無能な騎士が、美人な冒険者と共に依頼者のところへ向かうが、そこは最初の村だった件について

「起きなさい!」


 宿屋の安ベットで寝転がっているアレクを叩き起こしたのは他でもないアイナだった。

 アレクはアイナの声で目を覚ます。


「あ、ああ。おはよう……」


 アレクは目をこすりながら起き上がる。

 起き上がると、頭が締め付けられるように痛い。

 二日酔いなのだ。


「あれ?俺はなんでこんなところにいるんだ?」


 アレクが疑問に思うと、アイナが答える。


「お前が公園で眠っていたのを、銀髪の美人が届けてくれたんだよ」


 プルチェは、それに同意するかのように震えた。


「そうそう、そして、その銀髪の美人から言伝があって、お前さんに野犬退治の依頼に同行してもらいたいんだってさ」


 そのことを聞くと、アレクはベットから飛び起きてガッツポーズをする。

 しかし、ガッツポーズをすると二日酔いの頭に響き、そして地面に四つん這いになってへたれこむ。


 その様子を見て、プルチェはぷるる……と悲しくなった。


 ちなみに、アレクは例の夜のことを一切覚えていない。


 ◇◆◇


「私が戻ってきた!《Aきゅう・ぼうけんしゃ》を連れてまいったぞ!」


 レム村の人々は、アレクの顔を見るなりに、少しうんざりしたような顔をする。


「なんなの、その《Aきゅう・ぼうけんしゃ》っての。恥ずかしいから辞めてくれる?」


 例の酒場に張り出された野犬退治の仕事というのは、他ならぬレム村の依頼だったのである。


「しかし、なんだ?俺という勇者がいるのに、街に野犬退治の仕事を張り出して!俺に頼めばタダで退治してやったのに」


 そう言うと、アレクは誇らしげに村の中心を歩いていく。

 プルチェは、スライム一つも倒せないのに野犬も倒せるわけないじゃん……という気持ちだったが、ただプルプルと震えるだけで、黙っておいた。

 カノンと言えば、村人の怪訝そうな顔を見ながら「まあ、そうよね。アレクみたいな人間が暴れていたら、気が滅入る筈よね」と納得しながら歩いていた。

 アレクとカノンは村長の家に辿り着くと、ドアをノックする。


「おい、勇者様の帰還だぞ!開けろ!」


 そう言ってドアを開けると、村長と村人たちが椅子に座って待っていた。

 村長がアレクの顔を見るなり、顔をしかめる。


「なんであんたがいるんだよ……」


 アレクは得意げに胸を張る。


「ふっ!俺の偉大さがわかるのだな!だがな、野犬くらい俺に任せれば、楽勝なのだ!

 もっと言えば、私が村を出るまでに任せておけばもっと良かった!

 そうすれば、私は冒険者としての格が世に轟き、《ぼうけんしゃぎるど》での地位も上がる!

 《らんく》が上がれば……」


 そこまで言って、アレクは首を捻る。

 そもそも、アレクは《ぼうけんしゃぎるど》に属しているわけではないし、そもそも《ぼうけんしゃぎるど》など存在していない。

 

 ――これらの設定は、アレクが作り上げた妄想である。


 カノンはこの短時間でアレクについて嫌と解ってしまった。

 というのも、レム村の道中で嫌と言うほど転生勇者の英雄譚を聞かされたせいなのだが。

 もう諦めて、そういう人だと扱うことにしている。


「とにかく、話を聞きましょう。野犬についてお聞かせください」


 村長はアレクを無視したまま、カノンに話すことにする。


「実は野犬が現れたのは今年の初めごろでね。最初の一匹だけだったが、だんだんと数を増やしてね……」


 村長は指を折って数を数えていく。


「一頭……二頭……三頭……四頭……。そしてとうとう十頭まで増えたところで、私たちはそれを退治してくれる人を探して、メルトヴァニラに依頼を出したんだ」


 村長は一息つくと続ける。


「酒場のマスターから連絡があって、腕の立つ冒険者が来てくれると言ってくれたから、安心したよ。逆に腕が立ちすぎて、あっという間に解決するかもしれない、とすら言われたよ。何はともあれ大船に乗ったつもりで、任せるよ」

「ありがとうございます、ご期待に沿えるよう、精一杯頑張りたいと思います」


 そう言って、恭しくお辞儀をした。

 その横でアレクは、自分が解決することを確信したかのような顔をしている。

 村長からは、野犬退治の現場への地図をもらった。


 野犬が現れるのは、レム村の南側の森の中ということらしい。

 つい最近も木こりが襲われて手酷い傷を受けたそうだ。


「よしプルチェ!早速行かんぞ!野犬を倒して、私のれべるがあがるのだ!囚われた屈辱は反撃の狼煙だ~♪」


 そんなことを言いながら、アレクは走り出そうとする……。

 のだが、ちょうど二日酔い止めポーションの効果が切れてきたころか、頭が揺れるような痛みが再発してしまい、アレクはその場に蹲ってしまう。


「この大馬鹿者を連れ行って大丈夫ですか?」


 村長は心配そうにたずねる。

 カノンは冷静に返事をする。


「まかせてください。少なくとも、野犬くらいなら、お荷物を抱えたままでも十分に可能です」

 

 プルチェは、騒ぎすぎて二日酔いがぶり返したアレクに、二日酔いのポーションを渡している最中だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る