第20話 奇跡を軌跡にのせ・2
数日前、ナギサの姉、フウが訪ねて来た。
理由はナギサと同じく、「王族として強くなりたいから」だった。
あまりにもナギサと同じことを言うので笑ってしまったのだが、やはり彼女とも話の流れからシュルネードの話になった。
しかし、彼女はナギサと違い、一瞬眉を顰めたものの、すぐにしれっとした表情で言ってのけたのだ。
「過去のことを振り返ったってしょうがないじゃない」
「わたくしは『今』を生きていたいの」
そう一蹴した姿に、カズエラは酷く驚いた。
ナギサとフウは、見た目は双子と間違われるくらいにそっくりだし、性格も気が強いところはそっくりではある。特に、フウの方が幾分激しい性格ではあるが。
そのフウが、過去を振り返らないというドライなことを言っていることに違和感しかない。
カズエラは口にこそ出さなかったが、「こういう子ほど、内に秘めていたりして、怖いんだけどな」とぼんやりと考えてしまった。
そこまで思い出して、「そういう自分も、冷静に二人のことを見てて、傍から見たら気持ち悪いんだろうな」と自嘲しつつ、未だに膨れているナギサのことをちらりと見た。
「隙ありっ!」
カズエラがそう声を上げながら、ナギサにでこぴんをすると、「いった!!」と声を荒げながら、ナギサは飛び退いた。
「突然何するのよ!?」
「実戦とはこういうものだろう?」
「そんなめちゃくちゃな!」
むっとしながら怒鳴るナギサに、カズエラは笑顔で返したが、ふと真面目な表情で問いた。
「そう言えば、剣術だけじゃなくて、聖法術の練習もしているのかな?」
その言葉に、ナギサは気まずそうな表情を浮かべると、重い口を開いた。
「……この前、倒れたって話聞いた?」
「ああ、うん。フウから、『倒れたから当分来ないわよ』とは言われたけど……大丈夫だったのかい?」
「それが……次期大神として人より聖力が多くて、うまくコントロールができないんですって。実際、聖法術も練習はしているけど、うまく加減できないし。それに、聖力が多すぎるせいで、体調が影響を受けやすいみたいなの」
ナギサが憂鬱そうに話すのを、カズエラは心配そうに見ている。
「先日、その件で冥王に呼ばれたのだけど、定期的に聖力を放出しないとダメみたいで、打開策として剣術に取り入れたらどうか、って話になったんだけど」
「え?剣術に?」
カズエラは思わず素っ頓狂な声を上げるが、ナギサは頷いた。
「ええ。剣術や武術なら、聖力で体力を補えば、無理に体を鍛えなくてもいいんじゃないかって。今、そのやり方を調べてもらってるから、返事待ちみたいなところではあるのだけれど」
「ああ、なるほどね。確かに、王女がムキムキになってしまったら、ドレスとか困るもんね」
カズエラの言葉に、ナギサは思わず想像をしてしまい、「うっ」と自分で嫌悪感を抱いた。それを忘れるために、ナギサはぶんぶんと頭を振ると、口を開いた。
「ほ、ほらっ!私、聖法術使うより、剣術の方が体を動かせるから好きだし!詠唱言わなくていい分、機敏に反応できるし!」
「まあ、ナギサは剣のセンスが良いから、このまま続ければ問題ないと思うけど」
それを聞いて、ナギサはふんっと鼻を鳴らした。
「そうでしょ!?だからね、師匠。私は、たくさん練習して誰よりも強くなるわ。この剣でみんなを守りたい。そのためにも、これからも修行に付き合ってほしいの。そして、いつかは師匠に勝つんだから!」
「そのうちって言うか、すぐに追い越されそうな気がするけどね。でも、僕だって剣術に関しては、それなりにプライドってものがあるし。とことん付き合ってあげるよ」
その言葉に、ナギサは満足気に笑うと、「ありがとう。師匠!」とカズエラに抱きついた。
師として、せめてその気持ちは汲んであげたいと思う一方で、親友の娘に重いものを背負わせたくないという、矛盾を抱えたカズエラの想いを知らず、ナギサは素振りを始めたのだった。
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