Sourire
中学生のときに、クラスメイトにFって奴がいたんですよ。
どんな奴かって訊かれると…それなりにヤンチャだけど、すっげえワルってことはなくて、年相応…まあ、反抗期というか。…正直言って、俺にとってFは友達の友達ぐらいの感じで、そんなには仲良くなかったんですよね。たまに話すことがあるぐらいで。
ただ、Fに関してひとつ、ちょっと忘れられないことがあって。
中学三年の終わり際も終わり際、もう何日かしたら卒業式、って時期でしたね。
普通の授業は殆ど無くなって、代わりにいろんな行事や卒業式の練習を午前中にやるだけ、って感じになってて。
だから放課後…と言っても昼ぐらいの時間だったんですけど、仲の良い奴数人で机を寄せ合ってだらだら話してたんです。
その面子の中に、いつもはいないFがいて。
Fって俺がいつもいた仲良しグループみたいなのとはちょっと別の輪にいた奴なんですよね。だから珍しいな、と思ったのを覚えてるんですけど。
で、何でかは覚えてないんですけど、怖い話をする流れになったんですよ。
当時はまだテレビで心霊番組を全然やってた時代なんで、そういう番組で流してたネタとか、あとは学校にあった怖い噂とか、王道の都市伝説とかの話をずーっとしてて。
それで最終的に、そういう噂話じゃなくて、みんなは何か変な体験をしたことはあるか、って話になったんです。まあ…金縛りに遭ったとか、予知夢っぽい夢を見たことがある…みたいな、ゆるめの体験談をみんなで出し合って。
俺は子供の頃に家で一人で留守番してるときに、家の中で人の声っぽいものを聞いた事があったんで、その体験を話したことを覚えています。
…ただそれに関しては、実は「空耳か野良猫の声かもしれないな~」とも思ってるんですけど、場を盛り上げるために若干盛って、アレは確実に人の声だった!ってことにして話しましたけど。
そしたら、最後にFが出した話が…なんか、他の奴とは毛色が違って。
家の二階に笑ってるだけの人がいる、って言うんですよ。
みんなで速攻、「は?何それ?」ってツッコんで。そんなんめちゃくちゃ怖いじゃないですか。どういうこと?なんかの冗談?っていう。
でもFは半笑いで「冗談じゃないよ~」って言ってて。その半笑い加減で、俺らも逆に「あ、マジなんだ…」ってなって。
…Fが言うには、夜に家の二階に上がると、だいたい二週間に一回ぐらいの確率で廊下の奥に笑ってるだけの人が見える、らしいんです。
それは自分よりも若干年下ぐらいの、水色っぽい洋服を着た女の子で、全く見覚えのない顔だと。
でもその笑顔には全く屈託がなくて、なんというか…見ているこちらもほのぼのとした気持ちになるような、そういう爽やかな笑顔なんだそうで。だからFはその女の子を、座敷童みたいな、家の守り神的なものなんじゃないかと思っている、と。
大体そんな話でした。
「え、マジ?夢とかじゃなくて?」
って他の奴が訊いたら、
「信じてもらえないかもしれないけど、マジもマジだよ。他の家族も見てるもん」
ってFが言うんで、じゃあマジなんだ、お前すげえ話持ってるじゃん!ってかなり盛り上がったんですよね。
ただ、途中から普段からFと仲の良いYって奴だけが神妙な顔をしていて、若干引っかかったんですけど。
まあ、Fと仲良い奴だから、嘘付いてるって気付いたのかな~ぐらいに思って、特に気にはしてなかったんですよ。その話が嘘だと気付いても場が盛り上がってたら指摘しづらいじゃないですか。だから、そういう表情なのかな、と。
暫くして、Fが「ちょっと用事があるから」って言って先に離脱したんです。
みんなでお疲れ~また明日ね~って送り出して。
そしたら、Fがいなくなってすぐに、ずっと神妙な表情をしていたYが
「…え、お前らマジで気付いてない?」
って切り出して。
俺たちは全然わからなかったから、え、何が?って訊いたら。
「…あいつの家、平屋だろ?」
って。
そう言われて俺もやっと思い出したんですよ。
Fが病気で休んだ日にプリントとか届けに行ったことがあったんで覚えてたんですけど、Fの家は平屋で二階なんて無いんです。
それでみんなウワーってなって。
…これ、普通だったら、じゃあ嘘だったのか!騙された!ってなるはずなんですけど、みんなそれとは違う気味悪さを感じたんですよね。
まず、そんな仲良くもない俺でも分かるんですけど、Fってそんなトリッキーな嘘付くタイプじゃないんですよ。
むしろFって、嘘付くのがド下手なタイプだったんですよね。遅刻した時とか宿題忘れたときに先生相手に誤魔化そうとするんだけど絶対うまくいかなくて、最終的に本当に理由を言わされて更に怒られる、そういう奴だったんです。それは友達相手でも一緒で。
そのFがあんな上手に嘘付けるはずないだろ、っていう。
それにこれ、嘘で話すようなラインの話じゃないじゃないですか。
怖いっちゃあ怖いけど、なんかパンチがあるわけでもないし。
当時はその違和感をうまく言葉にできなかったんですけど、大人になった今ちゃんと考えると、中学生が嘘でこんな話するか?っていうのが大いに疑問で。
その年の頃の子供が作り話で怪談を話すとしたら、もっとちゃんとわかりやすく怖くすると思うんですよね。
何よりも怖かったのが、その場にいた全員が何らかの形でFの家が平屋なのを知っていたはずなのに、Fが例の話をしてる最中はそれをさっぱり忘れていたことなんですよ。
Fの家には二回ぐらいしか行ったことがない俺はともかく、その時の面子にはFの家に何回も遊びに行った奴も二人ぐらいいたんですよ。だけどそいつらもYに突っ込まれるまでFの家が平屋だったことを思い出せなかった。
そのYも、Fが話し終わってしばらく経つまで、Fの家に二階がないってことに気付けなかった、と。
それがもう、気味悪くて仕方なくて。
え~めちゃくちゃ気持ち悪い、今の何だったんだ…って変な空気になって、一気に場も盛り下がったんで、その後すぐ解散して帰っちゃいました。
翌日以降、卒業するまでの数日間もFは普通に登校してきたんですけど、あまりに気持ち悪すぎて、誰も「あれなんだったの?」みたいなことは訊けませんでしたね。
卒業した後、俺はそこまで仲良くなかったこともあってFとは連絡も取れなくなったし、それに地元離れちゃったから同窓会的なイベントには殆ど出席してないんですけど、今も地元に住んでるYに訊いてみたらFは同窓会とか普通に出席してるみたいです。
でも、誰もあの話が何だったのかについては未だに訊けてないって。
…まあ、仮に今Fに会ったとしても、俺もあれなんだったの?とは訊けないですね。なんか、あの話の細かい部分を明らかにするのが怖くて…。
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