眼つきが悪いで有名な学校一の黒髪不良美少女が俺にだけ甘々デレデレになっていく件。

藍坂イツキ

第1話「屋上で一人の不良ちゃん」


 

 

 春が過ぎ、梅雨の手前。

 少しずつ夏に向けた暖かさを含みつつある陽の光に照らされる。


 そんな何でもない一日のはずだった。


「あ」

「ん」


 その日、屋上の小さなベンチ俺のテリトリーに侵入者が座っていた。


 生徒会での仕事や放課後にあるアルバイト。

 そんな忙しさを外の美味しい空気で洗い流せる、普段は誰もいない屋上。

 この高校に一年以上通っていて、今まで人っ子一人も見たことがないその場所に女子生徒が立っていた。


 腰辺りまで伸びた綺麗で艶のある黒髪。

 太陽の下に照らされる白く透き通るような肌。

 座っているだけでも伝わってくるスタイルの良さに、思わず目を奪われてしまう大きな胸。




 ――鮮烈、加えて苛烈。

 


 そして、どこか寂しそうな哀愁も漂わせる。ちょびっとだけ大人びた彼女。 


 一目見れば彼女が誰なのかはすぐに分かった。

 この高校では有名な女子生徒。

 その、鋭い赤い眼光、鋭く刺さるような眼つきはこの高校には一人しかいなかった。




 ――柊木美咲ひいらぎみさき





 俺と同じ公立第三高校の二年生。

 そして、クラスメイトでもあり、みんなから避けられている孤高の一匹狼。


 またの名を逸脱美少女な”不良”。





 そう、その日。

 俺は、彼女と出会ってしまったのだ。






☆☆☆




「何か用」


 鮮烈で苛烈な彼女は屋上に入ってきた俺に、開口一番そう投げかけた。

 

「用って、まぁそこ俺の席だから」

「は?」


 当然のように言うと柊木は少し不機嫌そうに首を傾げる。


「あぁごめん。ちょっと言葉足らずだったよ。これから昼飯食べようかなって思ってここに来た感じかな」

「はぁ。それがどうしてお前の席になるんだ?」

「昨日までほぼ毎日そこで食べてたからさ。てっきり他に誰もいないと思って」

「あぁ、そう」


 そこまで説明すると柊木はぶっきらぼうに頷く。

 しかし、その先は特に何も言わないようで俺は自分の弁当箱を指差し尋ねることにした。


「その、いいかな?」

「どうぞ、ご勝手に」

「う、うん」


 俺の問いに対して投げかけられたのは不愛想な返事。

 それならいいかと近づき、柊木の横へ腰を下ろすことにした。

 

 同じベンチへ腰を下ろすと彼女は少しだけ離れて座り直し、50 cmの距離が空く。


「……」


 しかし、何も言わない。

 だからこそ、いやというわけではないのだろうと結論付ける。

 

 お弁当箱をきんちゃく袋から取り出して、膝の上に。

 パカっと開くと今朝に詰めたジャムを塗っただけのサンドイッチが3個ほど顔を出す。

 

 


「いただきます」




 律儀にも手を合わせて挨拶をして一個を口の中へ。

 咀嚼し、嚥下し、そして再び口の中へと繰り返していく。

 

 そこでこの空気に耐えかねて俺が柊木の方へ視線をずらすと彼女と再び目が合った。


 いや、というよりも彼女が俺を睨みつけていた?

 何か悪いことしたのかな、もしかして食べたいのかな、と気になって尋ねてみる。


「柊木、どうかしたか?」

「別に……なんもないし。まずそうな昼飯だなって思って」

「まずっ……よ、容赦ないな。否定はしないけど」


 てっきり食べたいのかな? って思った数秒前の自分を殴りたい。

 

「否定しないのか。プライドのない奴め」

「ま、まぁ」

「生徒会の書記様が随分と情けないんだな」

「ふんぞり返っているよりかはマシだろ?」

「それはどうかな。お前みたいにへこへこしてるのも私には同じように見えるけどな」

「厳しいんだな」

「違う。お前らみたいなやつらが嫌いなだけだ」


 どうやら不機嫌そうなのは俺が嫌われているだかららしい。

 柊木には何も迷惑はかけてないというのにな。


「まぁいいや……にしても、俺のこと知ってるんだな」

「知ってるも何も、毎日話しかけるだろ私に」

「宿題回収の時だけだな」

「あぁそうだ。いちいちしつこく話しかけてくるから覚えるよ」

「しつこくってこれは委員長としての義務だしなぁ」

「それがうざいんだ。だから嫌いだ」


 あまりも理不尽。

 そして加えて怖い眼つき。

 こんなんじゃそりゃ相手にされるようには思えない。


 そう、彼女は孤高の存在だ。

 あまりにも鋭すぎる眼つきと、話しかけると高圧的な態度をしてその存在を突き放す。

 わざと一人でいるのか、それとも本音が言えなくて強く当たってしまうのかは俺には分からないが、とにかくいつもそのせいで一人でいる。


 朝は教室に入ってくるだけで緊張感が走り、担任からもあまり何も言われず、授業中はぼーっと外を眺めて当てられたら「すみません。分かりません」と言って、もはや問題児。


 そんな柊木に声をかけるなんて相当の物好きしかいないと言われるほどで、その物好きが俺なわけで。


 今日、場所で会うとは思ってもみなかった。


「ひどいなぁ。俺がいなかったら宿題やらないくせに」

「あぁそうだ」

「留年するぞ」

「……しないようにする」


 そこまで高圧的なのに留年は嫌なのはよくわからない。

 不思議なことにこいつ、毎回追試は合格するんだよな。


「はぁ。もういい。私戻る」

「え」

「それじゃ」


 そして、柊木はそっぽを向き、突然立ち上がって屋上を後にする。

 俺は手に持ったサンドイッチを慌てて口に含もうとしたが咽てしまい、次に扉の方へ目を向けるとすっかり柊木はいなくなっていた。

  








 <あとがき>


 新作です。

 こちらはまったり二人の恋愛模様を描いていく話にしたいと思っているのであんまりドロドロ三角関係とかシリアスな雰囲気にはしないつもりです!

 通勤通学退勤下校とお暇な時間に癒しとして読んでくれたらと思っていますので、文字数も控えめです!


 面白そうだなと感じたらフォロー、期待を込めての星評価などもお願いします!!<m(__)m>


 とりあえず20時更新です!

 

 

 

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