6ヶ月で人生の幸せを見つける話
とろにか
第1話 雨乞いフロッグス
「五月病に勝つには五月を乗り越える必要がある」
そうかな?まだ5月7日なんだけど。
あっ、もう無理。辞めます!
俺こと五十嵐利楽(いがらしりらく)は18歳。高校卒業後、製造業の仕事に就いた。初任給手取り25万円の、高卒にしては無難な場所に入れたと思う。
だがしかし、単純作業が性分に合わないのかもしれない。すぐに辞めてしまった。
誰でもできる作業というのは、自分以外の生贄を探す旅なのかもしれない(キリッとな。
そうだよ。旅だよ旅。俺は旅がしたい。
高3の修学旅行、一生の思い出にするつもりだったのに、当日の朝に運悪く熱を出しての悲しみの欠席である。なお夕方には熱は引いた。
そうだ、10日の給料日は全部給料を引き出して旅行に使おう。そうしよう。
そうして俺の壮大な逃避行は始まったのだった。
−−−−−−
5月10日。決行の日。天気は雨男の俺に相応しい土砂降りだった。
銀行に行って振り込まれた給料の額を見てみる。
212,194
ん?なんか少なくね?
あぁ、そういえば試用期間は少ないからって言われた気がする。
まぁ十分かもしれない。25万満額でもらえると思った俺が悪い。そう思うことにする。
ファーストで買った水色の中古のキャリーケースは男が使うにはちょっと派手だし、キャリーケースを持って銀行入る人なんていないから、視線を感じてしまう。
20万は大金だから、リュックと2つに分けるか。
俺はこんな大金を持ったことは無かったので、なんか悪いことをしてるみたいにかつてなく浮かれてる。わかっているのに気持ちがフワフワして落ち着かない。
だからなのか、駅前で声をかけられた時にいつもならスルーするところを、反応してしまったのだ。
「こんにちは。6ヶ月の出逢いの旅に興味はありませんか?」
うげっ、と思わずこっちが仰け反るくらいの怪しさ満天の男に声をかけられた。
スーツの男で、それだけならいいのだが、目深に紺色のレインコートを羽織っていて、こいつの表情が読めない。
ただ目を引いたのは、男が持っているチラシだ。「お試し田舎共同生活」とでかでかと書かれている。
行く場所が決まってない俺としては、話を聞いてみてもいいかな、とか思ってしまう。
「旅?共同生活?なんですか、これ」
「過疎地域への勧誘、って感じでしてね。若者を集めているんです。2ヶ月ごとに場所が変わって、全部で3箇所回ります」
「へー、こんなのに参加する人、いるんですか?」
「いますよ。ほら、あそこのバスの前にいるのが今回のメンバーです」
ちらっとロータリーの前に停まっているバスに目をやると、バスに乗らずに集まってる男女が5人ほど見えた。
「みなさん、所謂引きこもりと呼ばれている人たちでして、今回は家庭から無理やり出されたメンバーになっています」
「俺、引きこもりじゃないですよ?」
「存じています。引きこもりがニヤニヤしながら駅前を独りで歩くことはないですから」
うっ、俺ニヤニヤしてたのか・・・なんかショックだわ。
「じゃあなんで俺に声をかけたんですか?」
「16歳から19歳の範囲の男女を探していました」
「メンバーに未成年もいるんですか?え・・・めっちゃ怪しいんですけど」
「あの方たちは家庭から無理やり出されてますから。引きこもりは10代のうちに対応しないと。年齢が高くなるほど、現状の変化を望まずに改心するのが厳しい。放っておけば、間違いなく社会のお荷物になるでしょう」
俺が訝しんでいると、男が一枚の名刺を渡してきた。
「申し遅れました。わたくし、S高の社会科学習担当の戸塚です」
「S高ってあの・・・引きこもり専門の学校じゃん」
全国展開しているS高等学校。通信のような高校だと聞いたことがある。うちの高校では、よく引きニートS高としてよく話題になっていた。
「実は、今回声をかけたのは、あのメンバーの中にあなたの知り合いがいるからなんです」
え?
トントン。と横からリュックを叩かれる。
そこにいたのは、蛙のカッパを着た女の子。
「久しぶりだね、おにい」
俺の幼馴染の相坂胡桃(あいさかくるみ)が立っていたのだった。
6ヶ月で人生の幸せを見つける話 とろにか @adgjmp2010
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