第41話 神秘論


 ■■■


 夜遅い時間。

 ノートパソコンを持った東城明久が帰宅した。

 部屋の電気は薄暗いオレンジ色の光で照らされている。

 廊下を歩き、部屋に着くと相部屋の小柳がソファーで寝ていた。

 夜食はラップがされて二人分。

 手を付けず、ずっと東城の帰宅を待っていたのだろう。

 待ちつかれてスヤスヤと眠っている小柳に来ていた上着を被せてあげる。


「ごめんな。待たせたあげく間に合わなくて」


 部屋に用意された時計を見るとAM三時十九分だった。

 小柳を起こさないように注意して机に向かいノートパソコンを立ち上げる。

 検索キーワードは『精神汚染』。国家公認の魔法使いのみがアクセスできる機密事項が沢山管理されたサイトでそれらを調べる。そこには禁忌魔法についても載っている。北条真奈が未だに目覚めない理由は外傷ではなく精神面にあると医者は言った。和田明久や皆の為にも早期解決の糸口を探る。


 だけど欲しい答えは見つからない。

 過去に禁忌魔法が使用された事象が少ないだけに対応方法も様々。

 なにより最後は患者の精神力の強さが完治するかしないかの命運を分けると曖昧な情報しか載っていなかった。


 部屋にノートパソコンが放つ光がチカチカと光る。

 その光を見て、頭をかきむしる東城。

 必ず何処かに治療の手がかりがあると信じて調べ続ける。

 ここで答えを見つけておかなければ、今後アシュラ隊に戦わずして負けてしまうかもしれない。誰かがやってくれるのを待つのではなく、自ら動いて探す覚悟で東城は睡眠時間を削る。隊長として曖昧な答えは求めていない。欲しいのは部下を戦場で護ることができる知識と力だ。医療班を信じている。だけど医療班だって万能じゃない。だから戦場での対応が一番大切だと東城は考えていた。


 視線を右後ろに向けると守りたい人がいる。


 誰かがやらないといけない。

 それがもし自分に託された使命だとしたら……東城はその期待に応えたいと思う。


 ――。


 ――――。


 小柳が目を覚ます。

 そこには疲れ果てて椅子で寝ている東城の姿。

 近づいてノートパソコンを見ると『禁忌魔法による精神汚染』について書かれた英語の論文データが開かれていた。

 それと、もう一つ気になる履歴があった。


「神秘論……? 今の明久君じゃ……」


 もう一度寝顔を見た小柳は全身に力を入れて、東城を抱えてベッドまで運び一緒に寝ることにした。

 側にいるだけで睡眠の質があがり、心が休まる人。

 東城の温もりに心が満たされた小柳の寝顔はとても柔らかくて落ち着ていた。

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