白夜 16話 奴隷少女の宿命


 クロは巨大な宇宙戦艦に収容された。

 クロがオメガデウス・ヴァルヤから下りると、目の前に腕組みする聖帝ディオスと息子ティリオと、聖帝ディオスの相棒である機神人類の充人の三人が並んでいた。

 三人の後ろには、操縦していたゼウスリオンと、紫と漆黒の機神達がいる。


 ティリオは怒っている顔で、聖帝ディオスと充人は呆れたような顔だ。


 クロがディオスの前に来ると、ティリオが

「どうして、我々に相談しなかった!」

と、口調が荒い。


 クロはフッと笑み

「シュレアが伝えたのか…」


 クロの隣にDIシュレアの立体画面が出て

「申し訳ありません」


 クロがシュレアの方を振り向かず

「別に、昔からそうだから…気にしていないし、そうするだろうと思った」


 ディオスがクロに近づき

「もう少し…我々を信用して欲しい」


 クロがディオスを見つめて視線を逸らして

「それ程までに信頼を構築していない」


 それを聞いて充人は呆れた顔で

「我々は、君と敵対するつもりはないが…君が」


 クロが淡々と

「味方にも敵にも、なったつもりはない」


 ディオスが渋い顔をする。

 ここまで扱いづらいとは…レナという子がいなければ…

 改めてレナの重要性を確認して

「では、我々は信頼を得る為に、レナくんを助ける為に協力する」


 クロが冷徹に

「状況によって手の平を返しても…オレは恨まないぜ」


 ティリオが

「ふざけるなよ! こっちは協力するって言っているんだぞ…」


 クロがティリオに

「うるせぇなぁ…何もかも恵まれて、人の悲しみなんて、努力が足りないっていう、特権階級なクセに…」


 ブチっとティリオが切れた。

 クロに殴り掛かろうとしたが「待て!」とディオスと充人が押さえた。

 

「お前に何が分かる!!!!!!!!」とティリオが怒鳴るが


「分かるがな!!!!!!!!」

と、クロが怒鳴り返して

「お前は、何かも…人も運も能力も、あらゆるモノに恵まれたスペシャルだろう。オレ達のような何かも恵まれず奪われる、踏みにじられる者の気持ちなんて、一生…分からないスペシャル様」

と、クロがティリオに嘲笑を向ける。


 ティリオが怒りに震えて

「ふざけるな!!!!!!!!! お前に! お前に!」

と、クロに殴り掛かろうとするティリオを押さえてディオスと充人が下げながら、ディオスが

「とにかくだ! 我々は…協力する。それだけは約束する」


 クロがフンと鼻で笑って

「期待なんてしていない」


 怒り狂うティリオを父ディオス、小父さんの充人が押さえて下げて消えた。


 ケンカ状態になった場へアル1110が…アルが来た。

「何があったんですか?」


 クロが肩をすくめて

「交渉失敗ってヤツだ」


 アルが「はぁ…」と戸惑いつつ

「少し、話を聞いて貰えませんか?」


「ああ…」とクロは頷いて、アルに続いた。



 ◇◇◇◇◇


 アルを先導にクロは客間に通されると、青髪の青年がいた。

「どうぞ、こちらへ」

と、青髪の青年がクロを対面のソファーに座らせる。


 青髪の青年が

「初めまして。自分は、アクジズ星系を含む銀河の統治を任されています。ブルーイス・イオ・ルーです」

と、クロに握手を向ける。


 クロはブルーイスを握手して

「しがない傭兵をしているクロだ」


 ブルーイスは笑み

「ご冗談を…五百年前、このアルテイル共和時空国で最強を担っていたマハーカーラ艦隊で、最も最強であり…我らの始祖の兄上だった方だ」


 クロは面倒な感じで頭を掻き

「誰から話を聞いた?」


 ブルーイスが

「ライアス達から…」


 クロがブルーイスを見つめて

「貴殿も…」


 ブルーイスは頷き

「はい、アルテイル共和時空国の四大王家の血族です」


 クロは視線をそらせる。

 仕方ない事だ。権力は…何時の時代も世襲となる。善し悪しは関係ない。

 それが権力の性質でもある。腐らせるか…実らせるか…それはその時次第。

 クロは気持ちを整えてブルーイスへ

「前にライアス達から聞いたが…反乱が起こっている…と」


 ブルーイスは頷き

「その通りです。その一派はアクジズ星系を根城にして…周辺に被害を与えています」


 ブルーイスがアクジズ星系を占拠して独立を掲げている者達の話をすると、クロは驚きと共に沈黙してしまった。


 クロが額を抱えているとブルーイスが

「我々に協力を…無論、報酬は…」


 クロが手を差し向け

「待ってくれ…ちょっと考えさせてくれ…今は、レナを助ける事を優先したい」


 ブルーイスが頷き

「分かりました。レナ様を助ける為の協力を我々も惜しみません」


 クロが少し苦しい笑みで

「ありがとう」

 ここで彼を拒絶する事に意味も無いし、むしろ協力してくれるのは嬉しいが…明らかに裏で聖帝ディオス達が絡むだろう。それが見えてしまう


 ブルーイスはクロのお礼の言葉に「いいえ…」と答えた。

 少し含みはある。でも、協力は付けられた。


 クロがアルを見て

「そういえば、レナの世話役をしていた…と」


 アルは二十代くらいだ。レナの世話をしていてもおかしくない。

 アルは頷き

「はい、ワタシと…もう一人のエルの二人でレナに色んな事を教えていました」


 クロが

「レナと同じ…ミカガミという女王によって…」


 アルは頷き

「レナと同じミカガミの女王から生まれたデザイナーズです。そして、主…マスターの為に犠牲になる事をためらいません」


 クロが渋い顔で

「どういう事だ? マスターとか…主とか、デザイナーズは…優秀な存在として作られた人ではないのか?」


 アルは微笑み

「私達は、マスターの為に存在する道具です」


 クロが震えて驚き

「それは…奴隷ってヤツじゃあないのか…」


 アルが頷き

「はい、その通りです。奴隷です。マスターからどんな扱いをされても…満足して死んでいける。自死や、マスターの慰み者、マスターにとって有益な相手の性的なオモチャになれ…と言われれば、喜んで」


 ドン!とクロがテーブルを叩く

「それ以上、言うな!」

 怒りでクロが震えていた。


 それをブルーイスとアルは驚くも、クロが…そういう残虐を許さない正しさを持っている事に安心を感じる。


 ブルーイスは真剣な顔で

「クロ様、自分はアルを奴隷とは思っていない。対等な…いえ、大切な人です。だから…」


 クロはレナの命に課せられた残酷な宿命を知って、怒りに震える。

 レナは…生命の奴隷、それがどんなに残酷で非道である事をクロは知っている。

 クロード・リー・ナカタだった頃から、その残虐が許せない。


 クロがハッとして

「そう言えば…レナが報酬にこだわっていた事があったが…」


 アルが悲しい顔で

「私達は、同じ者同士で生命と財産や色んな事を守る為に…繋がりを組合を作りました。それは小さな組織です」

 

 クロが真剣な顔で

「それを維持する為に…か」


 アルが頷き

「はい。それを良しとしない方々から身を守る為にも…資源や資産が必要なのです」


 クロが腕を組み考える。

 色んなモノがピースとして組み合わさっていく。

 レナが生きた奴隷という事、報酬にこだわる事、レナの性質

「なるほどね…」


 レナが自分を呼び寄せる時に聞いた声を思い出す。

 

 わたし…誰かに愛して欲しかったなぁ… 


「ああ…なるほど…」

と、クロはレナの暗く重い宿命を知った。  

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