第14話 ancient earl・2
「リキ様、キョウノ様がいらっしゃいました」
カイの言葉に、お茶会状態になっていたナギサとリキが手を止めた。
「ごめんごめん。お待たせー」
相手が冥王だというのに、気さくな態度で入って来た男を、ナギサは思わずまじまじと見てしまった。
長い黒髪をきっちりと一つに結い、深い紫の瞳を持った男は、ジャケットこそ着ているものの、カジュアルな格好やって来た。
「いや、こっちこそ悪かったな。急に呼んで」
「ううん、大丈夫。突然すぎてびっくりしたけど、大きな仕事なかったし」
そうへらへらと答えると、男はナギサへと視線を向けた。
「あー、もしかして、帰って来たって噂のお姫様?はじめまして。魔界両族長のキョウノ=ウーフだ。冥王代理人もやってるから、顔合わせること多いと思う。よろしくねー」
そのフレンドリーな姿にナギサは戸惑いつつも、立ち上がると挨拶を返した。
「月王家第二王女のナギサ=ルシードよ。こちらこそよろしく」
と、ナギサが言い切る前に、キョウノはナギサの手を握りぶんぶんと振って来た。
「ちょっ!ちょっと!」
さすがに声を上げるナギサに、リキも「その辺のしてやれよ」と止めに入る。
「ごめんな、ナギサ。こいつ、悪気はないから。昔っから悪戯好きって言うか、若干サディズムって言うか」
「ええ?そんな人が冥王代理人?」
思わず声に出して言うナギサに、リキが苦笑いを零した。
「でも、仕事はすっごいできるし、基本良い奴だからさ!」
そういうリキに、ナギサはキョウノをじろじろ見ながら、口を開いた。
「って言うか、魔界両族長ってことは、普段は魔界にいるのかしら?」
「うん、そう。ナギサの話も、噂で聞いてるよ。すっごい強気なお姫様だって」
その言葉に、ナギサはじとっとした目でキョウノを見る。その警戒している視線にも、キョウノは物怖じしていないようだ。
「へえ?魔界にまでそんな噂が出てるんだ?」
「うーん、魔界って言うか、俺はサガナ自身から聞いたんだけどな。で、ずっと会ってみたかった!」
その話を聞いて、ナギサは「そう言えば、サガナが魔界両族領で仕事してるって言っていたな」と思い出す。
「……サガナがお世話になっているのね。協力をしていただいているのは聞いているわ。ありがとう」
「まあ、それはお互い様だしな。サガナの出自的に、両族みたいなものだろ。あいつ、仕事できる奴だし、こっちも助かってるよ」
「そう。でも、あなたが冥王代理人だとは思わなかったわ」
そうバッサリ言い捨てるナギサに、キョウノは驚いた表情を浮かべたが、すぐにくつくつと笑い始めた。
「え?そう?まあ、別に冥王になるつもりはないしな。たまたま封印の神と契約してる奴が他にいないってだけで、仕方なくやってるようなもんだし」
「そうなのか!?」
思わずリキがツッコんでしまう。そんな気はしていたが、そうバッサリ言われるとは思っていなかったようだ。
「当たり前じゃん。何なら、冥王がリキだから、幼馴染として代理人引き受けてるってのもあるし。全然知らない奴が冥王だったら、こんな面倒な話受けてないもん」
「あら?あなたたち、幼馴染だったの?」
その言葉に、リキが頷いた。
「うん。キョウノのじいちゃんが先代の魔界両族長で、俺の父さんも先代の冥王だったから、幼い頃からよく遊んでて。まあ、キョウノの方が歳は上だけどな」
「上って言ったって、リキとは四つしか変わらないだろ。俺、早くに両親亡くして
キョウノはそう言うとやっと口を閉じたようだ。
ナギサも紅茶に口を付けてから、口を開いた。
「理由はわかったわ。つまり、これから彼らと一緒に、その代理人とやらの仕事をすればいいのね?」
「早い話な。とは言え、ナギサはダークが嫌いなままだし、どうしていこうか?」
キョウノの言葉に、ナギサはぐっと眉を顰め、あからさまに不機嫌な表情をした。
「別に、どうもしなくて結構よ。仕事でしょ?それなら上手くやるわよ。子供じゃないんだし」
ふんっとした態度で言うナギサに、「それならいいけど」と疑心の目で見るリキと、「まだ未成年じゃん」とあっさりツッコむキョウノ。
三人で何となく話しながらお茶をしていると、リキがぽんっと手を叩いた。
「そうだ!ナギサ、忘れてたんだけどさ、聖力の暴発の件。一応、調べてさ」
そう言って、カイから資料を受け取ったリキは、テーブルに資料を広げた。
「ああ、サガナもそんな話してたな。聖力が高すぎるせいで、体調に出ちゃうんだっけ?」
「ええ。私もあまり覚えていないのだけど、気を失ったみたいで。成長と共に治るって言われたけど、不便でしょう?」
ナギサがそう言うと、リキは眉を寄せた。
「うーん、成長すれば治るって言っても、ある程度コントロールできないと意味ないからな。ナギサの場合、次期大神として元々異常なほどに高い聖力を持っていて、この行き場がないから体調に出るんだけど」
そう資料を追いながら言うリキに、ナギサとキョウノは同じように資料を目で追った。
「行き場がない、か。つまり、定期的に放出をしなきゃいけない。とは言え、ナギサの場合、その量が多すぎるってことか」
キョウノが資料に手をかけながら言うが、ナギサが困惑した表情で問うた。
「どういうこと?普段から聖法使っていた方が良いってこと?」
「そうだけど……日常生活で、そんなに聖法使う場面ってないだろ?いくら、ナギサが代理人として今後、戦闘が増えるとは言え、消費できる量じゃないと思うし、逆にこれだけ多いとデカい聖法ぶっ放したら、自分への反動もすごいと思うな」
キョウノの言葉に、ナギサは開いた口が塞がらない。
意外と二進も三進もいかない状況で、ナギサは思わず頭を抱えた。
しかし、キョウノは「あっ!」と突然声を上げた。思わず、ナギサとリキが見るが、キョウノはにこにこしながらナギサを見た。
「そう言えば、サガナに聞いたんだけど、剣術を習い始めたんだって?」
「え、ええ。剣術だったら幼い頃に習っていたし、いざっていう時に使えると思って」
ナギサがそう答えると、キョウノはびしりとナギサを指差した。
「それだよ!剣術……この際、体を使うような武術なら何でも良いと思うけど、それを利用すればいいんじゃない?」
「どういうこと?」
言っている意味がわからないとばかりに、キョウノを見つめるナギサだったが、それよりも早くリキが手を叩いた。
「あっ、そうか!剣術……つまり、武術関係は肉体を強化することが大切だけど、そこに聖力を使えばいいのか」
「筋力とかを聖力で高めるってこと?そんなことできるの?」
リキの言葉に、ナギサが問うが、キョウノは「できるできる」とあっさり答える。
「強化法術とかあるけど、それを無意識にやれば普段から消費できる。そんな華奢な体系でも、重い物をひょいっと持てると思う」
キョウノの言葉に、ナギサはうんと考えた。
確かに、王女としてドレスを着ることも多く、あまり筋肉を付けるのも憚られる面もある。
「少し時間くれれば、その辺りの理論を纏めて渡すから、参考にしてよ」
「え?いいの?そこまでしてもらって」
「あったりまえだろー。これから一緒に仕事するんだしさ。俺の武器は鞭で短距離、ダークは銃で中距離だから、ナギサが剣で接近戦してくれると、俺たちも助かるもん」
そう言いながら、ナギサの背中をバシバシ叩いてくるキョウノ。
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