微量の光
保志
第1話 プロローグ
産声をあげた瞬間、自我が芽生えた瞬間。
人生のスタートラインの記憶さえ失くして、人々の愛を受けて私は生きている。
感情と理性をもちながら日々を学んで成長している。
多くの挫折に傷む身体をたくさんの小さな喜びとたまに訪れる大きな幸せが包んでくれる。
色々な責務を全うする緊張感のなかで、自分の狡さに甘えながら役目を乗り越えていく。
生きることは難しいことではないと思っていた。
小学校の図工の授業のように、作品の完成度より創造を楽しむことが優先された作業に近かった。
その傍には、職人のように身を削り、難しい顔をしながら作品を洗練させている子がいた。
周囲のものとは変わったその子の作品に私はみとれていたが、本人は自信のない消耗した顔で私に聞いてきた。
「それ、どうやって作るの?」
似たようなものがいくつもある没個性の作品を指差して言った。
私は驚いて目を開かせると、その子はもう一度呟いた。
「どうやって普通に生きられるの?」
その子は顔を赤くして荒々しく泣いていた。
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