第11話

「うん。美味しそうね。ご苦労様」


私は料理長の肩をポンポンと軽く叩く。


出来上がった料理を見て感激する。


こんなご馳走、元の世界でも食べたことはない。


早く食べたくて配膳カートに料理を載せ、ナイフとフォークを大量に取り厨房から出る。


料理長達が疲れながらも私を睨んでいることには気づいていたが敢えて無視する。


私がずっと見張っていたため悪さをすることもできなかった。


料理を運ぶという使用人の言葉を断り自分で運んだのは、料理を盗まれたり細工されるのを防ぐためだ。


随分と時間がかかったためレオネルが部屋から出ずに待てているか心配で早足で移動する。


「お待たせ。早速食べようか」


私は扉を開けてレオネルに声をかける。


「ご主人様。遅かったので心配しました」


探しに行こうとしたが、窓に映った自分の姿を見て髪と瞳の色が元に戻っているのに気づき大人しく待っていた。


レオネルはもしかしたら、気が変わって自分のことを捨てようとしているのではないかと不安になったが、大量の料理を持って入ってきたのを見て安心した。


「料理がなかなかできなくてね。さっきできたばかりなのよ。ほら、食べるわよ。座って」


部屋にある唯一の椅子にレオネルを座らす。


私はベットの上に座り配膳カートを机がわりにして食べ始める。


「……っ美味しい!……これも!全部美味しいわね!」


あまりの美味しさに感動してレオネルがいるのを忘れて子供のようにはしゃぐ。


ほとんどレオネルにあげようと思って持ってきたが、これなら余裕で二人前は食べられるなと思い、もう少し要求すればよかったと後悔する。


レオネルも満足しているか気になり、チラッと様子も見ると私のことを見ていて食事をしている様子はなかった。


「どうしたの?食べないの?」


「いえ、食べます」


レオネルは私から慌てて目を離し、お肉を口に運ぶ。


'なによ……?'


彼の行動を不審に思うも料理が美味しくて放っておくことにした。


暫く夢中で料理を食べているとあっという間に全てを平らげた。


ボフンッ。


全て食べ終わると私はそのまま後ろに倒れ横になる。


ベットの上で食べると移動せずに横になれるので幸せだ。


その幸せを噛み締めながら二度寝したかったが、カメリア家を乗っ取るまで5ヶ月しか残っていないのでそんな暇はない。


5ヶ月後は妹の17歳の誕生日。


その日は皇宮で初代カメリア家の当主の意志を受け継ぐものか判断されるための儀式がある。


私は両親のせいでその儀式を受けることができなかったので、その日に乗り込んで一緒に儀式を受けるつもりだ。


その儀式を通過するにはある条件をクリアしなければならない。


その条件はゲームのお陰で知っているので問題はない。


だが、儀式に乗り込んだでも味方がいないと追い出されてしまう可能性がある。


追い出されないためにも5ヶ月で強力な味方を見つけなければいけない。


その前にレオネルの件を片付けなければいけない。


最初からレオネルをどうするかは決めていたので、後は本人に伝えるだけ。


「レオネル」


私は上半身を起こし名を呼ぶ。


「はい。ご主人様」


レオネルは私の前に跪き次の言葉を待つ。


「これから、貴方にはカメリア家の騎士になってもらうわ」


「はい」


「驚かないのね」


予想していた反応とは違い驚く。


説得するのが大変だろうと思って身構えていたのに、何だか拍子抜けする。


素直に言うことを聞いてくれるのは助かるが。


「はい。予想していたので」


「そう、なら話しは早いわ。これから三ヶ月、貴方にはカメリア家の騎士として働いてもらうわ。騎士になるには試験を合格しないといけないけど、貴方なら簡単に合格できるはずよ」


「はい。必ず合格します」


カメリア家の騎士なら部下達がどこに連行されたのか知っているかもしれない。


必ず合格してそれとなく探り、ついでに彼女がこの家でどんな扱いを受けているか探ろうと決めた。


「試験は今日あるわ。服はこれに着替えて」


そう言って、レオネルを連れ去ると決めた日から用意していた服を渡す。


「それとこれ。肌身離さず持っていて」


黒いブレスレットを渡す。


「これはなんですか?」


一見普通のブレスレットに見えるが、奇妙な気配を感じ尋ねる。


「容姿を変えるブレスレットよ。私が魔法をかけたから、そこらで売っている物より効果はあるわよ」


ブレスレットはどこにでも売ってある普通のもの。


その方がバレないと思った。


魔力を持たない者は絶対に気づかない。


魔力を持っていても相当優れたものでないと気づかないほど、どこからどう見ても普通のブレスレットになっている。


「ありがとうございます。ご主人様。大切にします」


レオネルはお礼を言うと早速手につける。


昨日変身したときと同じ容姿に変わる。


「お礼はいいわ。これから5ヶ月、私達は会うことはないわ。だから、その間にどうするか決めなさい」


「……はい。わかりました」


レオネルは自分の考えていることが見透かされていると気づき一瞬動揺するも、すぐに平静さを取り戻し返事をする。


「私は外を見ているわ。着替えたら声をかけて」


私はベットから降り窓に近づき外の景色を眺める。


「はい」


レオネルは私が背を向けると服を脱ぎ始め着替える。


用意された服に着替えると「ご主人様。着替えました」と声をかけた。


「うん。似合ってるわ。あとはそうね。その体を綺麗にしないとね」


私は魔法を使ってレオネルの体を綺麗にした。


汚れた肌や髪は清潔になり、匂いは良くなった。


本当は風呂に入れるのが一番いいが、そんなことをすれば男を連れ込んだことがバレるのでできない。


「どう?まだどこか気持ち悪いところはある?」


「ありません。ありがとうございます」


奴隷として過ごしてから一度も風呂には入ってなかったので相当汚かったが、今ので体中が綺麗になり昔に戻ったみたいで嬉しくなる。


「じゃあ、5ヶ月後ね」


「はい」


別れの挨拶を済ませると、私は転移魔法を使いレオネルを試験会場へと移動させる。


既にそこには沢山の受験者がいて突然現れた彼を気にするものなど誰一人いなかった。


暫く会場で時間が開始されるのを待っていると、騎士の正装の姿をした者達が近づいてくるのが見えた。


あれが、カメリア家の騎士たちかとレオネルは冷たい目を向ける。


「これより、試験を開始する。各自指示に従うように」






「とりあえず、味方を誰にするか決めるか」


レオネルを試験会場に移動させるとベットの上で横になりながらどうするか考える。


儀式の日、公爵と対立してでも味方になってくれるとなると限られた人物になる。


さらに、その人物の意見に賛同する者が現れなければならない。


そうなると自ずと誰を味方にしないといけないか決まってくる。


嫌だけど、この条件全てをクリアできているのはレオネル以外の攻略キャラ達だけ。


できれば全員味方につけれるのがベストだが、現実はそんなに上手くはいかないとわかっている。


欲は出さない。


一人。一人だけ味方につけさえすればいい。


「……皇太子だけはないわね」


あの日のことを思い出し絶対に会いたくないと思う。


「一体誰がいいのかしら」


私はため息を吐く。


攻略キャラ達も復讐相手なのに、力を借りなければ他の復讐相手に何もできないんだと思うと笑えてくる。


少しの間、目を閉じ三人の攻略キャラのルートを思い出し誰なら役に立てるか考える。


「決めた!公爵にする!」


そうと決まれば、ヘリオトロープのことを紙に書き出しどう接触するか考える。


トントントン。


いきなり扉が叩かれ驚いてペンを落とす。


レイシーの記憶でも、私が憑依してからも一度も扉を叩かれた記憶はない。


勝手に入らないとなると家族ではなく使用人なのだろうと察しはつく。


さっき厨房でのことが原因で使用人達の態度が変わったのかもしれない。


そう思うと、おかしくて声を出して笑いそうになる。


「どうぞ」


私は声が震えそうになるのを何とか耐え、いつも通りの感じで返事をする。


「失礼します」


顔面蒼白な使用人が一人、入ってくる。


入ってきた女性は今にも泣き出しそうで、さっきのことを聞いたのは間違いないなと思った。


「それで何かよう?」


私が冷たい口調で尋ねると、彼女はビクッと体を揺らし「お食事を下げにきました」と返事をする。


'ちょっと、いくら何でも怖がりすぎじゃない?これじゃあ、私が弱い者イジメしてるみたいじゃない。勘弁してよ'


私は女性の態度に呆れてしまう。


散々レイシーのことを虐めて笑っていたのに、さっきのことで彼女は自分も同じ目に遭わされると思っているのかずっと怯えている。


いくら何でも自分がやったことを棚に上げてよくそんな態度ができるなと感心してしまう。


「そう。そこにあるわ」


指で配膳カートを指し早く出ていくよう促す。


「……これ全てお嬢様が食べたのですか?」


皿の数を見て一人で食べる量ではないと思い、気づけば勝手に口が動きそう尋ねていた。


「悪い?」


私はカチンときて彼女を睨む。


「すみません。失言でした。すぐに下げます」


彼女は慌てて謝罪をし、急いでカートを押して部屋から出ていく。


「はぁ。せっかくいい気分だったのに……」


最後までレイシーに対する礼儀はなってなかったが、カメリア家を乗っ取りさえすれば復讐できるので今は無視することにした。


今は一人の使用人に割く時間はない。


「…‥切り替えよう」


頬を軽く二度叩き頭を切り替え、ヘリオトロープと仲良くなる方法を考えるも何も浮かばない。


いや、正確に言えば一つだけある。


だがその方法で接触すると公爵に魔力持ちだということがバレる可能性がある。


それは避けたい。


でも、これ以外に私が彼に近づける方法はない。


「仕方ない。彼を味方にする方法はこれしかないいもの」

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