第18話 もう一つのフィーリング 12


 ブッ―ブッーブッ。


 シャワーが終わり部屋に戻るとスマートフォンがバイブレーションしていた。

 和田が画面を見ると、小柳千里と表示されている。


「もしもし?」


 そのままベッドに腰を下ろす和田。


「もしもし? 今一人? タイミング悪かったら掛けなおすけど」


「その必要はない。それよりどうした?」


「用事? ないよ」


 スマートフォン越しに聞こえてくる声に和田の思考が一秒止まった。

 聞き間違いか? と思うがそんなはずはない。

 和田はたしかに聞いた。用事? ないよ、と。

 そうなると和田の中で疑問が生まれる。


「なんで電話かけてきたんだ?」


 と、言う疑問である。


「仲の良いお友達に電話するのに理由っているの?」


「……要らないのか?」


「要らないよ。まぁ適当な理由を付けるなら明久君の声が聞きたくなったから」


「おま……千里って寂しがり屋?」


「…………」


 急に相手が静かになった。

 しばらくして。


「なんでそう言う恥ずかしいことストレートに言うかなぁ~」


 和田はすぐにわかった。照れてるのか、と。

 声を聞いただけでわかる、わかりやすい声だった。


「今なにしてんだ?」


「おっ! ようやく私に興味を持ってくれたね! なら質問です。私は今本を読んでいました。さて何の本を読んでいたでしょうか?」


「魔法関係の本」


「違います」


「マジックの本?」


「ぶっー。ヒントは女の子が好きそうな本」


 ジャンル広すぎだろ……。

 言わないが、それが和田の心の声だった。

 本人はクイズ感覚で楽しんでいるみたいなのでもう少しだけ付き合うことにする。

 とはいっても、女の子。

 ……食べる、ファンション、恋、流行、ショッピング、化粧、あげればイメージできる物は沢山ある。

 そこで和田は考える。

 身近な人間から答えを借りることにした――真奈が好きな物は例えば。


「ファンション?」


「おっ! 惜しい! 服じゃないよ」


「服じゃない?」


「うん。例えばお出かけする時に、人によっては気を使う装飾品かな?」


「アクセサリーとか?」


「正解!」


「なんか意外だな」


「そうかな?」


「世間の話聞く限りだと魔法一途でアクセサリーとか興味なさそうなイメージだからな」


「当たり前だよ。世間が作りあげた理想の魔法使いとかやってられないよ~」


 ぶっちゃけトーク。

 これが世間に聞かれたらとんでもないことになるだろう。

 逆を言えばそれだけ本音を言えるぐらいに心を開いてくれている証拠でもある。


「ちなみに明久君はどんなネックレスが好きだったりする?」


「シンプルな奴」


「シンプルなやつか……石のこだわりは?」


「石? 魔力石のことか?」


 魔力石とは魔力を含む石もしくは魔力を流すと綺麗に輝く石のことだ。


「そうそう」


「基本なんでも好きだな」


「トパーズとかは好き?」


 そう言われて頭の中でトパーズらしき石をイメージする。


「オレンジ色っぽいやつか?」


「そうだよ」


「綺麗だし好きか嫌いかなら好きだな」


「なら私たち気が合うかもね」


「どうしてだ?」


「私の元彼がトパーズ好きだったんだ。それで好きになった石なんだけど中々好きって人居なくてね。ほら魔力石って高い方が良いみたいなイメージが皆あるじゃん?」


「否定はしない。値段=価値ってのが俺の中にも少なからずあるからな」


 魔力石。宝石に魔力が宿った石であり、宝石でもある。

 当然価格が高い方が見栄えが良く、色がハッキリしていて希少価値が高いと言える。


「そうなんだよね。だから安価なトパーズ好きって人が中々身近にいなくてね」


「赤色のSランクトパーズなら綺麗だし探せば好きな奴一人ぐらいいるだろ」


「見たことあるの?」


「ない。宝石ならあるが、魔力石では一回もないな」


「なら明日見せてあげるよ。私Sランクトパーズ持ってるから」


「流石国家公認の魔法使い。凄いな」


「えへへ、ありがとう。なら明日楽しみにしてて」


「わかった」


「声聞けて良かった。ならばいばい、また明日学校で会おうね」


 電話が切られた。

 結局雑談で終わった。

 相談話ではなかったが、小柳が楽になったなら良かったと考える和田。

 こんなたわいもない会話ですら国家公認の魔法使いとして注目されるとできる場所が限られる。

 本当に窮屈で居心地が悪い環境が待っている。

 あくまでそう思う人間もいるわけで全員が全員そういうわけではない。

 むしろ和田や小柳のようなタイプは意外に少ない。

 人は承認欲求や地位や名声の前ではある程度の自由が犠牲になってでも欲しい、維持したい、と強く思う野心家が多いらしい。特に魔法使いは。

 その理論で考えるなら、和田や小柳の方が少数派と言うことになる。

 だから世間から中々理解が得られない。

 故に苦労することになる。

 つまり。和田や小柳にとっては中々生きづらい世の中。


「まぁ、頑張れ」


 聞こえないと分かっていたが、小柳に応援の言葉を送る和田。

 急に静かになった部屋に寂しさを少し覚える。

 元々一人には慣れていた。

 だけど気づけば誰かがいる生活が数日続いていたせいか、寂しい、と言う感情が生まれた。

 なにをするわけでもなく和田はベッドで仰向けになってぼっーと天井を眺める。

 好きな一人の時間。

 なのに、どこか嬉しくない。

 今までなら、落ち着くと思っていた時間だった。

 ふとっ、感じる今までと違う感覚に少し戸惑う。

 もう一人の自分がやってきそうな……そんな感覚は恐い。


「二学期になってから真奈と千里が近くに居るようになったのが原因か……」


 理由はすぐにわかった。

 なぜこんな風に心に変化が生まれたのか。

 二人は何処か似ている。

 容姿は清楚系か可愛い系かで違うが、それ以外はどこか何となく似ている。

 急に今まで以上に近しい間柄になったのもどこか似ている。

 そんな二人が近くに居る生活が当たり前になろうとしているのかもしれない。

 それはいいことなのか?

 今の和田にはまだわからない。

 ただ人と関わることが前に比べると、めんどくさいと思わなくなっていることは事実。

 それは心が成長しただろうか?

 それとも心が正常に戻り始めただろうか?

 もしくは……これが本来の姿なのだろうか?

 この疑問にもし答えがでるとするなら、聖夜の魔法な気がすると和田は何となく思った。

 一度部屋の中を見渡すが、和田しか居ない。

 ただ待つだけでは暇だと明日のことでも考えて見ることにする。

 和田はそっと目を閉じて意識を心に向けた。


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