走り抜けたキャラクターZ
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むかしむかしあるところに、ぼけの木が植わっていました。
ぼけの木は小さな丘の上で小さな花をいっぱいにつけて、風にそよぐのが好きでした。春にはうぐいすとおしゃべりをし、夏にはちょうちょとあそびます。秋にはまむしと踊り明かし、冬にはあおいの芽を雪から守ってやっていたのです。
ぼけの木は動くことができませんでしたが、ともだちがたくさんいたのでちっとも寂しくはありませんでした。彼のともだちが話してくれる広い世界を想像するだけで満足だったのです。
ところがある日、風がぼけの木に言いました。
「鳥が来るよ。赤い鳥がぜんぶ燃やしにやってくるよ」
ぼけの木はそれを聞いて恐ろしくなってしまいました。すると、雲が追い打ちをかけるように言いました。
「嵐が来るよ。雨と風がぜんぶうばいにやってくるよ」
ぼけの木はいよいよ恐ろしくなって言いました。
「たすけて。だれかたすけてよ」
けれど、だれも助けてくれません。うぐいすはあわてておろおろとするばかりでした。ちょうちょは風に流されてどうすることもできませんでした。まむしも気の毒そうな目で岩陰からぼけの木を眺めるばかりでした。そして、あおいの芽は鳥の道標にと葉を出していたのです。
ぼけの木がおそろしくて身をよじっていると、一足先に嵐がやってきて、ぼけの木が植わっていた丘を崩してしまいました。すると、あとからやってきた鳥は崩れた丘の下敷きになって死んでしまいました。
これにはぼけの木も喜んで踊り回りました。そうしてぼけの木は、はじめて自分が歩くための根っこを持っていることに気がついたのです。
「歩くのはうれしいな。怖くないのもうれしいな」
ぼけの木は喜んで歩き回ります。ぼけの木が歩いたあとには彼の種が撒かれ、鳥が燃やしたあとの大地にも緑が戻りました。すると、それを見ていたまむしが言いました。
「ぼけの木よい。ワシは足がないから歩くということがわからない。どうかお前の肩にのせて、景色を見せてくれないか」
しかし、ぼけの木は言いました。
「いやだよ。まむしは僕のおねがいを聞いてくれなかったじゃないか」
そう言うと、ぼけの木はまむしを根っこで蹴飛ばします。
ぼきん、ぐしゃり。まむしは派手に吹き飛びます。すると、まむしは自分の子どもに食べられて死んでしまいました。これにはぼけの木も怒って、まむしの子供を根っこで踏み潰してしまいました。
まむしの子供が悲鳴を上げて死んでしまうと、ぼけの木は胸がスッとする思いでした。その気持ちはぼけの木の中にいつまでも残り、やがてもう一度味わいたいと思うようになります。
やがて歩き回るだけでは物足りなくなったぼけの木は、西へむかうことにしました。
すると、五本の釘が立ちふさがって言いました。
「木が歩くなんてありえない」
「大人しく元いたところに植わっていればいい」
「私達もふみつけるつもりだろうがそうはさせないぞ」
しかし、ぼけの木は気にせず歩き続けます。
べきん、ぐしゃり。釘は悲鳴を上げる間もなくまっぷたつに折れてしまいます。折れた釘を見て、ぼけの木はまた胸がスッとしました。しかし、すぐにまた物足りなくなってしまいます。
そこで、またいろいろな方向へ手当たり次第に歩き回りました。気ままに歩くぼけの木の周りをうぐいすとちょうちょが飛び回り、あおいの芽はおっかなびっくりついていきます。歩いているうちに、つたの葉や桔梗の花など、新しいともだちも増えていきました。
ばきん、ぐしゃり。どかん、ぐしゃり。誰かを踏み潰すたびにぼけの木はスッとして自分が大きくなっていく気がしましたが、体が大きくなるのと同じようにスッとした喜びを忘れられない気持ちが大きくなっていきます。
「もっと、もっとだれかをふみつぶさないと」
ぼけの木はいつのまにか歩くことよりも、何かを踏み潰すことが好きになっていました。
ぶちり、ぐしゃり。やがて、ぼけの木は友達のつたの葉を踏み潰してしまいます。それは、つたの葉がぼけの木の根っこにからみつき、歩くのを邪魔したからでした。
「ああ、スッとした」
ぼけの木はつたの葉の上を歩きながら上機嫌です。それにこわくなったのが桔梗の花でした。桔梗の花は自分もいつ踏み潰されるかとしんぱいになったのです。
こわくてたまらない桔梗の花は観音様に言いました。
「助けてください。恐ろしいのです」
観音様は何も答えませんでしたが、風が像の裏からささやきました。
「嵐が来るよ。すべてを平らげる嵐が来るよ」
桔梗の花が顔を上げると、雲がささやきました。
「嵐が来るよ。雷様を抱えながら嵐が来るよ」
そこで、桔梗の花はぼけの木をある丘に招くと、嵐に言いました。
「嵐よ、あの丘は小高いから雷様が降りるのにちょうどいいぞ」
それを聞いた嵐が雷様を丘に下ろすと、丘にいたぼけの木は焼けて死んでしまいました。
桔梗の花は大喜びしましたが、うぐいすが飛んでくるとついばんで、桔梗の花を殺してしまいました。
そして、うぐいすは言いました。
「ああ、スッとした」
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一言:なんか変
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