第24話 僕と秘密の関係がある、らしい、女性達(2)


 ほどほどの雑談を交えている内にホームルーム開始の時刻になり、ひかりさんと雛さんは自身の教室へと帰っていった。


 その後、一時限目は数学の授業。


 担当の教員は、諏訪部先生である。


「では、次の問題を……夏野君」


 授業中、指名された僕は教室の前へと出る。


 黒板に書かれた問題を前に、頭をうんうんと唸らせていると……。


「あれ以降……変わった事は起こっていない?」


 いつの間にか、間近の距離にまで顔を近付けて、諏訪部先生がそう尋ねてきた。


 僕にしか聞こえないくらいの、囁き声で。


「え……あの……」

「あ、ごめんなさい。前のように盗み聞きされる状況を作ると、また君に害が及ぶのではないかと心配になって」


 だからって、授業中に尋ねてこなくても……。


 僕は、諏訪部先生に「はい、今のところは大丈夫です」と小声で答える。


「僕の過去に関しては……無理せずちょっとずつ調べていきたいと思っています。身の危険のことも考えて、あまり目立たないように」

「そう、確かにその通りね。わかったわ」


 諏訪部先生は、僕の腕にちょっとだけ触れ柔らかく笑う。


「何かあったら、遠慮せず言って。力になるから」

「は、はい」

「x=2yよ」


 黒板に書かれた問題の答えも教えてもらえたので、僕はそれを記入し終えると、席に戻る。


「なぁ……今……諏訪部先生、夏野と何か話してなかったか?」


 ……クラスメイト達の間から、そんな会話が聞こえてきた。


「かなり距離が近かったよな……」

「ちょっとソフトタッチしてたように見えたけど……」

「どういう関係なんだ、あの二人……」


 ………。


 先生、逆の意味で目立ってしまいそうです。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「お疲れ様です、夜空先輩」


 昼休憩の時間。


 中等部の春歩さんが、僕を訪ねて教室までやって来た。


「お弁当、また作ってきちゃいました。食べてもらえますか?」

「あ、う、うん」

「すいませーん、夜空さんはいらっしゃいますか?」


 すると、聞き覚えのある声がもう一つ。


 誰かと思ったら、雛さんだった。


「あ、ピ……雛さん、どうしたんですか?」

「すいません、突然……」


 雛さんは、その手に小さな保冷バックを持っている。


「えと、その、お、お母さんが夜空さんに是非って、お昼ご飯を用意……あれ? あなたは、確か、ひかりちゃんの妹さん?」

「ひかりお姉ちゃんのお友達の……」


 偶然鉢合わせになった春歩ちゃんと雛さんは、互いにビックリしている。


「そのお弁当……もしかして、夜空さんに?」

「ひ、雛さんこそ、それは……」

「あ、あたしはお母さんに頼まれただけで……」


 何やら、バッドタイミングな展開になってしまった。


「あの……両方いただいても良いですか?」


 僕は雛さんと春歩ちゃん、二人分の弁当を食べる事になった。


 中々のボリュームだった。


 雛さんの持ってきたお弁当は、雛さんのお母さん――緑里さんが作ったものと聞いたけど、先日食べた料理と味付けが違う気がしたのは、気のせいだろうか。


 ちなみに、この一連のやり取りは当然クラスメイト達にも見られており、また何やら騒然とした雰囲気と、鋭い視線の集中砲火を浴びる結果となった。


 嫌ではない、嫌ではないんだけど……。


 目立ちたくないと思った矢先から、こんな目に遭うとは。


 幸先に不安は残る。


「………」


 ……少し気になったのは。


 そんな中、楓先輩とはもうしばらく顔を合わせていない、という事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る