第9話



「る、ルーベスト! 何をしていたんだ!? 地面が抉れているようだが……」


 駆け寄ってきた父のカイ・フォータスが心配そうに俺の肩を掴んできた。……こ、この歳で魔法でテンション上がって、後先何も考えずに使ってました、というのは恥ずかしい。


「え……えと……」


 まさか、ここまでの大騒動になるとは思っていなかった。心配そうにこちらを見てくる父に、俺はどう誤魔化そうかと思う。


『……ご、誤魔化すのはよくないです。素直に謝れば、案外許してもらえるものですよ!』


 ポンコツ女神様のありがたいお言葉だ。うっせぇ……と思ったが、女神様の言葉も一理あった。


 ……今後も、魔法の訓練はしていくつもりだ。【ファイナルクエスト】の世界では、基礎鍛錬というのがあり、これを行うことでステータスをどこまでも伸ばしていくことができた。


 今の俺は【ファイナルクエスト】と同じ効果が適応されているわけで、それによる強化もできる。今後も基本ステータスを伸ばしていくために、自由に魔法の訓練をできる環境の方がいい。


「なんだか、頭の中に変な声が聞こえて来て……それで、そのままそれに従うようにやってみたら……魔法が使えたんです」

『へ、変な声とはなんですか……っ』

「……呪術師、の影響か?」

『じゅ、呪術師じゃないです! 女神様ですよ! 天罰喰らわせますよ!』



 女神様が脳内で騒いでいる。頭の中でその声が反響し、思わず頭を抱えたくなる。

 ……通信制限こないかなぁ、とか考えていると父とともに同行していた魔法使いの老人が立派に伸びた顎ヒゲを触っている。

 その仕草が、何かを深く考えていることを物語っていた。


「いや……もしかしたら神の啓示、かもしれません。魔物との戦闘を終え、肉体がレベルアップをしたとき、神の声が聞こえ、魔法が使えるようになることがあるとのことです」

『あっ、それ私が歌ってあげてるファンファーレですね。この世界の人にも聞こえるようにしてあげてるんですよ。あっ、そういえばルーベストさんには聞こえない設定でしたね。が、頑張って設定変えましょうか?』


 いらん。そこ頑張るなら別のところに力を入れろ。つーか、レベルアップ時の音がお前の歌ってみたなのかい。

 つっぱねると、『そんなぁ』と少し残念そうな声を上げ女神様は落ち込んでいる。なんとなく罪悪感が芽生えるが、今はそれどころじゃない。

 父が顎に手をやり、考えていた。


「魔物と戦っていないからレベルアップはしていないと思うが、魔法は使えるようになるものなのか?」

「才能があったのだと思います。それにたまたま、気づくというのはあるものですよ。私もそうでした」

「オレもシェリアも魔法は使えないが……そういう場合も発現するのか?」

「もちろんです。神様に、愛されているのかもしれませんね」

『えへへ、まあ、お気に入りではありますね。一応、私の初めての仕事相手ですし!』


 ……そのせいで、こんなことになってんだけどな?まあでも、神の加護を受けているのは間違いない。


 父はぼそぼそと魔法使いとともに話をしていた。穏やかな庭の風景と対照的に、俺の心は落ち着かない。

 ……両親から、変な子どもとか疑われたどうしようか? あるいは、妻が浮気していたとかなんとか……。

 

 そんな心配はしかし、杞憂に終わった。父は、なんだか嬉しそうに笑顔を浮かべ、俺の前に立った。


「ルーベスト。もう一度さっきやったことをやってみてくれないか?」

「……分かりました」


 俺はこくりと頷いてから、サンダーをもう一度放った。さっきより、MPをうまく意識できたからか、威力が少し上がったように感じた。

 実際、地面をすごい勢いで抉り、周囲から驚きの声が漏れた。


 さらに魔法を放っていく。

 爽やかな天気の中、俺の鮮やかな雷の閃光が走る。穏やかな空気の中で、俺の魔法だけが明らかに異質な存在感を放っていた。


 ……ここはゲームの世界だが、ゲーム通りというわけではないようだな。


 MPの消費量を上げれば、より威力の高い魔法も使える……か。逆に、うまく集中できれなければ、同じ消費量でも威力が下がってしまう。難しいな。


 ゲームのように毎回同じ魔法が同じ出力で出てくるわけではない、ということか。

 まあ、ゲームでも、ダメージの幅は乱数で結構ぶれていたし、そういうものなのかもしれない。


 父たちは唖然とした様子でこちらを見ていた。地面の土はめくりあがり、魔法の痕跡が生々しく残っている。


「……な、なんだこれは……こ、これが、魔法、なのか。それに、こんなに連発できるなんて……これが、普通なのか?」

「……い、いえ……こ、こんな上級魔法……初めて、みました。ルーベスト様は、天才魔法使いかもしれません……!」


 父と魔法使い、さらに騎士たちは皆驚いた様子だった。目を見開き、口をあんぐりと開けている。



 ……上級魔法、か。

 これがまだ、俺の魔法の中でも覚えたばかりの下級魔法だと知ったらさらに驚くことになるだろう。  


 初期ステータスで魔法を放った場合、弱点属性でなければせいぜい100程度のダメージだ。


 ただ、【ドラゴニックファンタジー】の世界だと、これでも過剰なんだよな。

 それでも魔王たちを倒すというにはまだまだ足りない。


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