第23話 爆発
しばらくは平和な日が続いた。俺は日奈子と一緒に帰ったり、昼休みに屋上で会ったりしたが、教室で会話することは当然無い。俺が教室で会話するのは委員長ぐらいだ。委員長も用事があるときしか話しかけてこないからたいして話さなかった。
日奈子のストレスもかなり緩和されてきていたのだが、おとなしかった井川が次第に日奈子に声を掛けるようになってきていた。
そして、この日。昼休みに井川が日奈子にしつこく迫っていた。
「なあ、今度の日曜、いいだろ。遊びに行こうぜ」
「……用事があるから」
「日奈子、いつもそう言ってるだろ。用事なんて無いんだろ、ほんとは」
「あるから」
「じゃあ、そんな用事すっぽかして俺と遊ぼうぜ」
「遊ばないから」
「なんでだよ。楽しいことたくさんやろうぜ」
今日の井川はとにかくしつこい。だが、俺が直接助けに行くわけにはいかないし、いつもだと森本が止めるところだが、この日は森本が先生に呼ばれてちょうど居なかった。教室中が注目しだしていたので、俺も遠慮無くそちらを見る。すると、日奈子がついに怒った。
「いい加減にして! 遊びには行かないって言ってるでしょ!」
日奈子はそう言って教室を走って出て行った。
「日奈子!」
上水一華が追いかける。入れ替わりに教室に帰ってきた森本由美がクラスメイトに尋ねた。
「どうしたの?」
「井川がしつこくしちゃって……」
森本が井川をにらむ。井川は顔を背けた。そして、森本は俺の方を見た。行けって事か。俺はゆっくり立ち上がり、教室を出た。まあ、おそらく屋上だろう。
俺は屋上まで上がる。居ないと思ったが、裏手に回ると日奈子が見つかった。
「災難だったな……」
俺が近づきながら言う。日奈子は少し涙目のようだ。
「はぁ。やっちゃった。あんなに怒るはずじゃ無かったのに」
「いいんじゃないか? たまには」
「だめよ。クラスのアイドルなんだし。冷静にあしらうべきだったわ」
「いいだろ、別に」
俺は日奈子の隣に立った。
「……来てくれてありがと」
「いつものことだろ」
「ううん。いつも私が『来て』って言ってから来てくれるでしょ。今日は何も言ってないから」
「そういえばそうか」
「うん。嬉しかった……」
そう言って、俺を見た。
「でも、ストレスたまりまくりで……私にもサービスして欲しいな」
「サービス?」
「いつも私がしてあげてるでしょ。でも、陽太にはしてもらってないから」
にゃあってやつか。
「アレを俺がするのか?」
「ち、違うわよ。そうじゃなくて……あなたなりのサービスよ」
俺なりのサービスか。俺は何をしていいか分からなかった。だが、日奈子が俺を上目遣いで、それも少し涙目で見つめてくるのを見ると、思わず手が動いた。日奈子の頭をなでる。
日奈子はじっとしていたが、やがて目を閉じた。
「これでよかったか?」
「うん。もう少しお願い……」
「わかった」
俺はしばらく日奈子の頭をなで続けた。
と、そのときだった。
「ひ、日奈子!?」
上水一華の声が響いた。
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