第15話:力の代償
「着いたぞ」
だいたい20分くらい経っただろうか。速水は駐車場に車を停めると、ドアを開けて車外へ出る。それに倣って、多香屋も外に出た。目の前には、大豪邸と言っても差し支えないほどの大きな家が建っていた。いったい自分の部屋がいくつ入るだろうか。多香屋が思わずそんな想像をしてしまうほどに、目を引く光景だった。
「多香屋、大丈夫か? 」
豪邸に見入っていた多香屋は、速水に話しかけられ我に返る。
「はい、大丈夫です」
「そっか」
速水は苦笑交じりに頷くと、青野を背負い、豪邸の玄関へと向かっていく。
「あの、ここって…… 」
「ああ、俺の家だよ」
「え、マジっすか」
さも当然のように答える速水に、多香屋は驚愕の声を漏らす。
速水夏輝は、その人柄から多くの生徒に慕われ、頼りにされているが、プライベートな話をまったくしないため、非常に謎の多い人物だ。だから、どんなところに住んでいても不思議ではない。だが、まさかあの金持ちとは縁のなさそうな速水が、これほどの大豪邸に住んでいるなんて誰も思わないだろう。
速水が玄関の扉を開けようとしたちょうどその時、内側から扉が開けられ、白衣を着た茶髪の青年が姿を現した。
「ああ、お帰り」
青年は穏やかな笑みを浮かべる。
「刹那、ちょうどよかった。すぐに治療頼めるか? 」
「もちろん」
「よろしく」
速水と二言三言言葉を交わした後、刹那と呼ばれた青年は、足早に家の奥へと消えていく。
「さあ、入って」
玄関前で多香屋が戸惑っていると、速水が中に入るように促す。
言われた通り、広い玄関で靴を脱ぎ、中へ入ると、まず廊下の広さと部屋数の多さに驚いた。外見通りの立派な建物で、床も壁も綺麗に掃除されている。しかし、高価そうな装飾品の類はほとんど見当たらず、内装は一般家庭とそう変わらないようだ。
「えっ? 」
速水の案内でリビングへと足を踏み入れた多香屋は、本日何度目かも分からない驚愕の表情を見せる。そこには先ほどの青年、刹那の他に、自分のよく見知った人物、天情千春と氷宮真白の姿があったのだ。
「なんで二人がここに? 」
「ああ、ちょっといろいろあってね」
多香屋の問いに、千春は包帯で巻かれた肘をさすりながら答える。その隣で、真白は小さく頷いた。
なんの説明にもなっていないが、二人の様子からして、きっと自分たちと似たようなことがあったのだろうと思い、多香屋はそれ以上追及はしなかった。
「多香屋、ちょっと来てくれるか? 」
名前を呼ばれ、多香屋が振り向くと、奥の扉の前で、速水が手招きしていた。多香屋が慌ててそちらに行けば、部屋に入るよう促される。
中は6畳ほどの個室になっていた。ベッドや戸棚、机などが置かれており、ベッドの上には青野が寝かされている。そして、その近くに、刹那が座っていた。
「はじめまして、夏輝の親友の栗白刹那(くりしら せつな) です、よろしくね。さっそくなんだけど、何があったのか教えてくれるかな? 」
刹那は真っ直ぐ多香屋の方を見つめ、優しい口調で問いかける。年は速水と同じくらいか、それより少し若く見える。なぜだろうか、多香屋は、彼の穏やかな表情、そして綺麗な紫色の瞳に、どこか儚げな印象を受けた。
なんとなく刹那のことが気になったが、ずっと見つめているわけにもいかない。多香屋は、突然黒いローブの男たちに襲われたことや、なんやかんやいろいろあって、男たちを倒し、逃げようとしたところで青野が突然倒れたことなどを思い出しながら、なるべく詳細に説明した。
「なるほどね」
刹那は納得したように小さく頷くと、青野の左腕にそっと触れた。すると、触れられた周囲が淡く光を放ち、その周辺の傷口が塞がり始めた。それを確認した刹那は、体から手を離すと、机に置かれた救急セットの中から包帯を取り出し、いまだ光を放ち続ける腕に慎重に巻いていく。
「あの、青野は大丈夫なんですか? 」
「うん。怪我も大したことないし、明日には良くなってると思うよ」
穏やかな笑みを崩さずにそう告げる刹那を見て、多香屋は安堵の息をついた。
「なんで青野はこんな状態に? 」
多香屋は何気なく疑問を口にする。
「そうだな、簡単に言えば、能力を使いすぎた代償かな」
速水が真剣な表情で答える。
「代償ですか? 」
「そう、二人とも、おそらくどこかで欠片を拾ったんじゃないか。色のついた小さい石みたいなやつなんだけど。それが、能力の源なんだ」
多香屋は、速水の説明する特徴のものに覚えがあった。青野と二人で出かけたあの日、駅の近くで見つけたものだ。もっとも、それは拾ったというより、勝手に吸い込まれていったと言うべきなのだろうが……。
「とにかく、詳しい話は、青野も交えて明日するから。今日はゆっくり休んで」
「でも、俺家に帰らないと…… 」
「大丈夫、その辺はこっちで何とかしておくから、泊まっていきな」
ふと自分が帰らなければならないことを思い出して呟く多香屋だったが、速水が何とかしてくれるというので、このまま泊まっていくことにした。肉体的にも精神的にもかなり疲労が溜まっていたので、多香屋としても、その方がありがたかった。
「先生、夜ご飯って外で買ってきた方がいいですか? 」
多香屋と速水が部屋から出ると、リビングで待っていた千春が話しかけてくる。
「今から簡単なもの作るからちょっと待ってな」
「え、いいんですか? 」
「ああ、みんなゆっくりしてな」
そう言って、速水はキッチンの中へ入っていった。
結局その後は、千春や真白と共に、速水の作った夕食をご馳走になり、シャワーを済ませた後は、さっさと布団に入った。いつもならこんなに早くに寝ることはないのだが、あり得ないことの連続で疲れきっていた多香屋は、すぐに眠りに落ちるのだった。
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