第34話 聖夜の魔法が送る初恋 8

 BGMが流れ、先ほどまで告白会場だった舞台が薄っすらと照らされる。

 そこに普段は女好き大魔王と呼ばれる男がマイクを持って燕尾服姿で登場する。

 それに合わせて学園の関係者や学園長、理事長、と言った普段人前に顔を出さない人たちまで姿を見せる。その違和感に生徒たちが気づき、これから起こることに息を呑み込む。


『今宵皆様に送るのは、かつて世間を騒がせた偉大なマジシャンが送る今宵限りのマジックショー。この世の奇跡とは彼が作り出してと言っても過言ではない。告白を受ける可能性があるのはこの場にいる女子全員! さぁ、【黒魔法】(ブラック・マジック)の開演だ!』


 静まり返った会場で、坂本の声が大きく響いた。

 それを合図に、会場に現れる一人の男が居た。暗闇の中全校生徒の頭上に現れた男は、指を鳴らし「Ladies and gentlemen, Thank you for coming here today!」と声をあげる。

 ブラック・ミュージックが流れ始める。その曲は三年前一人の作詞作曲家のファンが彼のイメージ曲として作りフリー曲として東城明久に送った物。これを歌い踊って盛り上げるのは、『あげは蝶』のメンバーだ。魔法で幻術魔法を使い大きく映し出された一同。彼らは一定の距離を取り歌い踊る。


 その中心には夜の空中散歩を見せる和田の姿。


「どうなってるんだ?」


 驚きの声が上がる。

 それはここにいる全員の言葉。魔法ではなく実体だと誰もがわかるからこそ驚いた。


『君の心が揺れる夜 奇跡の出会いが訪れる』


 歌に合わせて、大胆不敵な笑みを和田が見せる。

 そして両手を大きく広げると、


「えっ? うそ?」


「なになに? なんで私浮いてるの?」


 疑似空中浮遊にランダムで選ばれた女子生徒の体が宙に浮く。

 魔法に空を飛ぶ魔法なんて存在しない。だから驚く。

 スポットを浴びた和田に「きゃー! 私もー!」「こっち見てー!」と歓声が聞こえ始める。


「どうなってるんだ……これは?」


 理解ができない男子は嫉妬し言葉を失っていく。

 そんな男子生徒たちの心が生んだ嫉妬が化物となって和田を襲い始める。


「危ない!」


 誰かが声を上げた時だった。

 指を鳴らす、と魔法のステッキが出てきた。ステッキを向かって来た化物に向けると一瞬で倒してしまう和田は正にヒーロー。そんなヒーローに嫉妬する男子から次々と化物が出てくる。ゴブリンのような小さい生物から像のように大きな巨体の生物まで様々。

 そんな敵を挑発して返り討ちにしていく様はカッコイイの一言に尽きる。一部の女子がハート目になりドキドキし始める。が、油断した和田が攻撃を受けて負傷してしまう。そのまま地面に落ちる姿に悲鳴があがる。


『私を信じて立ち上がって 君はまだ羽ばたけるはず』


 歌声にリンクするように和田の死体は夜の闇には消え、再び夜の空に姿を見せる。

 復活した和田を見て会場が盛り上がる。空を自由自在に動き、余裕ある笑みと動きで化物を倒していく姿に次第に男子たちの嫉妬の声もなくなる。悔しいがアイツの方がカッコイイと認めるしかないと思い始めたからだ。


 戦闘とマジックを魔法で繋いだ和田の姿に誰もが“もしかして”と思い始める。


 音楽が間奏に入る。


『今宵のマジックショー前半いかがだったでしょうか?』


 坂本が音楽とマジックの間奏を繋げる。


『二番は本日のメイン。黒魔法とヒロイン。どうぞ最後までご覧ください』

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