寿命売買〜悪魔を名乗る男はセールスマンだった〜
赤坂英二
第1話 悪魔と名乗るセールスマン
ある日世界的な資産家のもとにある男が現れた。
「誰だね、お前は」
「初めまして、悪魔です」
悪魔と名乗るその男は、わざとらしすぎるほどに深いお辞儀をした。
悪魔の目はこの世の人間が持っている瞳とは全く異なる輝きをしていた。
資産家を見ていながら、一切見ていない。何かを見据えているような視線である。
「悪魔だと、随分と普通じゃないか」
悪魔はニヤリと笑った。
「人間が勝手にイメージをしているだけでございます。現実の悪魔などこんなものですよ。神や天使もね」
確かにそうだと資産家は思った。
しかしそうは言っても、この男が悪魔だということは証明になっていない。
「お前が悪魔だと信じるには証拠がないな。今のところただの不審者、異常者、侵入者だ。証明してみろ。わしを納得させてみろ、お前が本物の悪魔だとな」
資産家はテーブルの脇から拳銃を取り出し、悪魔に見えるように置いた。
特に気にする様子もなく、悪魔はわざとらしく両手を広げた。
「どういたしましょうか。お金でも出してみましょうか」
「金など要らん。捨てるほどあるからな」
資産家はつまらなそうに鼻を鳴らす。
悪魔はわざとらしく困ったふりをするも、笑いながら言う。
「ではこれはどうでしょうか」
悪魔の体が変化していく。
「おぉ!」
悪魔は資産家の姿そっくりに変身した。
「これは私か。機嫌を取るために良い男になったな?」
「いえいえ、旦那様のお姿をそのままになるように努力いたしました。しかしわたくしの力では旦那様の魅力を引き出すことができませんでした。実際はもっと良い男でございますよ」
資産家は大声で笑った。
「なかなか面白い男だ!」
「ありがとうございます。そして私が悪魔だと信じていただけたでしょうか?」
悪魔は元の姿に戻りながら述べる。
「なるほど、お前が悪魔だと信じるほかあるまい。手品ではないようだからな」
資産家は手を叩いた。
「それで、お前のここに来た理由はなんだ?」
「働きにまいりました」
「何⁉ 近頃は悪魔まで仕事をするのか」
「最近は悪魔の世界も厳しいのですよ。だからこうして働いているわけです」
「ほう、それでどんなことをする? あいにくメイドは間に合っているぞ」
「いえいえ、私が来たのはこのお屋敷で働かせてもらいたいということではございません」
「では何だ?」
悪魔の瞳がきらりと光った。
「寿命を売買しているのです」
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