第22話 遺影

爺ちゃんが朝の農作業から帰ってきたので

一階の居間で、3人で今の状況について話をすることにした。

「ふむー面白いなあ」

じいちゃんは腕を組んで実に楽しそうに奇天烈な話を聞いてくれて

「えいなりがおかしい感じはせんなあ」

と言ってくれた。チリも同意して

「たぶん、ファイ子がどこかで捕まって、私たちを強制的に見させられてるんだと思う」

爺ちゃんは大きく頷いて

「……刑罰じゃないんかなあ。おそらく、ファイ子さんが何か、大きなミスをしでかしたんじゃろうなあ」

「テルミちゃんの家と関係あるよね?」

チリが俺を見てくる。

「分からん。分からんけど、それしか思い当たらないなあ」

爺ちゃんがグイッとお茶を飲み干すと

「よし。その家に行ってみようか」

と俺達に言ってきた。


チリがうちの母親のスカートを爺ちゃんに断って借りたあと

爺ちゃんのミッションの古い軽自動車に3人で乗り込み、記憶と地図を頼りに例の団地まで向かう。

そこには、草が伸び放題の管理されていない家が確かにあった。

たまたま通りかかった近所の老婆を爺ちゃんは呼び止めて、長話をし始めた。


二十分ほど話し込んだあとに爺ちゃんは

感謝を告げて、俺たちのもとに戻り

「十年前から誰も住んどらんそうじゃ」

「その割には家の壁とかは綺麗だけど」

チリが不思議そうにいうと爺ちゃんは頷き

「定期的に草刈りや家の補修は業者がしとるらしい」

それでかと俺が二階の窓を眺めると、スッと人影が横切った。驚いて二人に言うと、爺ちゃんは動じずに

「有名な幽霊屋敷だそうじゃ。真夜中に照明が点滅していたり、人影が動くなんてのは当たり前らしいぞい」

実に楽しげに言ってくる。

チリが少し怯えた顔で俺に抱きついてきた。

爺ちゃんは真剣な表情で

「一回撤退して、作戦を練ろうかの」

と言った。


自宅に戻ると、爺ちゃんは真っ先に仏間の奥の仏壇へと向かった。そして蠟燭に火を灯し、線香を何本か短く折って火をつけ、線香鉢の中に横倒しにして置くと、チーンとお輪を鳴らす。

爺ちゃん先頭で3人で手を合わす。

「なあ、婆さんや、あんたが死んだあと、えいなりも変なことに巻き込まれとるわ。ちょっと力を貸してくれんか」

爺ちゃんは仏壇に向けて背中を丸めて、頼みだした。

父親から聞いたことがある。2年前の2005年に自宅で急死した婆ちゃんは予知能力や霊能力みたいな変な力があったと。息子である父親や爺ちゃんには多弁な人だったようだが、孫の俺や俺の母親にとっては、とても知的且つ寡黙で優しい人だった。愛する婆ちゃんとの準備していなかった別れに、葬式で泣きまくった記憶がある。

チリが、白髪をツインテールのように左右に纏め、シワだらけの顔でニカッと白い歯を見せ、更に年甲斐もなくピースまでしている特異な遺影を見つめ

「いつ見ても幸せそうだよねえ」

爺ちゃんは、振り向かず微笑んで

「爺ちゃんにずっと付きまとってなあ。仕方なく結婚してやったんよ」

そう言った瞬間に、蝋燭の火が強く燃え上がった。驚く俺たちと対照的に爺ちゃんは爆笑しだし

「来たか来たか。まだまだそっちにはいけんよ。あんたもえいなりを見守らんかい」

そう言うと、あっさり燃え上がった蝋燭を吹き消し、立ち上がった。

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