無能な騎士が、注文の多い温泉の注文を真に受けた結果、罠にひっかかった件について
ルルゥは張り紙をじっと見る。
そこには『武器になるものをここに置いてください』と書いてある。
「カノンさん、こういうところで殺傷沙汰にならないために、武器を置いておくというのは、とても妥当なことなのではないでしょうか……もしかしたら、偉い人が来てるかもしれないし……」
信じやすいルルゥは、おどおどと自分の意見を言う。
しかし、カノンは首を横に振る。
「そうかしら?ここが村の中心に位置しているならば、この張り紙は妥当。なぜなら、騒ぎを起こされたらひとたまりもないわけだし。でも、ここは村の外れの、それこそ作りはきちんとしているけど、ただの民家」
「うーん……でも」
「そうね、ちょっと次の張り紙を見ていきましょう。次の張り紙はこれ」
次の張り紙には、このように書いてある。
『壺のなかのクリームを壁や手足にすっかり塗ってください』
その中には謎の粘っこいスライム状の液体が入っている。
カノンは、その壺からその液体を一掴み取り出すと、手の上で転がし始める。
そうすると、ピリピリとしたしびれのようなものを感じ始める。
「なんなんだろう……この気持ち悪い液体は……」
「これは神経毒が混ざったものね。人の行動を鈍らせ、反応が遅くなるような毒」
ルルゥはそのことを聞いて、まるでプルチェのように震える。
「そんなのが、なんでこんな民家に……」
「解らないわ……ただ、あの副村長が一筋縄ではいかないってことくらいかしらね……」
カノンはローブから取り出すと、一つのポーションを取り出した。
それらはまるで水晶のようにキラキラと輝いており、壺の中にあるスライム状の液体のおどおどろしさとは真逆で、神々しいとすら感じる。
そう言うと、カノンは温泉の水とポーション、そしてスライム状の液体を混ざ合わせる。 すると、スライムの液体が白濁化し、乳液のような綺麗な色になる。
「カノンさん、これは?」
「これはね、あとでわかるわよ……じゃあ、これを塗って」
…。
……。
……一方、アレクはといえば……。
「意外とひんやりとしていて気持ちが良いな!」
そう言いながら、張り紙の文句を疑わずに、スライム状の謎の液体を熱心に塗り込んでいた。
プルチェはといえば、しびれるような刺激に、プルプルと震えている。
「さあ、準備は整った!温泉に行くぞ!」
タオルを腰に巻き、桶を片手に、アレクは温泉に突入する。
プルチェも、急いで向かう。
扉を開けるとそこに広がるのは、香しい匂いと湯気がほわっと上がっている、温泉の姿!
アレクは桶で温泉の湯をすくい、身体にかけて、軽く汗を流す。
そして、そのまま子供のように温泉へと飛び込む!
ザッバーーーン!
アレクは力を抜き温泉に身を任せていると、今までの疲れが癒されていくような気がしてくる。
「温泉というのは素晴らしいな!」
そう独り言を言いながら、アレクは肩まで浸かる。
プルチェは水面にぷかぷかと浮かび、その気持ちよさに、溶けだすような気持ちを覚えていた。
アレクは暫くのんびりとお湯に浸かっていると、何かを思い出したように立ち上がる。
「そうだった!覗くのを忘れていた!」
あまりの温泉の気持ち良さにアレクは忘れてしまっていたが、アレクがやりたいのは、カノンとルルゥの温泉姿を覗くことであった。
「よーし、そうとなればさっそく作戦実行だ!」
プルチェは、アレクの勇者としての倫理観の無さに震えていたが、しかしもう既に奴隷を買っているわけだから、倫理観の無さは露呈しているいるわけで……そう考えて震えていた。
そして、アレクが覗くのに絶好の位置取りをしようと、銭湯から上がろうと瞬間……。
「あ……れ……?」
身体全体に痺れみたいなのが周りはじめ、段々と力が入らなくなる。
アレクは、温泉の岩に倒れこみ、立つのも精いっぱいになる。
「もしかして、俺、だいぶ疲れているのか?」
そう思った矢先のこと、アレクの前に副村長が現れる。
「アレクさん、我々 《漆黒の烏》 が歓迎しますよ……」
温泉は、罠だったのだ。
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