白夜 24話 目的と暗躍


 アクジズ星系の上部宇宙、星系の上で、稲妻の嵐の世界と無限牢獄の天が広がり、そこを潰すように一点の黒天が走る。


 そこには、世界を作り出すエネルギーが満ちていた。


 それを…アクジズ星系の主星の空に浮かぶエルドリッジが捉える。

 そのエルドリッジの全体が電子回路の如く明滅する。


 アヌンナキ・プロジェクトの産物であるエルドリッジが、クロ達が放つ超越存在のエネルギーに反応している。


 クロ達の戦いは、狂騒へ突入した。

 際限なく無限に、永遠に続くような苛烈な超越存在のぶつかり合い。

 世界を作り出すエネルギーが、その象徴的な形を取る。


 稲妻の嵐の世界は、稲妻の渦を背負う釈迦像の形に

 無限牢獄の世界は、曼荼羅を背負う仏像の形に

 一点の黒天は、両手に錫杖を握る神仏の形に


 その三つの一つ一つが数十兆キロの星系。

 太陽から地球までの距離、一億五千万キロを一天文単位であるAUなら、三つの一つ一つは四十天文単位、40AUだ。


 四十天文単位の超絶なバケモノ達の狂騒は、最高潮に達した。

 周辺の星系へ膨大な衝突のエネルギーを振り放っている。


 その余波で、アクジズ星系が銀河の回転速度が落ち込む。


 そこまでの膨大な衝突のエネルギーを放っていると、三つの権化達の動きが鈍くなる。


 クロは感じる。

「まさか!」


 ミカガミとスクナは笑っていた。


 クロは、ミカガミとスクナがいるオメガデウスを睨み

「お前等…やったな!」


 一体が四十天文単位の超絶なバケモノへ、電子回路の如くエネルギーの網が広がる。

 それを広げているのは、エルドリッジだった。


 三体の四十天文単位のバケモノ達を取り込み始めた。


 エルドリッジが上昇していく。

 アクジズ星系の惑星を離れて、三体の四十天文単位のバケモノへ昇る。

 その全身から四十天文単位のバケモノを取り込む菌糸を伸ばしている。


 クロが

「ミカボシ! スクナ! テメェ等! 何をするつもりだ!」


 ミカボシが

「決まっている。新たな実験さ」


 クロが青ざめて

「まさか…止めろ! 絶対に成功するはずがない! アレは!」


 スクナが笑み

「成功した事例を一つ、知っている」


 クロが

「聖帝のガキは! ティリオ・グレンテルは! 最初からスペシャルだったんだよ!」


 ミカガミが笑み

「同じスペシャルなら、そこにいるだろう」


 クロは超越存在の感覚で、アクジズ星系の女王アークシアを見つめて

「まさか…お前…これをする為に」


 アークシアが父クロの超越存在の観測を感じて

「父上、最初からわたくしは、言っていたでしょう? 父上が我々の王として立たないなら、父上の力を奪うと…」

と、アークシアが笑む。


 クロが呆れた笑みで

「お前…その覚悟を決める性格は、オレ譲りだな。だが…その、ヤバい犠牲を強いる性質、母体は…メディーサか…」


 アークシアが優しく微笑みながら

「いいえ…父上が唯一、愛した…サクラ様ですよ」


 クロがそれを聞いて驚愕するのを、アークシアが超越存在の感覚で察知して

「父上の思い出では、サクラ様は聡明で優しく、慈悲深い方だったのでしょう? でも、違う。どこまでも愛する者に執着する女だったという事ですよ」


 クロが権化として発動した力と共に、エルドリッジに取り込まれる。

「クソ…」

と、クロが悪態を放つ。


 ミカガミとスクナは平然と、そのままで、クロと同じくエルドリッジが取り込んで構築しようとする存在の中へ取り込まれながら

「まあ、暫し…取り込まれるだけさ」

と、ミカボシが告げて。

「そうさね。終われば…出られる」

と、スクナが告げる。


 クロがスクナとミカガミを睨みながら

「テメェ等…上手く行くと思うよなよ…」


 スクナが

「失敗しても尊い道しるべになる」


 クロが鋭い顔で

「お前等、変わって無くて…安心したぜ」


 アクジズ星系の上に、全長十兆キロ、十天文単位の存在が構築される。

 中心に恒星を産み出して、その周囲に幾つもの惑星を創造し、衛星の如く配置して、その周囲に巨大な円環が被さり、惑星と惑星の間に金属の大地が広がり、そして…それが形を取る。

 大きな翼を四対伸ばす、天文単位の構築物、星艦だ。


 アクジズ星系の上に星艦が誕生しようとしている。


 クロが乗るオメガデウス・ヴァルヤの周囲にオメガデウス・ヴァルヤを包む装置達が発生して包み込む。

 そのサイズは惑星級だ。

 星艦のシステムとして、クロを取り込もうとしている。


 だが、一つの光がクロを中心にしようとした惑星級のシステムに突貫して、クロのオメガデウス・ヴァルヤを回収する。


 それは、天使機体…エンジェリオンだ。

 普通のエンジェリオンではない、千華と紫苑のバトロイドが背中に装着された漆黒をベースとしたエンジェリオンだ。

 ルカのエンジェリオンである。


 クロがルカのエンジェリオンに引っ張られながら

「バカ!」

と、レナの通信が入り込む。


 クロが唖然として

「ええ…レナ、てか…どうして?」


 アクジズ星系のとある大地には、ナーシャが乗るオメガデウスがあった。

 黄金に輝くオメガデウスに乗るナーシャは、オメガデウスの力をルカのエンジェリオンへ転送して強化しているのだ。


 ナーシャが「はぁ…良かった。間に合った」と呟いた次に、遙か彼方、星艦の部品になろうとしているミカガミを超越存在の感覚で捉える。


 それにミカガミが気付いて、苛立った顔をナーシャに向けて

「ナーシャね…」


 ナーシャには、その言葉が届いて無言で答えた。



 ルカのエンジェリオンに運ばれて離れるクロのオメガデウス・ヴァルヤ、操縦席にいるクロに

「バカ! バカ! バカぁぁぁぁぁぁ!」

と、レナが怒っている。


 クロが困り顔で

「でも、レナ…これはオレが…」


 レナが頬を膨らませて

「クロは、過去の遺物なんでしょう!」


 クロが困り気味に

「う、うむ…まあ…」


 レナが怒り気味に

「じゃあ、この問題は、今を生きている私達の問題であって! クロが過去に背負った問題じゃあない! バカ!」


 クロが困惑気味に

「まあ、そうとも言えるなぁ…でも」


 レナが被せ気味に

「でも!も関係ない! 私の事を蔑ろにして…。私はクロの何!」


 クロは微妙な顔で

「相棒です」


 レナが怒り

「相棒を信用しろ! バカ!」


 クロは、レナの言葉に納得して

「はい、すいませんでした」



 それをバトロイドで聞いていた千華が大笑いしていた。

「あははははは! いい気味! アタシ達を散々、潰したヤロウが…女の子一人にタジタジなんだから!」


 複座で後ろの席にいる紫苑が

「まあ、クロさんには…私と千華のように、パートナーが必要ですからね。レナさんは適任です」


 千華が笑いながら「そうさね」と告げた後に、クロのオメガデウス・ヴァルヤへ通信で割り込み

「とんでもない事になったから、撤退して、それから考えるよ。良いでしょう?」


 クロが「…ん…」と無言でいると、レナが

「はい! 撤退で、良いよね! クロ」


 クロが渋々と

「はい、レナの言う通りです」


 千華がバトロイドを通じて地図をダウンロードして

「じゃあ、近くのバイパス宇宙港へ行くよ。全体が見える方が対策が立てやすいからね」

と、行き先を示した。


 クロのオメガデウス・ヴァルヤの操縦席から、離れていくアクジズ星系を見ると、巨大な四対の翼を伸ばす星艦の完成を見つめながら

「全く、アイツら…アヌンナキと超越存在のハイブリッドを作るつもりでいるとは…」

と、呟いた。


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