アイリ

ゆらぎ

1. 友達

大事な友達がいた。

その子はよく笑う子で、周りからも元気で明るい子だと言われるような子だった。

ある日からその子はまるで違う人間かのように大人びて、元気に笑う姿は見なくなった。

心配する周りの目を尻目に、彼女は「いつも通り」を過ごしていた。

その子の名前は、


「アイリ」

「どうしたの?リク」


彼女は私のことを愛称もなく呼び捨てで呼ぶ。後ろに「ちゃん」を付けたり「りっちゃん」だったり色んな呼び方をされるけど、呼び捨てするのは親かアイリだけ。

でも、性格が変わるまでは「りっちゃん」呼びだった。


「ごめん!今日一緒に帰る約束だったけど、委員会で呼ばれちゃって、帰れそうにないや」


図書委員に入っている私は放課後の当番で帰りが遅くなることがある。それは決まった曜日のはずだったけど、今日の当番の人がどうやら学校を休んでいるらしい。

他にも人はいただろうになんで私なのか。


「そうなの?じゃあ私も図書室で待ってるよ。読みたい本もあったし」

「ほんと!?嬉しいけど帰り遅くなるの大丈夫?」

「うん。今日も帰り遅くなるみたいだから気にしないで」


アイリの家は共働きで両親とも働き詰めだ。だからよく1人でいる時間が多いのだ。

私が暇だろうから通話しようよと誘ってそのまま寝落ちしてしまうこともよくある。それをアイリがからかってくるまでがお決まりの流れだ。

アイリに感謝を伝え図書室に向かう途中、アイリの耳にふと目を向けた。夏休みに開け合ったピアスの穴はもう塞がりかけている。お泊まりをしていた時にテンションが上がり勢いで開けたものだ。お互いにはしゃぎあったあの日が懐かしい。

今まで本を読んだりすることもなかったのに読むようになったのもアイリが変わった日を境にだ。


「ねえ」

「どうした?のリク」


色々と考えていたらつい声をかけてしまった。もう図書室は目の前だ。誤魔化そうか、それともそのまま聞いてしまおうか。今まで流れたこともなかった気まずい間は私にとって違和感でしか無かった。

まるで私が私じゃないみたいで。

言葉につまる私を見てアイリは口を開いた。


「リクは都市伝説って信じる?」

「え、えっと、何?」

「例えば、留守番電話に昔の自分からのメッセージが届いたとか、決まった時間に決まった儀式をしてから眠ると未来に行けるとか」


予想もしてなかった言葉に困惑していると、図書室のドアが開いた。そこにいたのは先生だった。

私は思わず先生に駆け寄ってしまった。到底アイリの口から出るわけが無い言葉に私の頭は完全にフリーズしてしまったのだ。その空気を変えるきっかけに飛びついたのだ。

その時アイリは先生と話している私の背中を見つめていた。


当番を終え帰路に着く頃にはいつも通りの空気に戻っていて、図書室では各々の作業に耽っていた。

家に着いてからはあの質問のことを考えていた。アイリはどうしてあんなことを聞いたんだろう。アイリが変わった事となにか関係があるのかな。

そんな事を考えているうちに私は眠ってしまったのだった。


午前4時、私は飛び起きた。

ずいぶん早い時間に寝てしまったもので、日課の通話もしていない。案の定アイリからの不在着信とメッセージが届いている。

「もしかして寝てる?笑」、「いい夢見てね」、「おやすみ」

こんなにいい子がいるのかと感動していると、留守番電話の通知があることに気づいた。電話もメッセージもアプリで行うこの時代に留守番電話のメッセージが届いているのだ。


「例えば、留守番電話に昔の自分からのメッセージが届いたとか」


アイリの言葉が頭をよぎる。

そんなはずないと自分に言い聞かせながら、私はメッセージを再生した。

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