負けず嫌いな幼馴染と超一途な元カノと学園生活 ~ in 聖夜の魔法編 ~
光影
プロローグ 心が疲れ切った魔法使い
第1話 心が疲れ切った魔法使い
疲れた。
疲れた。
助けて。
心の声は誰にも届かない。
周囲の期待に応えようと頑張った。
東城明久は才能を持って生まれた。
魔法使いとしての素質は充分。
だけど心が疲弊し死んだその日魔法使いとしても死んだ。
周囲は常に期待していた。
いつしか壊れるとは知らず。
若いからこそ期待された。
それが重荷となり東城の心をじわじわと苦しめる。
成績優秀。
それが当たり前になった日、東城は無限に続く期待の壁に絶望した。
努力した姿は誰も見てくれず、成功した姿だけ見られる人生に。
過去に大きな事件を解決した。
それから更に注目される日々は東城が求めていた理想とはかけ離れていた。
次第に疲れ、狼狽し心を閉ざした東城。
一度しかない十代。
そこで多くの者が青春を過ごす。
だけど心がすり減ってしまった東城に青春は訪れない。
それは残酷な運命の一部にしか過ぎない。
中学時代は彼女も居て楽しかった。
容姿はそこそこ。
でも並外れた運動神経と魔法適正で好きな子の心を掴んで恋人となった。
だけど心が疲れてからは自分のことしか考える余裕がなくて、別れる。
「あぁ~死にたい……」
それが今の東城の心の声だった。
ある日を境に東城明久は和田明久として生きていくことを決めた。
■■■
お腹空いた。
空腹で目が覚めた和田はベッドから起きる。
カーテンから差し込む太陽の陽が眩しい。
両親が海外出張でいないので朝食はパンで済ませる。
学ランに着替え、荷物を確認して玄関を出た。
家を出てすぐの大通りと隣の家に住む幼馴染――北条真奈。
いつも明るくて元気な女の子。
「アイツ今起きたのか」
遅刻だぁー! 家の外まで聞こえる声にやれやれと呆れた。
腕時計を見れば八時十分。
ここから私立桜花学園までは徒歩十五分程度……。
周囲の声は賑わっている。
和田と同じ皺のない学ランに腕を通してワイワイとはしゃぐのは今日高校生になる魔法使いたち。
数百年前。人類が進化し魔法が使えるようになった。
和田はその才に長けており、かつて『黒魔法使い』(ブラック・マジシャン)などと呼ばれていた。
「はぁ~」
周囲との温度差は歴然。
親が決めた道を歩く。
足が重いのは心の何処かで否定しているから。
それでも今日から三年間は歩き続けなければならない道。
そう思うとため息しかでない。
「きゃーーーー! 誰かぁ!」
瞬間。
眠気も冷める叫び声が前方から聞こえてきた。
足元に向けていた視線を上げると小さい子供と大型トラックが衝突する瞬間だった。
学生は魔法をむやみやたらに使ってはならない。
それが魔法使いの大原則ではあるが。
「チッ」
指を鳴らし魔法を使っていた和田明久が居た。
考えたわけではない。
助けたいと思ったわけでもない。
ただ――無意識に体が動いていた。
トラックは子供と衝突する直前で透明の壁に衝突して止まった。
運転手は防御魔法で無事。
子供は泣いているがすり傷だけで済んだようだ。
和田の心はまだ生きているのかもしれない。
■■■
人生において沢山の出会いが訪れるイベント。
入学式。
桜の木が沢山並ぶ道は新しい若人たちの門出を祝福する。
元女子高ということもあり制服が可愛い。
世間の評判も良く生徒の七割が女子生徒で占める学園の体育館。
「――では、新入生代表の言葉」
先生の言葉に続いて、小柳千里が檀上に立つ。
彼女の特徴は小柄で低身長かつ童顔。
男子の視線は顔ではなく制服越しに強調された胸に向けられてそうだ。
近くを通り過ぎていく時、張りのある茶色の長い髪からは夏の香りがした。
新しい青春を胸に抱えた男子ならこれで脳死レベルだろう。多分。
自然と眠くなる、社交辞令を踏まえた入学式はようやく終わる。
時が経ち――クラスに慣れ始めた頃、物語は始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます