いつも俺にだけ冷たい猫の獣人の幼馴染を間違ってテイムしたら本音が隠せなくなっちゃったらしい

砂乃一希

第1話 猫の獣人の幼馴染

「何じろじろ見てんのよ。そんなに見ないでくれる?」


「ご、ごめん……」


俺、ライアン=ハーディは古くからの幼馴染であるレベッカ=ホワイトに怒られ謝る。

レベッカは猫の獣人で尻尾と猫耳、サラサラとした白い毛が特徴の美少女だ。

ショートカットがよく似合っていてピコピコと動く耳も相まってとても可愛らしい。

………このきつい性格がなかったらだけど。


「ふん!」


今も顔をぷいっとそむけていかにも怒っていますといった感じだ。

他の人には優しいんだけどなぁ……

俺にもその優しさを向けて欲しいものだ。


「ほら、行くわよ」


「あ、ああ」


俺達は今、市場に買い出しに来ていた。

俺とレベッカの家は隣同士で家族ぐるみの付き合いが多い。


多分他の家は隣同士だからと言って家族ぐるみの付き合いまでは発展しないと思うんだが俺の母さんとレベッカの母さんがすごく気が合うらしく大親友になり俺とレベッカの交友関係も生まれたというわけだ。

週1でお互いの家に全員で集まって夕食を食べるのは仲良すぎ、とも思うけど。

俺達はその会食の材料の買い出しに来ているというわけである。


「おう!レベッカちゃんじゃねえか!いい野菜が入ってるぞ!見てけ見てけ!」


「本当に?じゃあちょっと覗かせてもらおうかしら」


八百屋のおっちゃんに呼ばれたレベッカは愛想よく笑顔を浮かべて返事をする。

あと必要なのは野菜だけだったので俺も異論は無く八百屋に入った。


「わぁ……!今日の品揃えはすごそうね……ゆっくり見てもいいかしら?」


「おう!好きなだけ見てってくれ!」


おっちゃんはサムズアップするとレベッカは目を輝かせながら色んな野菜を手にとって見比べ始める。

俺はそんな幼馴染の様子を見ながら苦笑する。

こうしていれば可愛いんだけどなぁ……

そんな俺を見て何を勘違いしたのかおっちゃんがニヤニヤしながら話しかけてくる。


「おいおい坊主。レベッカちゃんと今日はデートか?仲いいじゃねえか、この」


「そんなんじゃないって。俺とレベッカはただの腐れ縁。レベッカだって家族ぐるみの付き合いに渋々付き合ってるだけでそうじゃなかったら俺なんかと買い物なんて来やしないよ」


俺がそう言うとおっちゃんは呆れたような顔をした。

そして超でかいため息をつく。


「なんだよ」


「いやぁ?お前はめちゃくちゃバカだなぁ、と思って」


「なんでそうなるんだよ。これでも読み書きできるし魔法も使えるんだけど?」


読み書きを平民の中でできる人はそう多くない。

魔法だって難しい魔法書を理解しないと使えないから魔法使いはさらに人数を絞られる。

たまたま俺の父さんが読書家で小さい頃から本を読んでいたから俺は読み書きができるわけで。

魔法書まであるなんてうちは本当に恵まれていると思う。


「そういうことじゃねえんだよ……。はぁ……レベッカちゃん……頑張れよ……!」


おっちゃんはなぜかレベッカにエールを送り始めた。

野菜を選ぶのに頑張れも何もないだろうに。

本当にこのおっちゃんはよくわからん。


「おじさん、この野菜買うわ」


レベッカがカゴに野菜を入れて持ってきた。

中には瑞々みずみずしくて美味しそうな野菜ばかりだ。

レベッカの見る目は流石だと思う。


「はいよ!ちょっと待ってろよ、今値段を計算するからな」


おじさんは買い物かごから野菜を取り出しながら値段を計算し始める。

それを待っているとレベッカがジト目でこっちを見てくる。


「ちょっとライアン、何サボってたのよ」


「ごめん。おっちゃんに話しかけられちゃってさ」


「もう……」


俺が素直に謝るとレベッカは珍しく特に怒りもせず呆れたようにため息をつくだけだった。

拍子抜けしているとおっちゃんが計算し終わったらしく笑顔で商品を入れた袋を渡してきた。


「終わったぞ。全部で500ゴルドだ」


「500ゴルドね。はい」


「まいど!また来てくれよ!」


これで買うべきものは全て買った。

おっちゃんの声を背中に俺達は帰路につく。

俺達は人が1人入れるくらいの間隔を空け歩き始める。


「そうだ。それ、俺が持つよ」


「え?これくらい全然大丈夫だけど……」


そう言ってレベッカは不思議そうな顔をする。

レベッカは獣人だから人間と比べて力が強い。

本当に軽いと思っているんだろう。


「いいから、ほら」


「でもライアンはもうさっきまでに買ったものを持ってるじゃない。私の方が力強いんだしこれくらいは持つわよ」


「俺は男だからこれくらいはカッコつけさせてくれ。な?」


「そ、そう……?じゃあお願いするわ。ありがとう」


俺はレベッカから袋を受け取る。

多少重いけどこれくらいなら問題ない。

父さんから女の子には優しくしろと口酸っぱく言われてきたからな。

相手がレベッカでもそれは変わらない。

俺達はしばし無言になり歩き続ける。


「ねえライアン。最近はどんな魔法を勉強してるの?」


無言に耐えられなくなったのか、ただ興味を持っただけなのか、レベッカから質問された。

レベッカは少し前を歩いていたので表情から読み取ることはできない。


「どうして知ってるの?俺、レベッカに言ってたっけ?」


「おばさんが最近図書室に行ってからずっと部屋から出てこないって言ってたわよ。どうせ魔法書でも借りて勉強してるんでしょ?」


「全く持ってその通りだな」


伊達に長い付き合いじゃない。

レベッカには全部お見通しのようだった。

俺は隠す気もなかったし素直に白状する。


「今やってるのは使役テイムの勉強だな」


「テイム?珍しい魔法を勉強しているのね」


レベッカの言う通りテイムは非常に珍しい魔法だ。

効果は動物を使役しテレパシーみたいものでコミュニケーションがとれるという効果のみ。

契約対象は動物のみで効果は使役対象か術者が死ぬまでと非常に長く同時に一体しか契約できないといういかにも使い勝手の悪いもの。

大して戦闘や生活に使えない魔法に労力と時間を割く人は少ない。


馬車の御者とかになら需要はあるだろうがそもそも読み書きができるなら御者なんかじゃなく役人とかになってるはずだ。

そういう理由でテイムは使う人が少ないのである。


「なんでテイムを勉強しようとしてるの?」


「ただの自己満足だよ」


「なにか使い所がある魔法にすればいいのに……」


レベッカは呆れたような目で見てくる。

だが俺のやることを決して否定したりしない。

そういうところはレベッカと一緒にいて居心地がいいと思えた。


「はは、犬でも飼ってみようかな」


「ふーん……犬、ねぇ……」


レベッカはあまり犬が好きじゃないらしい。

自分が猫の獣人だからなのかな?


「テイムってどうやったら使役できるの?」


「使役対象がこの人なら使役されても良い、と思えるくらいの信頼関係があるときにキスをすればいいんだって」


「き、キス!?」


レベッカが顔を真っ赤にしながら驚く。

俺はそんなレベッカの様子に思わず苦笑した。


「別に口にするわけじゃないから。ほっぺとかおでこに軽くするだけで契約成立だよ」


「なんだ……そういうことね……」


「うん」


まあでも確かに野生動物とかにするのは結構抵抗あるよな。

もし契約するってなったら家でしっかりその子を洗ってあげてから信頼関係を作り上げて契約したいものだ。


「まあ契約するってなったら私にも見せてよね。少し興味あるから」


「わかった。そのときはちゃんと伝えるよ」


そのときだった。


「大変だ!御者が振り落とされて馬車が暴走してるぞ!」


後ろから叫び声が上がる。

振り返ると制御を失った馬車がこちらに向かってきていた。

まずい……!このままだと轢かれる……!

横にいるレベッカに目をやると気づくのに遅れてびっくりしたせいか体勢を崩しかけている。


「レベッカ!危ない!」


俺はとっさにレベッカを突き飛ばし自分も横に飛ぶ。

なんとか躱しきった……

そう思った瞬間、唇に温かく柔らかいものが触れる。

俺が押し倒したかのようにレベッカに覆いかぶさり唇が重なってしまっていた。

俺は慌てて立ち上がり唇を離した。


「ご、ごめん!」


その瞬間、レベッカの下に魔法陣が現れ光が包みこんだ。

光が収まるとレベッカは寝転がった状態から起き上がり女の子座りになる。


「魔法陣の光!?だ、大丈夫?レベッカ」


俺が心配して覗き込むと首には首輪が現れ顔は上気して俺をぼーっと見つめる目には心なしかハートマークが入ってるような気がした。

な、なにが起こったんだ……?

俺が唖然としていると突然頭の中にレベッカの声が流れ込んでくる。


『か、カッコよかった……それにキスまでしちゃったよぉ……!私を守ってくれるなんて王子様みたい……本当に大好き♡』


俺は何が起こったのか一瞬理解できず固まる。

これってまさか……

でも数秒経ってようやくその言葉の意味を理解した。


「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?」


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ちなみに砂乃は犬派。

猫は中々一緒に遊んでくれないから……

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