第12話 SP
というわけで、放課後に三人で街に行くことになった。
目的地は市内の寂れたデパートだ。ファイ子が俺たちにそこで見せたいものがあるらしい。
音のしない電車の席にチリファイ子俺の順で三人並んで座り、俺たち以外人のいない車両のいつまで経っても見慣れないさえない男だらけの吊り広告を眺めていると
「ああいうの、私は理解できませんー」
虹色髪を後ろで纏めて、目深にキャスケットを被ったファイ子が顔をしかめてくる。
チリが驚いた表情で
「アイドルにハマらない人も居るのっ?」
「地球人だって、アイドルに興味がない人のほうが多いでしょう?」
「そういう割合は一緒なんだねえ」
俺が黙っていると、車両の奥の扉が開き
そこから
デニムのつなぎを着て、刈り上げた短髪で小柄な若い男、いや、ノーメイクのボーイッシュというか、ほぼボーイの女性が近づいてきた。そしてファイ子にいきなり跪く。
「本日の警護長を務めるエネです」
ファイ子はあからさまに嫌な顔をし
「出てくるなと言ったでしょうー?」
エネと名乗った女性はスッと立ち上がると、一礼して去っていった。
「ファイ子ちゃんの雇ったSPなのっ?」
興味津々のチリにファイ子は
「うーん……」
唸って答えなかった。俺は何かあるんだろうなといい加減に横で考える。
電車を降り、そこそこ広い駅から出て
3人で街を歩いていると、通行人によく振り返られることに気づく。帽子を被っていてもファイ子は確かに人目を引くなあと思っていると、柄シャツを着た二人組のどう見てもチンピラが
「ねえちゃん、これから一緒にどう?」
ナンパしてきた……と思った瞬間には二人共その場にいきなり倒れて、瞬く間に、どこからか出てきた黒装束の集団に路地裏へと、猛スピードで引きずり込まれていった。
「……」
チリと言葉をなくしていると
ファイ子は顔を顰めて
「私だけでも、上手くやれるのにい」
とつぶやき
「アルハルファデパートに行きましょう」
気をとり直した表情で微笑んできた。
「あ、はい」
「はい……」
俺達は頷くことしかできなかった。
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