第15話 軽く考えていた
いつものごとく田畑高校へ電車に乗り、そして降りて向かっていく
珍しく今日は、チリもファイ子も居なくて両サイドがすっきりしている。
教室に入って授業型始まっても二人は姿を現さなかった。
珍しいこともあるもんだなと、久しぶりに学食で食べていると、友達の羽中島マサシに声をかけられた。中学野球部のときからのツレだ。
高校でも野球部で少し距離がある。
「おーいえいなりー何で一人で食ってるんだよーこっち来いって」
相変わらずいいやつだなと、野球部員たちに混ざって雑談をしていると
「あの、えいなりさん」
高校の制服姿のエネから声をかけられた。
固まっていると、マサシは俺の肩を叩き
「女子を待たせるもんじゃないぜ」
とウインクしてきて、野球部員たちが指笛や野太い声援で俺をひやかしてくる。
慌てて、廊下に出るとエネは深刻な表情で
「申し訳ありません。この世界はえいなりさんの世界ではありません」
意味不明なことを言ってきた。
「どういうこと?」
「近くのパラレルワールドに誤って転送してしまったようです」
映画やアニメ、漫画とかでよく見聞きする言葉だ。
「えっと、似たような違う世界ってことか?」
「はい。具体的に言うとこの世界にはチリさんが居ません」
「ファイ子も?」
エネは少し考えたあとに
「そちらはいらっしゃるのですが、えいなりさんに興味がないようです」
俺は廊下の天井を見上げて真剣に考え込む。
チリが居ない生活は確かにマイナスが大きいが、それ以上にファイ子が居ないメリットが大きくないか?
「あの……今すぐ元の世界にお連れしますが……」
俺を見上げてきたエネに
「帰らないって選択肢もあるよな?」
エネは絶句すると、気を取り直して
「元の世界ではお二人が悲しんでいますが……」
俺は少し考えて
「なんとかしてチリだけこっちに連れて来られないかな?」
エネは口を開けたまましばらくの間固まり、どうにか気持ちを奮い立たせた表情で
「それは無理ですね。えいなりさんはこの世界のえいなりさんと重なっているので時空間に許容されていますが、チリさんはそもそもこちらに居ないので、連れてくると様々な問題が発生します」
「例えば?」
「この世界に大きな歪みをもたらしかねません。近隣地域が消滅して歴史から忘却されたりと」
「……分かった。チリは諦めよう」
エネはもはや泣きそうになり
「御意思は固いのですね」
サッと背中を向けて立ち去った。
俺は若干後悔しつつ、たまには二人が居ないのも良いだろうと思い直して欠伸をする。飽きたら帰ればいいし。
というようにその時は軽く考えていた。
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