第三章 決戦
第54話 その噂は嘘か誠か
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日本に核ミサイルと魔導ミサイルが落ちた。
全土が核と高密度魔力に包まれる。
直撃を避けても爆撃によって生まれた炎と衝撃波が都市を襲い建物が壊れ、辺り一面炎が埋め尽くす。また高密度魔力が爆風によって広範囲に広がり、魔力耐性がない者たちが呼吸困難や内臓にダメージを受け倒れていく。
そんな地獄のような光景が生まれる予定だった。
だが実際は鉄の塊が落ちただけで、アシュラ兵が地下牢に侵入しアルベルトが復活しただけだった。ミサイルによる被害は爆心地となった高層マンションが一棟破壊されただけ。その高層マンションはアルベルトを封印している上に建てられた敵の目を欺く為だけに建てられた偽造用のマンションで、一般人は誰も住んでいなかった。
「ほぉ? 今の魔法使いには面白い奴がいるのか」
福岡に落とされた魔導ミサイルの残骸を見て、
「だが、このエネルギーは一体どこに消えた……」
と、復活したばかりのアルベルトは少し悩む。
たしかに化学反応は起こしている。なのに、中のエネルギーだけが何処かに消えた。そんな不思議な現象に違和感を覚えたアルベルトは脱獄を手伝ってくれた部下に質問するも誰一人その疑問を解決することは出来なかった。
「距離はバラバラだがこちらになにか向かっている」
魔力レーダーで感知した未確認飛行物体が飛んで来る方向に警戒心を向けるアルベルトはアシュラ兵からタバコを受け取り吹かす。
「まぁ、誰でもいい。敵なら寝起きの準備運動程度にはなるだろう」
余裕の素振りを見せ、近くの瓦礫の上に座って味わいながら一服を始めた。
高速輸送機からパラシュートなしの自由落下でアルベルトの前にやって来た小柳と坂本。
年齢不詳。威厳のある顔。額から目下に伸びた傷。日本で第一位とされる最強の国家公認の魔法使いと同程度の魔力量。その魔力量は小柳を上回る。筋肉質な身体はとても数百年封印されていたとは思えない程に鍛え上げられている。心を守るプロテクトはアブルート。
「ほぉ? 雑魚が一匹と骨のある女が一人。何の用だ小娘?」
「私は国家公認の魔法使いの一人大幻想魔法使い(ファントム・オブ・マジシャン)と呼ばれている者です」
小柳の言葉に「ほぉ~」と興味がない声をあげ、二本目のタバコに火を付けて吹かすアルベルト。
まるで相手にすらならないと言いたげな反応に小柳が戸惑う。
「主任。背後の兵士は全てお任せします。キツイでしょうが時間稼ぎで構いません」
「任せろ」
「良いだろう。その挑戦乗ってやる。お前たちはあの雑魚を相手してやれ」
小柳の意図に敢えて乗る形で部下を坂本の方に仕向けるアルベルト。
「震えているな、小娘」
小柳の体は震えていた。
既に強大な敵に自分の力が通じないとわかってしまったからだ。
アルベルトの前に立つと同時に始めた精神干渉も簡単に弾き返されてしまった。
六道とはアブルートの質が違い過ぎる。
「幻術で隠しているようだが左手のソレは結婚指輪か……子供は?」
「いません」
アルベルトは少し考えて。
「部下と一緒に失せろ。考えたいことができた」
と、違う何処かに意識を向けて言った。
「逃げるわけにはいきません。私がここで逃げれば貴方を止める者がいなくなります」
「だろうな」
「それでは貴方が完全復活した時、誰も止められない。違いますか?」
「どのみち、小娘では俺を止めることはできないさ」
空を見上げて、タバコを吹かして遠い日を思い出すように語るアルベルト。
「これは五百年前の話だ。五百年前なら一人だけ居たな、化物みたいに強い女の魔法使いが一人」
「……もしなまった体と魔法感覚が戻ればやはり世界を征服するのですか?」
「なにか問題でも?」
その気になればいつでもできると言わんばかりに即答するアルベルトに小柳が息を呑み込んだ。震えているのは本能がこの場から一秒でも逃げたがっているからだ。それでもアルテミスの総裁として国家公認の魔法使いとして逃げるわけにはいかない。
「元々あの女の邪魔さえなければ五百年前世界は俺の支配下に入っていたはずだった。五百年の月日が流れようやく俺の部下でも解呪できる程度に封印が弱まった今これ以上大人しくしている理由はない」
小柳千里はこんな噂を耳にしたことがあった。
魔法が確立される前、神秘という別の名前で呼ばれていたころ大賢者と呼ばれる者たちがいた。その者たちは神秘の理を探求し各々の見解である仮設を立てて魔法と言う名前でこの世にその存在を証明した。その時の探求者の一人にこんな人物がいたとされる。偽名ではあるが、時を操る大賢者――月夜野美琴(つきよのみこと)。その人物は『時空神論』でこう説いた。もし、この世の神秘がとある因果関係と密接に関わりがあるとするなら、それは時空である。時空とは時間と空間を合わせた物。ただしそれらは人間が作り出した概念に過ぎない。神秘はそれらの概念を超越した所に存在する。例えば未来から過去、過去から未来、現在から存在しないはずの未来や過去と言った具合にそこに因果関係を強制的に作ることでこの世の理を改変することができる。それが神秘であり、魔法である。故に――私は因果があればその次元に点として現れるだろう。
事実。月夜野美琴を見たという報告は世界で伝説級の都市伝説レベルでは存在する。
その報告が最も多いのは五百年前。ちょうどアルベルトが封印された時期と重なる。
「……五百年」
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