第17話:金のカケラ
速水に促され、青野がアプリを立ち上げれば、確かに自分の生命力と能力の記載があった。画面をスクロールすれば、能力の詳しい説明が表示される。
『身体強化』: 使用者のあらゆる身体能力を任意の量だけ底上げする。ただし、能力解除後に、使用分の負荷がかかる。
「自分の能力、わかったか? 」
速水の声で反射的に顔を上げた青野は、小さくうなづいた。それにつられて、他の三人も首を縦に振る。書いてある内容が抽象的なため、完全に理解できたわけではないが、なんとなくはわかった。きっと、あの時倒れたのは、無意識に力を使いすぎて、体に大きな負荷がかかったからだろうと青野は思う。電子帳をポケットにしまい、青野が隣を見れば、どこか納得したような表情を浮かべる多香屋と目が合った。
「もし、生命力がゼロになったらどうなるんですか? 」
千春が疑問を口にする。
「それは…… 」
「ああ、それについては俺が答えるよ。はっきりしたことはわからないんだけど、最悪の場合、自我が崩壊してまともに話せなくなったり、寝たきりになったりすることもある」
速水に代わって刹那が質問に答える。
「そんな…… 」
千春は思わず言葉を失った。
しばらくの沈黙。無理もない。たった今、刹那が口にした言葉にはそれだけのインパクトがあったのだ。誰もそれについて詳しく追及はしなかったが、生命力を消費することがどれだけ危険なのか、青野を含め、皆が思い知っただろう。
少しして、場の空気が落ち着いてきたところで、再び速水が口を開いた。
「あと、電子帳を使えば、カケラの回収ができるみたいだ。本来、カケラは一人一つまでしか所持できないらしいんだが、それを使えばいくつでも回収できる」
「はあ」
速水の説明に、千春が曖昧に相槌を打つ。
次から次へと新しい情報が入ってくるため、青野を含め、みんなの頭がまったく追いついていないのだ。すべてがまるで現実感のない内容だが、ひとまず、能力というものについてはなんとなくわかった。ただ、今置かれている状況についてはまったくわからない。速水の仮説が正しいとしても、何が目的でVITが動いているのか、自分たちが狙われる理由はなんなのか、そもそもなぜ学園にカケラなんてものがあったのか。次から次へと疑問が湧いて出てくる。
「先生は、VITの目的って何だと思います? 」
多香屋も青野と同じことを考えていたようで、あっさり疑問を口にする。
速水は、少し考えるような素振りを見せたのち、口を開く。
「そうだなあ、おそらくだが。金のカケラじゃないかなと思ってる」
「金のカケラって、あの噂になってるやつですか?」
すかさず千春が聞き返す。
「そう、『金のカケラを五つ集めれば、一つだけどんな願いでも叶えられる』。たぶん、それを狙ってるんじゃないかな。かなり嘘くさい話だが、真実の可能性も十分にある」
「なるほど…… 」
千春が小さくつぶやく。
改めて金のカケラという言葉を聞いて、青野はちょっと嫌な予感がした。多香屋と二人で出かけた日、あの時に拾ったカケラは確かに金色だった。とすると、自分は願いが叶うという金のカケラを一つ持っているということになる。それが何を意味するのか、青野には容易に想像がついた。
胸の内から湧き上がる不安な気持ちを抑えきれず、青野は正直に話すことにした。
「あの、先生、俺が持ってるの、金のカケラだと思います」
そう告げた瞬間、その場にいた全員が、青野に視線を向ける。
「そうか…… 」
速水は、わずかに表情を曇らせ、一つ息をついた。そして、まっすぐに青野を見据え、言葉を続ける。
「その様子だとわかってると思うが、本当に金のカケラを持っているとなれば、噂を信じる人間から狙われるかもしれない」
「そうですよね」
青野はうつむきがちにつぶやく。
怖かった。昨日襲われた時には、いろいろな偶然が重なってなんとか無事でいられたが、次もそうである保証はない。いくら能力があるとはいえ、普通の高校生でしかない青野にとって、他方面から命を狙われるというのは、恐怖以外の何物でもなかった。
「大丈夫だ」
速水は、青野の肩にそっと手を置く。
青野が顔を上げれば、穏やかな笑みを浮かべた速水と目が合った。
「元はと言えば、C棟西エリアに侵入を許した学園側に全責任がある。だから、生徒であるみんなのことは必ず守るよ」
速水の優しくも力強い言葉は、青野だけでなく、その場にいた全員の気持ちを落ち着かせるのに十分な説得力があった。
「そうだ青野、ちょっと試してみてほしいんだが、他の金のカケラの場所とか分かったりしないか?」
全員がいったん落ち着いたタイミングを見計らって速水が尋ねる。
「場所ですか? 」
言いながら、青野は目を閉じ、何か分からないかと意識を集中させる。
すると、脳裏に四つの場所がぼんやりと浮かんできた。あくまで直感的な感覚であり、具体的な場所まではわからないのだが、四つともが日本のあちこちに散らばっており、そのうち一つがすぐ近くにあるということがわかった。
「はい、なんとなくわかります」
「なるほどなあ」
速水は少しの間考えたのち、思い立った結論を口にする。
「みんな、学園の寮に入らないか? 」
「えっ? 」
もともと寮に入っている真白以外の三人は、唐突な提案にまったく同じ反応を見せる。
「今のところ、一番セキュリティがしっかりしているのは学園の敷地内だ。もちろん絶対安全とはいえない。それでも、外部の人間が簡単には入ってこれない分、普通に街中で暮らすよりはだいぶましだと思う」
「確かにな」
「私らも狙われてるっぽいし、そのほうがいいのかも」
速水の説明を聞いた多香屋と千春は、寮に住むことを前向きに検討している。
青野はというと、一瞬、両親の姿が頭をよぎるが、自分が狙われている以上、一緒に暮らしていれば巻き込んでしまうと思い、寮に住むことを決めた。
「じゃあ、そうします」
「俺も」
「私も」
青野が了承の意を示せば、それにつられるようにして、多香屋と千春も首を縦に振る。
「そうか、それじゃあ今日から住めるように準備しておくから、みんなは家から必要なものを取っておいで
速水は席を立つと、さっさと外出の準備を始める。
「あの、私はどうすれば……」
これまで、ずっと黙っていた真白が、控えめにつぶやく。
「ああ、そうだな、じゃあついでに学園まで送ってくよ」
「あ、ありがとうございます」
軽い調子で答える速水に、真白は戸惑いつつもお礼を告げる。
結局、青野たち4人は、速水に学園まで車で送ってもらい、真白はそのまま寮の方へ、残りの3人は、一度家に帰るべく、それぞれ歩いていくのだった。
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