第25話:スーパー襲撃3
「多香屋、そっちお願い」
青野は、意識を集中させ、身体強化の能力を発動すると、向かってきた男の正面に立った。
「わかった、気をつけろよ」
多香屋はそう言うと、いつでも触れるように木刀を握り直し、引き続き避難誘導を再開する。
青野はちらっとスーパーの出入り口付近に視線をやる。そこでは、速水と痩せた男が戦っていた。男は拳銃を取り落としたようで、地面にそれらしきものが落ちている。男は何とかそれを拾いに行こうとするが、速水は絶対に行かせないよう上手く立ち回っている。状況からして、明らかに速水の方が有利に思えた。
これなら、背後から不意打ちを受けることはないだろう。青野は確信し、正面に向き直る。
とはいえ、油断は禁物だ。青野はそう自分に言い聞かせ、目の前の男と対峙する。男の瞳は黒く濁っており、明確な殺意が感じられた。
先に動いたのは男の方だった。ナイフを手に、一直線に突っ込んでくる。青野はそれを最小限の動きで横に避け、すれ違いざまに木刀で男の腕を打つ。しかし、思ったように力が入らず、その攻撃は簡単に受け流されてしまった。
直後、男が振り向きざまに伸ばしたナイフが、青野の左腕をかすめる。だが、身体強化のおかげか、かすり傷程度で済んだ。
このままナイフの間合いにいては危険だと判断し、青野は後方に飛び、一度男から距離を取る。
青野は必死に勝ち筋を考える。この男の攻撃は意外と直線的で、ナイフを振り切ったあとに隙が生まれる。そこをうまく狙えれば、大きなダメージを与えられるのではないか。うまくいくかわからないが、物は試しだ。
青野は漠然とした作戦を胸に、集中して男の動きを観察する。
予想通り、男は再びまっすぐ突っ込んできた。青野はギリギリまで男を引きつけ、今度はわざと大きな動きで回避する。青野の狙い通り、自分の攻撃が当たると確信していた男は、突然目の前から標的が消えたことで、大きくバランスを崩した。
とっさの判断で身体能力を3倍まで底上げし、バランスを崩した男の右足に思い切り蹴りを入れる。
いくら戦闘素人の青野の蹴りでも、威力が3倍となれば話は別だ。男は短くうめき声を上げ、地面に倒れ込んだ。しばらく経っても立ち上がってくる気配はない。どうやら打ち所が悪かったらしく、気絶したようだった。
青野は一息つくと、能力を解除する。瞬間、一気に身体が重くなり、激しい疲労感に襲われた。しかし、能力の扱いがうまくなってきているようで、前回のように、耐えられないほどひどい症状にはならなかった。
「青野、大丈夫か? 」
地面に腰を下ろし、ゆっくり息を整えている青野に、避難誘導を終えたらしい多香屋が駆け寄ってくる。
「うん、平気だよ」
「よかった」
「二人とも無事か?」
そこに、拳銃の男と決着をつけた速水も合流する。
「はい、なんとかなりました」
そう言いながら、青野は立ち上がり、ほっと息をついた。
現在、多香屋の活躍もあってほとんどの買い物客が避難を終えている。店内に残されているのは、怪我して自力で動けない者と、運悪く命を落としてしまった者だけだ。
「そういえば、天情たちは?」
多香屋は思い出したかのようにつぶやき、辺りを見回す。
すると、商品棚の陰に、見覚えのあるシルエットを見つけ、多香屋は慌てて駆けていく。青野と速水もそれに続いた。
そこにいたのは、全身ボロボロの天情千春だった。その近くには、襲撃者らしい三人の男が倒れている。能力を使い、激しい戦闘を繰り広げていたのだろうというのは、一目瞭然であった。
どうやら意識ははっきりしているようで、三人がそばに寄ると、顔を上げ、優しく微笑んだ。
「天情、大丈夫か? 」
「うん、なんとかね」
多香屋が声をかけると、千春は傷ついた腕をさすりながら答える。
「よかった無事で」
友人の無事を確認し、青野は安堵の息をついた。
「そういえば、氷宮さんは? 」
「あれ、さっきまでいたんだけどな……」
青野の問いに、千春は首をかしげる。
「ひとまず帰ろう。氷宮も先に外に出たのかもしれない」
そう言うと、速水はスマホを取り出し、どこかへ電話をかける。
通話相手と、一言二言交わしたのち、スマホをポケットに戻すと、スーパーの出口の方へ向かう。
「天情、立てる? 」
青野は千春にそっと手を差し出す。
「ありがとう」
千春はその手を取ると、よろよろと立ち上がり、ゆっくり歩き出した。
こうして、四人は変わり果てたスーパーを後にした。
★★★★★★★
スーパーの駐車場付近、真白は物陰に隠れ、出入り口の様子をうかがっていた。その手には、白い小型の銃のようなものが握られている。
やがて、出入り口に四つの人影が現れる。先頭を歩くのは速水。その後ろに三人の生徒が見える。
その中に、目標の姿を見つけると、真白はそっと腕を持ち上げ、照準を合わせた。どうやらまったく気づかれていないようだ。
真白は大きく深呼吸をした後、引き金に指をかける……。
「何してるの? 」
背後から声がして、真白はびくっと肩を震わせる。
とっさに銃を隠し、ゆっくり後ろに振り返れば、そこには私服姿の坂理寛大が立っていた。
「誰かと思えば情報屋さんの…… 」
真白は平静を装ってつぶやく。
「ああ、それで、こんなところで何してるの? 」
「買い物に来たら襲撃者に襲われて、逃げてきたの」
「そう」
我ながら苦しい言い訳だと真白は思うが、坂理はさらに追及することをせず、小さくうなずいてみせる。
「あなたこそ何しているの? 」
「ちょっとある人に付き合わされてね」
真白が問い返せば、坂理はかすかに笑みを浮かべる。
「じゃあ、そろそろ行くね」
そう言って、坂理は歩き出す。
真白がぼんやりと彼の背中を見つめていると、坂理は数メートル離れたところでふと歩みを止め、真白の方に振り返って呟いた。
「そういうの、やめた方がいいよ」
彼の表情は真剣そのもので、その言葉にはナイフのような鋭さがあった。
坂理は再び踵を返し、さっさと歩き去ってしまう。真白にはその後ろ姿を、ただ見ていることしかできなかった。
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