第21話 白鬼『トウキ』

「よしっ、準備完了!」

「お、俺も」

「私も」

「それじゃあ行きますヨォ、皆さんっ!」

 

 早朝。僕達は馬車に乗り、マイマイ父さん救出作戦を決行するため、ゴルゴン金山へ向かう。

 僕はもう一本短剣を携えて、二刀流の戦闘スタイル(弱い)

 ドッカリは斧を持ち、パワーファイターの雰囲気を放っている(だけ)   

 マルさんにいたっては、どこから持ってきたのか、モーニングスターを装備している(危険)


 僕は、そのモーニングって武器が分からず、冒険者歴二年のドッカリが武器の詳細を教えてくれた。

 知れば知る程、この人が持っていていい武器ではないと思う。

 なんかトゲトゲしてるし、これ使ったら死ぬよね?

 いや、それは剣も変わらないけど、使用者がさ。隙を見計らって取り上げないと。

 

 マルさんのヤル気をひしひしと感じる。お父さんを救えたとして、人を殺すのはマズイだろぉ。どうすんだよ……。

 

 いかんいかん、悪い方にばかり考えるな!

 マルさんにも良心というか、倫理観はあるはずだろ。

 人殺しなんて、しないよな……しないよね?


 僕は両頬をパンっと叩き、何とか意識を切り替える。

 よし……。この戦力、怖いもの無しだなっ!


「あはははははははははははははははははは!」

「……!? な、なに!?」 

「ソラさん? ど、どうしたんだ……?」

「おヤァ、ソラくんもヤル気になってきましたカァ!」


 意気込む二人に、恐怖する二人。

 凸凹の四人組は、ゴルゴン金山へ進軍する——!    

      

   * * * 


 一日目——夜

 

 僕達は野営をすることになってしまった。

 開けた道の脇に、木と石を並べて火を付ける。

 リップさんから貰った、火の魔導具で着火だ。

 火は枯れ草から木へと燃え広がり、あっという間に辺りを照らした。

 

「あとは魔獣対策ですねぇ。ソラくん、本当に一人で大丈夫ですか? もしもの時は私も戦いますからねぇ!」

「はい。もしもの時は助けを呼ぶので、マルさんはそれまで寝ててください。明日も移動しなきゃいけないし」

「も、もしもの時は、俺もやるぞ!」

「ドッカリにできるの?」


 ドッカリに疑いの目を向けるマイマイちゃん。

 

「や、やるぞっ? 俺は戦えるんだ……」

「ふーん」 


 震えながら言われても、信用できないなぁ。

 いざという時、ドッカリが一番に逃げ出しそうな感じがするし。

 胡乱な目を向ける僕達に、ドッカリは驚いたような表情をした。 


「ソラさんまで俺を、う、疑ってるのかっ⁉︎」

「「うん」」

「あ、そう……」

「ご飯の準備をしますよぉ!」


 僕達は、膝を抱えて蹲るドッカリを無視して、食事の準備を始めた。

 夕食は、買っておいた干し肉とパン。

 あと葉野菜を挟んでサンドイッチにして食べる。

 暖かい白湯も飲みつつ、僕達は夕食を終えた。


「なんか……新鮮」

「確かに。僕も野営は初めてだなぁ」

「俺も!」

「私は何度かありますよぉ」


 夜が更け、マイマイちゃんとマルさんは眠りについた。

 僕は何故だか眠くはない。やる気のせいかもなっ!

 

 火を絶やさないよう焚き火に木を入れつつ、夜を凌ぐ。

 薄暗い夜道は、焚き火の光が届かない所は真っ暗な闇に覆われていて、僕の恐怖心を煽った。頼もしい味方のドッカリは案の定、一緒に見張りをすると言っていたのに、イビキをかいて寝てしまっている。はあ。

 後で叩き起こそうと思いつつ、僕は警戒を続けた。

   

        * * *

 

 二日目——昼


「あの、僕ちょっと、寝ます……」


 天幕が春の日差しを遮るが、ふとした時に目を瞑りそうになるほど、僕は強烈な眠気に襲われていた。昨日一睡もせず、火を保っていたせいだろう。

 眠すぎる。目を瞑った瞬間、そのまま眠りに落ちることが容易に理解できた。

 

「すまん、ソラさん。俺、昨日……」

「ドッカリのせい」

「ごめんなさい……」

 

 ドッカリを責めるマイマイちゃんに苦笑しつつ、僕は荷台に毛布を敷き、そこで横になる。道はガタガタで、座っていると腰を壊しそうなほど荷台が揺れ跳ねるが、横になり目を瞑った瞬間、僕は深い眠りに落ちた。  

 

「ドッカリのせい」

「ご、ごめんって……」


        * * *


 二日目——夜

 

「宿だぁ」 

「今日はゆっくり休んでくださいねぇ」

「ふぁああ……もう寝ますぜ、俺は」

「ドッカリのせい」

「ごめんって!?」


 僕達は立ち寄った村で宿を借りて休むことになった。


 二日連続での野宿は子供のマイマイちゃんや、徹夜することになった僕には荷が重いという判断で少し遠回りになるこの村に、マルさんは向かってくれていたようだ。

 食事中にマルさんや、ドッカリの話を聞くと、ゴルゴン金山はこの村から東へ三日程かかる場所にあるらしい。

 今日はこの村に泊まれるが、次は村が遠くて野宿になるとか。 

 それを聞くと、ちょっと暗い気持ちになる。


 僕は項垂れながら、借りた部屋の扉に手を掛ける。 


 マイマイちゃんは一人部屋。マルさんとドッカリは相部屋。僕は——


「あ、こんばんわ……」

「ん」

 

 一人部屋が空いておらず、見知らぬ人と相部屋になった。

 ベットに座っていたのは、歳が近そうな一人の青年。

 白い髪に黄緑色の瞳。額から二本の角が生えた——鬼人族だ。

 身長は僕と近い『百七十五』センチくらい。灰色を基調にした見たことない服装。

 鬼人族が着ているから、これが和服ってやつなのだろう。

 

「「……」」

 

 ちょっと影のある雰囲気……。

 せっかくなら話をしたいけど、これは終始無言かもしれないな。 


 ——あっ! 壁に立て掛けられてるのって、刀かな?

 白くて細い鞘、柄も普通の剣と違う。

 どうやって使うんだろうか? 振り回すだけでいいのかな? そんな訳ないか。

   

「なあ」

「——⁉︎ な、何ですか?」 


 影のある青年は僕をまじまじと見ている。何だ?

 

「お前のそれ、加護か?」

「へ? あ、ああ、風の加護、ですね」

「風の加護……」


 そういえば加護を持っている人は珍しいって、エリオラさんが言ってたっけ。

 というか、よく気付いたな。


「よく、分かりましたね?」

「ああ、敬語はいらない。歳、近いだろ?」

「ええと、おいくつ?」

「一七」


 あ、本当に歳近いな。


「僕、十六」

「な? 近いんだから敬語いらねえって」


 じゃあ敬語やめるか。

 

「分かったよ。えっと、名前は?」

「俺は、トウキ。お前は?」

「僕は、ソラ。ソラ・ヒュウル」

「ソラか、よろしくな」

「……うん。よろしく、トウキ君」

 

 それから彼と、たわいもない話をした。       

 どこから来たとか、どこに行くかとか。

 歳の近い同姓の人と話をするのは、とても新鮮だった。


「あぁ? 武器屋の親父を助けに行く?」

「そう。これからゴルゴン金山に、マイマイちゃんのお父さんを救出しに行くんだ。まあ、金山にお父さんがに居るのかは分かってないけど……」

「ああ、ゴルゴンの金山は俺でも知ってる。鬼国でも有名な場所だ。警備は厳重なはずだぞ、何か策があるのか?」


 鬼国って、ハザマの国の隣にある島国だよな。

 隣国にまで知れ渡っているとは、そんなに有名なのか。

 

「策は、その場で考える予定だね」

「ククッ。マジかよ」

「……マジだね」


 笑われてしまった……。やはり無謀だったのだろうか。

 いやいや、どう考えても無謀だよな。

 でもなぁ、マルさんが止まらなそうだし、マイマイちゃん家に実害が出てるから、何もしないのはできない。僕が助けるって約束したし、今更やめられる訳が無い。


「無策でもやるよ、体当たりで!」


 ゴッ、と両拳を突き合わせ、覚悟を表明する。


「クククっ……」

「笑うとこじゃないよ」

「いや、すまんっ——くっ、はははははははははっ!」


 トウキ君は僕の覚悟を腹を抱えて笑い始めた。

 そこまで笑わなくてもさぁ。僕が可笑しいのはそうなんだけど、こっちは本気なんだが? 不服は顔を向ける僕に、トウキ君は何とか笑いを抑えた。

 

「いや、何だ、いいな」

「——? 何が?」

「ソラ、俺も仲間に入れてくれよ」

「——えっ⁉︎ でも危ないかもだよ?」

「子供の為なんだろ? だったら俺も力になりたい。もし俺がお前を見捨てて、万一お前に死なれでもしたら夢見が悪いしな」


 それは、すごくありがたい。でも良いのか? 

 初対面の彼が危険な目に遭うかもだし、何より金山に侵入ってことは、犯罪者として捕まる可能性だってある。

 成功しても報酬なんか無いし、失敗したら世に知れ渡るのは名誉じゃなく悪名なのだが。スゥー……こうして考えてみると、僕とんでもなくヤバいことをしようとしてないか? ちょっと不安になってきた……。


「……いいの?」

「オウ。二言は無い」

「……ありがとう」


 トウキ君はニッと笑い、そのままベットに寝転がった。

 僕も自分のベットに寝転がり、明かりを消す。 


 まさかまさか、救出隊に五人目が加わった。出会いに感謝だ……!

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