第56話 マジックショー開演
一人では完成させることができなかった、神の領域に王手を掛けたと国家公認の魔法使い統括が認める固有魔法。そして世界序列第九位の魔法使いとしての才覚溢れた魔法でもある。
小柳千里は世界に対して魔法を掛けることができる。
ただしその準備には時間がかかり過ぎるため、発動条件が少しネックとなっている。
だけどそれをクリアさえすれば、魔法使いとして絶対的なアドバンテージを手に入れることができる。
急激に減少する魔力にアルベルトが警戒するが、そこに何の意味もない。
「この魔法は私の創造を具現化します。如何に貴方が優れたプロテクトや魔法を持っていても妨害することはできません」
「どうしてそう言いきれる?」
「God gave me a mystery(神が神秘を授けた)」
「なんだ……この魔法は……」
「power given on a whim(気まぐれで与えられた力) stimulated the greed of foolish people(愚かな人間の欲を刺激した)」
小柳の空間支配率が上がっていく。
その範囲も一緒に広げて、風景が侵食され始める。
「God will see to it(神は見届ける) stupidity of people(人の愚かさを)」
隔離された世界は小柳千里だけが認めた者だけが立ち入ることができる別次元の世界。
見渡す限り何もない空間は逆に異常な光景だった。
草原でも野原でもない。
かといって砂漠でもない。
ただただ広がる何もない空間。
「a foolish person wished(愚かな人は願った)the primordial world(始原の世界を)」
「詠唱は違う。だけど、これは月夜野と同じ魔法……小娘一体何者だ?」
「私が持つ世界の一つ。始原の世界です。この世界には私に選ばれた者しか立ち入ることはできませんし、私の許しなしでは元の世界に戻ることも干渉することもできません」
アルベルトの心が支配した由香里を含む多くの者とのリンクが強制的に解除され、生死の確認すら出来なくなった。
「『時空神論』ではこう記されています。魂を別世界と繋げ、そこに何かしらの因果関係を結ぶことができれば二つの次元が交わる現象が起きる、と。私がやっていることはその真似事です。が――」
小柳がなにかを確認するように質問する。
「私が支配する世界を見て貴方はなにを感じますか? これだけでも息苦しいとは思いませんか?」
「なにが言いたい?」
「貴方がやろうとしていることは、私が支配する始原の世界の延長線上だと言うことです。そして私の許可がなければ、自由が制限される」
既に空間支配率は小柳が七割でアルベルト三割。
魔法を使うためにもアルベルトはいつも以上に魔力を使わなければならない。
そして――。
「この世界では魔法が制限される。先ほどのような魔法は使えません」
「なるほど。オリジナルにかなり近い世界というわけか……厄介だな」
「と言っても、私は月夜野美琴のような封印魔法は使えません。私の得意分野ではありませんので」
「アハハ! あははははッ!」
アルベルトが大声で笑う。
「それでどうやって俺を倒すつもりだ?」
「だから、私は明久君を呼びます。後は明久君が何とかしてくれます」
小柳が指をパチンッと鳴らすと、それを合図に東城明久が始原の世界に姿を見せる。
これは幻術ではない。
正真正銘の東城明久である。
幾つか条件こそあるが小柳千里が認めた者なら、両者が合意すれば点と点を結ぶように世界を超えて救援として駆け付けることができる。
「この世界では私が許可した幻術魔法と座標変更以外の魔法は制限されます。発動できない魔法は発動できませんし、発動できる魔法は第四世代魔法まで。なにより罪人扱いの貴方は私と明久君の空間支配率分の魔力を余計に消費し脳の許容容量にも負荷を与えないと魔法を発動できません」
現在が第八世代魔法だと言うことを考えれば、効率の良い魔法の大半は使えない。
正確には魔法発動のために、必要な魔力素粒子がこの世に存在しない。
だから使えない。
幻術魔法は世界の主による特例。座標変更は第三世代魔法。となっており、始原の世界は小柳千里が東城明久の為に用意した舞台とも言えた。
「人の心を弄んで楽しかったか?」
殺意のこもった言葉は真っ直ぐに東城からアルベルトに向けられる。
好きな人を振り向かせたい、喜んでもらいたい、楽しんでもらいたい、そんなエンターテインメント溢れる気持ちで魔法を覚え、今でもそう言った風に本当は魔法を使いたいと願う東城と私利私欲のために魔法を使うアルベルトの視線が交差する。
「最早誰のことを言っているのかわからんが、お前にだって支配欲の一つや二つあるはずだ」
人間が持つ欲求の一つ。
持っていて当然だ。
「あるさ。でも理性もある。人は獣じゃない。本能を制御する為の理性がある」
「それは本能に忠実になって嫌われないか心配しているだけの弱虫の言葉じゃないのか?」
「その考え方は間違ってる」
「そうか。では、俺は俺の理想郷のためにお前たちを殺すことにしよう。閃光桜(シャイニングチェリーブロッサム)」
閃光のような光の一撃が桜吹雪のように一瞬で広がり、広範囲からの攻撃を可能にする。
魔力レーダーでそれらをいち早く感知した東城は最小限の動きで攻撃を躱していく。
「ほぉ。では間隔を狭くするとしよう」
人の身体では避けきれない隙間しかない攻撃に東城が撃ち抜かれる。
「精巧な幻術……か」
攻撃の嵐は止まない。
すぐに幻術魔法で作られた虚像だと見破ったアルベルトが魔力レーダーで探知した魔力源に対して自動で一斉攻撃を仕掛ける。
狙われたことで始原の世界に隠れていた東城が一斉に姿を見せる。
虚像の一部は攻撃を避けることなく、ただ歩いてアルベルトに近づいていく。
そして残りの一部が攻撃を躱し、実体をその中に隠す。
「レーダーが本物と誤認するレベルでの幻術魔法。黒魔法使いの幻術魔法に小娘の幻術魔法を重ねているのか……。思考パターンとプロテクトが二つ存在するのはそのため……」
やや不機嫌になるアルベルト。
第二世代魔法の欠点である標準機能として備わっている自動攻撃機能を意図的に使わせることで東城はアルベルトの反応を見る。
五十の同時攻撃は少なくともアルベルトが気にするレベルで魔力を消費させることができたみたいだ。
「それだけではない。俺の意識が逸れた隙を付いて、小娘が隠れた。これでは精神汚染による強制解除すらできない、ただの間抜けではないようだな」
幻術魔法で姿を隠した小柳は静かに息を潜める。
同時に裏から東城を支える。
「小娘出てこい。でなければ次は本気でこの男を殺しに行く」
「まるで俺を殺せる口ぶりだな」
「そう聞こえなかったか?」
ふむっ、と左手を口元に持っていき、何処に隠れたかを考え始めるアルベルトは幻術魔法で作られた東城の集団の中を意にも介さず歩く。
「お前が無視出来るほど俺は弱くないぜ?」
魔法で生成した剣先を東城が向ける。
取り囲んで突き付けられた剣にアルベルトが止まる。
「俺は不老不死だ」
「だから?」
「お前が精神干渉の隙を狙っていることはお見通しだ。なによりお前が俺を倒す方法を今も模索していることもわかる」
考えが読まれた東城は攻撃に出る。
持っていた剣を投げ、杖を生成し武器交換。
ブースターを使い薄暗い空からの遠距離攻撃を開始。
「時空系魔法は魔力消費が激しいから使いたくはなかったが仕方がない」
そしてマジックショーが今から始まるように、それなら、と呟いてから、「Ladies and gentlemen」と声をだす。それを合図に東城の魔力反応が急激にあがる。
アルベルトの思考が一瞬止まった隙を見計らって座標変更を使い適度な距離も取る。
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