていたのかな? 眩しいけど目を開けてみよう。

目の前に赤茶けた荒地がどこまでも広がっている。周りを見るが誰もいない。


荒地にポツンと1人で座っているようだ。

ここにいるのは俺だけのようだな。


見回しても草も木も生えていない。まさにザ荒地なのだ。

川や池らしいものも見当たらない。空気は乾燥している。水気がなければ木や草は育たないはずだ。

見たところ、木や草どころかサボテンすら生えていない。


とにかく生き物の気配はしない。

誰かいませんか……生き物いませんか……


生き物は俺だけなのか……嫌だな。

木や草も生えていないぐらいだから、生き物がいる訳ないか。


ずっと遠くに、僅かに緑が見えている。森がある!

森なら水があるはずだ。しかしここから森まではかなり距離があるな。


とにかく人間、水がないと生きていけない。食い物もね!

水なし食い物なし……このままでは……死ぬな……

一先ず落ち着いて、冷静に考えた方がいいな。


生きるためには、頑張って森まで歩いて行くしかない! 

森まで行けば、食べられる木の実や野草なんかがありそうだ。

少なくとも、木の実で水分補給はできるはず。


食べられる木の実や野草があるのなら、それに集まるウサギや鳥なんかを捕まえれば、肉も食べられる。


そうなると生き残るためには、森で暮らせということが結論になるのかな?


それにしても……道具も武器もないのに、サバイバル生活とかできるのだろうか? 

石斧とか作って、縄を編んでとか無理だぞ! それって原始人だよな!


俺はこの先、森で原始人みたいに生きていくことになるのか! 

サバイバルできたとしても、その生活はどうなのだ!


辛そうな生活だな……でも慣れれば楽しいのかな? 

いや絶対楽しくないと思う。強く思う!


今のこの状況はなんだろう? 何かの罰ゲームなのか? 

俺、何か悪いことしたかな?

自問自答を続けてみたけど、いい考えは浮かばない。堂々巡りと言うやつだ。


考えを整理しよう……

ここにいて死ぬか? 森でサバイバル生活をするか? 

この2択だな……どちらも嫌だけど……


そう思いながら森をじっと見る。あそこに行かないとダメなのか……

もう一度、森をじっと見る。ため息が出てくる。


あの森を見る度に『森は危険! 危険! 行けば死ぬ! 死ぬ!』という言葉が頭の中で警鐘を鳴らす。

たしかに森からは禍々しく危険オーラが出ているのだ。

こういう時は、森に行くという選択肢は捨てた方がいいのだが……


じゃあ……どうする!


森は危険だし、ここに留まっても水も食べる物もない。

それがなければ生きられない。打開策は浮かばない。

そうなると結論はシンプルだ。死亡確定だ。出てもらいたくない結論だけど……


結論が出たからには、これ以上生き残る方法について、あれこれ考えても意味がない。

考える方向性を変えよう。


そもそも俺は、なぜこんな荒地に座っているのだろう? 


まずはそこだな。そこに生き残れるチャンスがあるかもしれない。考えろ! 考えろ!

何事も視点を変えて思考することは大事だ。


何にも思いつかない……ダメか……

では、別の視点だ。


どうやってここまで移動して来たのだろう? 


そもそも自分が移動している記憶がないというのはおかしい。

それにこんな荒地に来る目的なんか、まったく思いつかない。ある訳ない!

そもそも水も食料も持たないで、こんなところに来るか……という話だよ!


いろいろ疑問が浮かぶ。


自身の手とか足とかを見ると人間のものだし、服も着ていて、靴も履いている。

やっぱり人間だよな……


しかしこの状況においては、残念な事実なのだよ。

人間じゃなくて鳥とかだったら、別の場所に飛んで行けるのに……残念だ。


いろいろ考えてみると、自分の意思でここに歩いて来たという可能性は低い。

そうなると、この場所に瞬間移動、たとえば転生したという可能性が高いのではないだろうか。


もしも俺が転生者なら、希望の光が見えてくるよな!

転生者特典みたいなものをもらっていないか調べてみる必要がある。

たとえば魔法が使えるとか、特殊なスキルを持っているとかだよ。


もしもそういうのが使えるなら、この厳しい環境でも生きていける可能性がでてくるぞ。

何か希望が湧いてきた。


『火』、『氷』、『水』、『風』、『雷』、『飛行』……考えつく限りの言葉を唱えてみた。結果は反応なしだ。

言葉の代わりに頭の中で強く念じる方式も試してみたが反応なし。

唱える回数に問題があるのかと、いろんな組合せパターンを試してみたが全部反応なし。


少しずつ希望が絶望に変わっていく。


全くダメだ…… 

俺は、まるっきり普通の人間じゃないか! 

ダメだ……生きていけない……という結論になっていく。


死ぬなら餓死か……骨と皮になって……

ここにいる理由すら分からないのに!


転生しました! すぐに死にました! アホでしょ!

こんなの間抜けな死に方は絶対嫌だぞ。


死に方もいろいろあるでしょ!

そういえば、飢えて死ぬのが一番苦しいと、何かで読んだことがある。


心の中を恐怖と怒りがぐるぐる駆け巡る。

もうダメだ。


ここは落ち着け! 深呼吸するか。

よし! 死ぬことは受け入れた! しかし死ぬにしてもだ……

せめて転生した理由ぐらいは知ってから死にたい。


必死に記憶を思い起こしていくと、美しい女神様と話をしている場面が浮かんでくる。


「私と仲のいい神がいてね。あなたのことをすごく褒めていたのよ。前世でたくさんの民を助けてくれたようですね。そなたが望む転生先があるなら希望を叶えましょう」


そうだ! そうなのだ!

そんな話を、女神様が仰っていた! 思い出してきたぞ!


その言葉を女神様から聞いた俺は、それならば、のんびりと幸せに暮らせる転生先をお願いしますと、答えたと記憶がある。絶対にそう伝えたはずだ!


なのに……

この状況はどういうことなの?


目の前に広がる荒地と、のんびりと幸せには、どこがどうすれば結びつくのだろう?

転生にも当たりと外れがあるということか!

俺は騙されたのか! 転生詐欺か!


たくさんの民を助けた理由は思い出せないけど、人助けは良いことだよな……

何でこうなった!


座るのに丁度いい石に腰掛けたまま途方に暮れる。

ため息しか出てこない。悔しい! 怒りも湧いてくる!


「女神様! 聞こえているなら答えて下さい! いくらなんでもこれは酷いです! 転生者を誰かと間違えていませんか? 絶対間違えていますよ! このままでは俺は死んでしまいます!」と、大声で空に向かって叫ぶ。


何の反応もなし。荒地には風の音しかしない。女神様からも返事なし。


水も食料もない、そのうち文句を言う元気もなくなるだろう。

元気がなくなる前に、10回は叫んでおいてやる!


女神様の返事はない。もう馬鹿らしくなったので叫ぶのを止める。

声が枯れてきた。喉も渇くし、腹も減る。


もう止めた。この世界で俺がやったことは、女神様に文句をいったことだけか!

アホらしすぎる! もうどうでもいい。

でも死んだら女神様のところに戻って苦情申し立てだ!


死ぬことを受け入れ覚悟を決めたら、なんだか眠くなってきた。もう寝よ。

このまま目覚めないでもいい。眠っている間に死ぬなら、それでいい。


その時、腰掛けていた石が動き始める。

なんで石が動く? 

石が動こうが何が起ころうが、もうどうでもいいや!


これ以上、状況が悪くなることはないはずだ。









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