私のぱんだひーろー
弓野愛花
ゆきちゃんとぼく
ぼくの名前はぱんだひーろー。
「たすけて、ぱんだひーろー」の声を聞いたら駆けつけていくのさ。
黒いお耳に白い顔。タレ目に黒い囲い。青いスーツに赤いマント。それがぱんだひーろー。
「たすけて、ぱんだひーろー」
むむ、ゆきちゃんが呼んでる声がする。
たすけにいかないと。
ぱんだひーろーは大空をとぶ。
ぱっぱっぱーとやってくる。
「やあ、ぱんだひーろーだよ。どうしたんだい」
ぱんだひーろーを呼んだのはゆきちゃん。
細い体で肩までの長さの黒い髪。長袖の服で長めのスカート。タイツをはいた女子学生。
でもぱんだひーろーは知っていた。
この子の体には傷があってそれを隠していること、そして心も傷がついていることに。
「ねぇねぇ。ぱんだひーろー。今日はね、私の通った場所にはバイ菌があるから通ったらだめだって。私バイ菌なのかな」
ゆきちゃんの目には涙がたまっていた。
「大丈夫だよ。ゆきちゃんはとってもきれいだよ」
ぼくはできるだけ穏やかに、ゆきちゃんの心が落ち着くように。頭を撫でる。
「大丈夫だよ。大丈夫だよ。なんにも悪いことはしてないんだよ。」
ゆきちゃんはどうやら学校でいじめにあっているようだった。ぼくはそれを知っている。本当はいじめているやつらにぱんだパンチをいれてやりたいとこだけど、ぼくの姿が見えるのはゆきちゃんだけのようだった。
だからぼくはそっとゆきちゃんの側にいるだけの存在。一人じゃないよって伝えることしかできない無力なひーろー。でも、毎日、ゆきちゃんの元に飛んでいく。
「たすけて、ぱんだひーろー」
今日もゆきちゃんの声が聞こえる。
「やあ、ぱんだひーろーだよ。今日はどうしたんだい」
ゆきちゃんは涙を流しながら一言、
「今日は痛かった」
その声は痛々しくてぼくの心もしめつけられる。ゆきちゃんは体を隠すように服を着ているけど、その下にはあざがあるんだろう。
「そっか。痛いね、よくがんばったね。ゆきちゃんはえらいね。」
ぼくはゆきちゃんを抱き締めてぬくもりだけでも与えたかった。
今日もゆきちゃんの声が聞こえる。
「ぱんだひーろーがやってきたよ」
ひっくひっく。真っ赤な目でたくさんの涙を流していた。
「ねぇ、ぱんだひーろー。私は生きてたらいけないのかな。悪い子なのかな。」
ゆきちゃんはどんどん追い詰められている。ぼくはそれをわかっているけれど、できることはいつもと同じ。
「ゆきちゃんはね、とっても大事なんだよ。生きてていいんだよ。優しくてとっても素敵な子なんだよ。」
ぼくは今日もゆきちゃんを抱き締めて頭をなでる。よしよし、大丈夫、大丈夫なんだよ。
ぼくがついてるよ。
ぼくは一生懸命ゆきちゃんの幸せを願って。
それからしばらくの間、ゆきちゃんの声は聞こえなかった。
どうしたんだろう。ぼくはゆきちゃんを探しに学校に行ってみた。ゆきちゃんのいたはずの席はなにもなくなっていて、それが当たり前のように授業が進められていた。
毎日通ったゆきちゃんのおうち。
ゆきちゃんの部屋にはなにもなくなっていた。
ゆきちゃんはどうなったんだろう。
ぼくは彼女を救えなかったんだろうか。
激しい眠気がぼくを襲う。
なんだか眠くなってきた。
ぼくは眠気にまかせて深い深い眠りについた。
ぼくの仕事は終わったんだろう。
それから15年の月日が流れた。
ぼくは眠っていた。
「たすけて、ぱんだひーろー」
かすかに、どこからか声がする
「たすけて、ぱんだひーろー」
ぼくは長い眠りから目を覚ました。
いかなくちゃ。
ぼくはびゅーっと空を飛ぶ。
そして声の先には小さな女の子がたっていた。
「あなたはぱんだひーろーなの?」
誰だかわからない短い髪にかわいらしい服を着たかわいい女の子。
「そう、ぼくはぱんだひーろーだよ。君をたふけにきたよ。どうしたんだい」
「ほんとにぱんだひーろーがきた、あのね、お母さんとはぐれちゃったの」
女の子落ち着かない様子でぼくにたすけをもとめる。
「そうか、じゃあままをさがそう。君のお名前は?」
「私はね、さくらちゃんだよ」
「よし、さくらちゃんじゃあ一緒にママをさがそう」
ぼくは女の子がままを探しているのについていっていた。
「ママとはもう会えないのかな」
「そんなことないよ、ママも君を探しているよ。」
するとその会話の直後に館内アナウンスが流れた
「さくらちゃん、お母さんが探しています。インフォメーションに来てください」
女の子の表情が一気に明るくなった
「ままだ!」
ぼくは道がわからないさくらちゃんをインフォメーションに案内してあげた。
そこにいたのは昔ぼくを呼んでいたゆきちゃんだった。
さくらちゃんはゆきちゃんに嬉しそうに言った
「ままの言う通りぱんだひーろーをよんだらきてくれたよ」
ゆきちゃんは
「そうでしょう。ママもたくさんたすけてもらったんだよ」
ゆきちゃんにはぼくの姿は見えていないようだった。
だけど、よかった。
ああ、ぼくは、ゆきちゃんを救えたんだね。
ゆきちゃんは自分の力で幸せをつかんだんだね。
ぼくは安心してまた深い眠りについた。
私のぱんだひーろー 弓野愛花 @aelmi
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