第22話 魔法を使いたい
「というわけで、五人目の仲間です!」
「「ほぉー」」
「ふーん……」
反応薄っ。頼もしいでしょ! もっと「うおーーーーっ‼︎」って感じでさ……。
トウキ君は救出隊のメンバーを見回して、不思議そうに口を開いた。
「ソラ」
「ん?」
「ガリにハゲ。子供に風の加護持ち……仲間が個性的すぎないか?」
「え、えぇと、まあまあ普通……じゃない?」
「「「「いやいや」」」」
いやいや、全員がツッコまなくてもさ。個性的……それは、そうだなぁ。
強面のドッカリに、ガリガリのマルさん。子供のマイマイちゃんに、普通すぎる僕。これに鬼人のトウキ君が加われば、さらに個性的になるなぁ!
「た、頼もしいよねっ!」
「そうか?」
僕の言葉に、トウキ君は怪訝な顔を向ける。
確かに、頼りになるって言える人が、マルさんは、アレだしなぁ。
ドッカリも……マイマイちゃんは論外だし。頼りに……うーん。
頭を抱え出す僕に、トウキ君は苦笑を向ける。
「まあ、頼もしい味方は何人いても良いですからねぇ! さっそくですが、出発しましょう!」
皆んな自分の荷物を背負い直して、宿を出る。
僕も頭を切り替えて、それに続いた。
「それじゃあ、北東にある町まで移動しますよぉ! そこに着いたら、いよいよゴルゴン金山ですっ! 行きますよぉっ!」
パシンっと鞭を打ち、馬車が動き出した。
目指すは金工の町「ゴルゴーン」
金を細工して、アクセサリーを作ったり、それを輸出したりする町らしい。
何でも、ハザマの国の都市に次ぐ経済規模で、そこかしこが金ピカな町なんだとか……超気になる。
金工の町だから、町民の人達はお金持ちが殆どらしく、お金持ちが出す高額依頼を狙った冒険者や、金品を狙った物取りが多く、まあまあ治安が悪いそうだ。
町は治安維持に莫大な予算を掛けているらしいが、ドッカリの話だと、治安維持をしている警備隊と悪人が裏で繋がっているせいで全然意味が無いらしい。
「まあ、見せ掛けだけは良い町、って思っといた方がいいですよ。スリが多いんで貴重品は隠しておいた方が身の為ですね。気を付けてくださいね、ソラさん」
「え、僕⁉︎」
理由が分からず、あたふたする僕に向けられた三人の視線は、左手に集中していた。あっ、この指輪か! 確かに、これは盗まれてはいけない大切な物だ。気を付けよう。
「その指輪、どこで手に入れたんです?」
「これは、エリオラさんって人から貰った物なんだ」
へー、という顔をするドッカリ。
彼の反応を見るに、エリオラさんのことは知らないようだ。
「ソラの指輪、キレイだよね……!」
「そうだね。カッコいいかな?」
「……」
「え?」
興味津々な顔をしているマイマイちゃんは、その目を輝かせて、指輪を撫でている。素人目の僕から見ても、これは高価な物だと分かるし、謎の模様も入っていて、オマケに紫色に光っている。すごくお洒落な物なんだと思う。
まあ、お洒落がよく分かんないんだけど……。
「これは大切な物だから、絶対に盗まれちゃ駄目だ。ありがとう皆んな、気を付けるよ」
感謝を伝える僕に、二人は肩を竦めて微笑した。マイマイちゃんは、まだ指輪に興味津々な様子。僕は苦笑しつつ、満足するまで見せてあげた。
これを命懸けでエリオラさんは守っていたんだ。
もし無くしでもしたら、僕は死んでも償えないだろう。
それにしてもこの指輪、何なんだろうな。
誰も知らなそうだし、一体どういう物なんだろうか?
* * *
「今日はここで休みますよぉ!」
夜。また同じように開けた道の脇で野営をする。
僕とドッカリが薪を集め、マルさんは馬の世話。
トウキ君はマイマイちゃんのお守りだ。
「よしっ、今日は贅沢しますよぉ!」
「「「おー」」」
トウキ君を除いた三人は、パチパチと拍手をする。
贅沢って何を食べるんだ? と期待の眼差しを向けられるマルさんはニカっと笑い、袋からある物を取り出した。
「あ! それって……」
取り出したのは、見覚えのある小さな木箱。たしか……
「これは味噌、ですよぉ!」
箱を開けて出てきたのは、艶のある土のようなもの。
「ほー、いいな」
「トウキ君、知ってるの?」
「あぁ。鬼国で知らない奴はいないんじゃねぇかな」
「へー。有名なんだ」
「俺、味噌汁飲んだことありますよ! 甘かったですね」
甘いのか……汁、飲み物なのか。
「あぁ。俺の好きなのは塩辛いやつだな」
「へー。いろんな種類があるんだ」
「ああ。赤味噌、白味噌って言うんだよ。赤が塩辛い」
じゃあ、僕好みなのは、赤味噌? なのかなぁ。
マルさんが持ってるのは、何味噌なんだ?
「マルさん。それ、何味噌なんですか?」
「これはぁ、多分……白?」
白味噌かぁ——てことは甘いのかな?
「マイマイちゃんは、辛いのと甘いの、どっちが好き?」
「私は……すっぱいのが好き」
「へー。じゃあ、レモンとか好きなんだ?」
「うん。レモンは好き」
なるほどなぁ。
「じゃあ、作りますよぉ!」
熱湯に火を通しながら、味噌を溶いていく。どんどん湯が茶色に染まり、独特な香りを発し始めた。その匂いは食欲を刺激して、ドッカリの腹を鳴らした。
「いや、その、腹ぁ減ってて……へへ」
顔を赤くする彼に、僕達は笑った。皆で鍋を囲み、味噌汁を食す。〆に鍋に麦を入れ、粥にして腹を満たした。
魔獣の警戒は僕とトウキ君の二人で、二時間おきに交代しながら行うことになった。
「じゃ、二時間後に起こしてね」
「オウ」
僕は毛布を敷いて、横になり目を瞑る。
それから一時間くらいが経った頃、バチバチっと音が聞こえて目が覚めた。
「うん……?」
「お、悪りぃ、起こしたか」
寝返りを打ち、トウキ君の方を向くと、掌からバチバチと光を発していた。
僕は目を見開いて飛び起きる。
「それっ! もしかして!」
「ああ、魔法だな。悪りぃな、偶にこうして使っとかないと鈍るんだよ」
トウキ君、魔法使えるのか。 良いなぁ。バチバチと雷みたいな、何だっけ?
爺ちゃんが、教えてくれたような……確か、電気?
「それ、何の魔法?」
「ん? これは雷魔法だ」
「カッコいい……!」
「そうか?」
羨ましい、僕も使いたい。
そんな羨むような顔をした僕に、トウキ君はニヤッと笑った。
「教えてやろうか?」
「え、マジでっ⁉︎」
トウキ君は僕の反応に笑みを噛み殺した。
「いいぜ、教えてやるよ。減るもんじゃ無いしな」
トウキ君! これ、これ僕も魔法を使えるようになるのかな⁉︎
「教えてっ!」
「オウ。こっち来いよ」
僕は魔法を教えてもらうため、彼の向かいに腰掛ける。
「じゃあ、魔力を出してみろ」
「——?」
魔力を出すって、どうするんだ?
「そうだな、心臓から力を引っ張り出す感覚で、掌に力を集中させろ」
「心臓から……」
「魔力の源は心臓だ。そこから魔力を流して全身に送られてる。その魔力を意識的に掌に集めるんだよ」
なるほど。心臓、心臓……うーん。
僕は右の掌を見つめながら、心臓から力を集めた。
「できてる?」
「できてない」
くっ。まだまだ、諦めないからな!
結局、その日は何も進まず夜が明けた。
それでも僕は諦めず、移動中にも教わり続けた……。
* * *
四日目——昼
「ソラさん、実直ですね」
「ん? そうかな?」
「ずーっと集中してるじゃないですか。俺なら諦めてますよ」
移動中にそんなことを言ってきたドッカリは、僕を見て目を丸くしている。
朝からずっと練習しているせいか、マイマイちゃんも僕に興味ありげだ。
魔法の練習は思っていたよりも、地味でハードだった。
出来る気がしない、というか、全く進展しない。
何も変わらない現状に、流石に焦ってくる。
そりゃあ、一日二日でできる物じゃないんだろうけど、こう、何だろうな。
意外と簡単にできそうと、高を括っていたのも正直ある。
魔法ってこんなに難しいのか——と僕は衝撃を受けた。
これを普通にやっていた、ルナさんとアミュアさんって本当に凄いんだなと実感する。
「根詰めすぎても良くないぞ。少しは休憩しとけ」
「……分かった」
トウキ君に促され、僕は魔法習得を一時休憩する。
止めた瞬間、ドッと疲れが襲ってきて、僕は大の字になって寝転ぶ。
「はい、水」
「あ、ありがとうマイマイちゃん」
水筒の水を飲み干し、再び寝転がる。
目を瞑ると、僕はいつの間にか寝てしまった……。
「ソラ、着いたぜ」
「うん? よっと!」
トウキ君に起こされて、バッと起き上がる。
荷台から降りると、沢山の馬車が周りに停められていた。どうやら集合駐車場のようだ。こんな駐車場があるってことは、大きな村なのかな?
「行きますよぉ!」
「あ、はい!」
宿で借りた大部屋で、マイマイちゃんを除いた男四人が一緒の部屋になった。
明日、ゴルゴーンで準備した後、ゴルゴン金山へ出発する。
今は作戦会議で、具体的にどうやってお父さんを救出するのかを話し合う。
「俺とソラが金山に入って救出。マルとドッカリは足が遅いから外で待機。これが一番現実的だろ」
「イヤっ、私も戦いますヨォ! クレジーナとか言う悪女を成敗しなくてはなりませんっ!」
成敗って、やっぱり殺す気なんじゃないか、この人。
やっぱりあのモーニングスターは凶器だ。取り上げないとな……。
「成敗は、ちょっと過激じゃないですかね?」
「マルさん、そもそも近づけないですぜ? クレジーナさんの周りには超強いボディーガードが四六時中付いてますからね」
ボディーガードか。そりゃあいるよな。相当なお金持ちなんだろうし。
「それなら問題ない。俺が何とかする」
おぉ、頼もしい。この中で一番強いのはトウキ君だろうし、今回の作戦は彼に頼りっきりになりそうだな。
「私も力になりますヨォ!」
「ま、マルさんは止めておいた方が……」
マルさんが動けば、もっとヤバい罪に問われることになりそうだ。
取り返しのつかないことになる前に、どうにか彼を置いていかないとな。
僕はトウキ君とドッカリに目配せして、その意思を伝える。
二人はそれに、マルさんに気付かれないよう小さく頷いた。
「俺とマルさんはマイマイちゃんのお守り——あっ、バケットの顔が分からねえのか」
「それなんだよなぁ……」
そう、それが一番の問題点だ。
マイマイちゃんを連れて行くのは危険極まりない。
が、彼女がいないと、彼女のお父さんのバケットさんが分からない。
金山に入って、バケットさんは誰ですか? なんて聞くのは怪しすぎるし、自然に聞ける状況が思い浮かばない。
「どうします……か?」
「私が保護者として、 マイマイちゃんと見学しに金山に入っる。その後、お父上の居場所を知らせる。なんてどうですかね?」
「マルさんとマイマイちゃんって似てないよね? そこ大丈夫なのかな?」
「そうだなぁ、女が居れば入りやすいかもですね」
ドッカリの提案は効果ありそうなんだけど。
「知り合いの女の人、誰か……?」
「俺はいないですね」
「ドッカリは……まあ、そうだよね」
「え? どういう意味?」
次に口を開いたのはマルさん。
「うぅん。リトトスを連れてきていればねぇ……」
リトトス……?
僕とドッカリはお互いに目を合わせ『まさか』という表情をする。
「あの、誰ですか? リトトスって」
「んぅ? 私の妻ですよ?」
「「え?」」
マルさん既婚者だったの? うそぉ……。
まさかの衝撃発言に、ドッカリは顎が外れたの? というくらい口が大きく開いたまま固まった。僕も『え?』という顔で固まってしまう。
それに不思議そうな顔で「私、何かしました?」とマルさんは言った。
「え、あ、おおお? ドドドど、どんな人ですか?」
ゴクっと固唾を飲んだドッカリが、今一番気になることを聞き出そうとする。
「エルフ族の人です。花のような方で美しいですよぉ」
「え、う、あ、ああぁあ、うっ、うぅ……」
えっ! 泣き出したぁ……!
ワナワナと震え出したドッカリは、押し殺していた心底の悲しみを、我慢できないとばかりに溢れさせた。
「ドッカリ、な、泣いちゃった……」
「ぶははははっ! ククッ……泣くほどのことかよ?」
「笑っちゃダメだってトウキ君! 傷ついちゃうでしょ!」
僕は啜り泣くドッカリの背中を摩り、励ましの言葉をかける。
「出会いは必ずあるよ! 大丈夫!」
僕はこの光景に既視感がある。
カカさんっていう、似たように暴れ泣く人を僕は知っている。
こういう人が一度泣き始めると、慰めるのは至難だ。
慎重に……泣かないように……。
「俺、俺ぇぇぇ。今年で三十なのにっ、童貞なんだよぉっ! エルフっエルフぅぅぅ……!」
うぅっ、これは重いっ。難しい問題だな。
エルフは多種族との婚約は滅多にない(カカさん談)
彼の種族との婚約を羨む人は少なくない(カカさん談)
見目麗しい彼等彼女等に求婚しては玉砕する人は後を絶たない(カカさん談)
全部、あの人が獣みたいな目で教えてくれたことだ。
まあまあ、信用……できる、よな。
だから、ドッカリが羨むのも無理はないのだろう。
「泣くほどのことですかねぇ?」
「うわあああああああああああああああああああ⁉︎」
「マルさん! 煽っちゃダメだよっ!」
「ぶははははははははははははははっ!」
「トウキ君、笑っちゃダメだって!」
その日は、ドッカリが泣き疲れて眠るまで、僕は励まし続けた。
もう作戦会議とかできる状況ではなく、他二人はさっさと就寝してしまった。
結局やるしかないんだな、体当たりで……!
僕は人知れず、気合を入れ直した。
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