母親への愛

天川裕司

母親への愛

タイトル:母親への愛



▼登場人物

●本野正義(ほんの まさよし):男性。35歳。妻帯者。サラリーマン。

●本野明美(ほんの あけみ):女性。33歳。正義の妻。

●本野雅子(ほんの まさこ):女性。65歳。正義の母親。回想シーンのみで登場。セリフなし。

●須磨香苗(すま かなえ):女性。30代。正義の理想と本能から生まれた生霊。


▼場所設定

●本野宅:都内にある一般的な戸建てのイメージで。

●カクテルバー:同じく都内にあるお洒落なカクテルバー。正義と香苗の行きつけ。


▼アイテム

●Mother's Face:香苗が正義に勧める特製の錠剤。これを飲むとどんな彼女に対しても、自分の母親に対する愛情と同じ愛情をもって接する事ができる。


NAは本野正義でよろしくお願い致します。



イントロ〜


他愛無いことを言いますが、純粋な愛って一体何でしょうか?どういうものを言うのでしょう。

誰もが面倒臭がってそんなこと考えないでしょうか。

今は時代も進んでます。思考も進んでます。

だからこそそんな所で立ち止まる事はせず、もっともっと先へ…

自分達の欲望をもっと満たしてくれるパラダイスのような場所に行くのでしょうか。

でもそこで踏み留まり、ふといろんな事を考えてしまった或る男性にまつわるエピソード、

これを今回ご紹介したいと思います。



メインシナリオ〜


ト書き〈カクテルバー〉


俺の名前は本野正義(ほんの まさよし)。

今年35歳になるサラリーマン。

俺は妻帯者で、今、愛すべき妻が居る。


しかし、ふと考えた。その愛する妻との間に生まれる愛って、一体どれが理想なんだろうか…と。

誰も考えないようなこと。俺はそれを考えてしまったのだ。


誰に言ったって面倒臭がられるだけだしこれは1人で考えること。

でもそんな時、一緒に考え、その理想を何となく現実にしてしまった或る女性と俺は出会ったのだ。


香苗「フフ、こんばんは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」


そう言って彼女は初めやってきた。


彼女の名前は須磨香苗(すま かなえ)。

都内で恋愛コンサルタントやメンタルヒーラーの仕事をしていたようで、

どことなく気品漂い、不思議な魅力の持ち主だった。


どこが不思議かと言えば、「昔どこかでいちど会ったことのある人?」と言う印象を漂わせる上、

そのイメージから心が解放させられるのか。

自分の悩みを何でも打ち明けたくなる。どんな些細な事でも。

で、俺はその時自分が思っていた事を彼女につい言ってしまったのだ。

「純粋な愛って一体どんなものだろう?」と。


ここから回想録になるけど、彼女と俺のやり取りはこんなものだった。


香苗「フフ、あなた、奥様の浮気を恐れてますね?」


正義「え?」


香苗「純粋な愛を求めると言うのは、原点に立ち返りたいと言うことです。つまり俗世間で汚れきった人間の淵から甦り、何とかして自分の理想のパラダイスへ戻りたい…その気持ちが働いてそう言わせているのです」


正義「い、いやそんな事、なにげにふと思っただけですよ?」


香苗「隠さないで下さい♪もうわかってますから。奥様の浮気が怖いついでに、自分が浮気することも嫌なんでしょ?同じようにそれを怖がっていると思います。あなたはもしかして、何やらの信仰などをお持ちではないでしょうか?」


正義「は?なんでそんなことを急に?」


でも当たっていた。俺は昔からミッションスクールに通い、聖書のあの十戒を知っていた。


香苗「原点に立ち返りたいと言うのは、人間本来の姿に帰りたいと言うこと。その人間本来の姿と言うのは、神様が全ての人に与えて下さったその原点の姿」


香苗「余りに汚れきった人はその原点に立ち返りたいと、無意識にも思うものです。性善説という言葉をご存じでしょう。あれは人の正直です。おそらくそのように創られていたのでしょうね。確かにそこで立ち帰ろうとする人としない人と2つに分かれるようです。あなたは前者のようですね?」


正義「…はい、正直に言います。僕は今の妻・明美との間に本当の愛の土台が欲しいと思ってるんです。一切揺らぐことのない、今後、永遠に紡ぎ行かれるほどの、そんな丈夫な土台のことです」


正義「あなたの言われる通り、浮気する事もされる事もやはり嫌なもので怖いです。それが理由で別れるカップルや夫婦はごまんと居るでしょう。ほとんどそれが理由じゃないかと思えるほどに」


正義「確かに経済的な理由もありますが、でも今僕らの家庭は経済的には潤ってます。生活して行けるだけの資金はちゃんとあります。その上での悩みですからそうなるんでしょう。人間的な問題です。…お互い純粋に相手を愛せるようになる為には、どうすれば良いんでしょうね」


香苗「…では、こちらを差し上げましょう。これは『Mother's Face』と言う特製の錠剤で、それを奥様に飲ませればおそらくあなたの今の悩みは解決します」


正義「え…?」


香苗「信じる事です。信じる事から全てが始まります。こんなこと他の人に言ったってその他の人は信じないでしょう。だから今あなただけに言ってます。信じて下さい」


ト書き〈3日後〉


それから3日間、俺はもらったその薬を妻に飲ませるかどうか散々迷っていた。

でもここで香苗のもう1つの魅力に気づく。

他の人に言われたって信じないことでも彼女に言われると信じてしまう。

つまりその気にさせられ、彼女が言った通りに行動するのだ。


妻にその薬を飲ませ、俺の悩みは解決された。

この時あのバーで彼女が言っていたセリフ・言葉を思い出す。


香苗「フフ、純粋な愛と言うのは男女関係において、男性の場合は母親に対する愛情にあります。出会う女(ひと)に自分の母親を見る…という言葉をあなたも聞いた事があるでしょう。あれはその通りで、もしその彼女さん或いは奥様に、自分の母親の姿をその男性が見る事ができ、その姿勢をずっと貫く事ができれば、その男性の中に純粋な愛が生まれる筈です」


香苗「これは母親をちゃんと愛せる男性に限った事ですが、全ての男性がそうであると私は信じたいのでこう言ってます」


(出社)


明美「あなたぁ、行ってらっしゃい♪今日も早く帰ってきてね」


正義「ああ♪行ってくるよ」


(カクテルバー)


その日の帰り、俺は又あのバーに立ち寄っていた。

すると香苗さんが居た。前と同じ席に座って飲んでいる。


香苗「フフ、いかがですか、その後?」


正義「ええ、これまでとは全く妻に対する心の姿勢が変わりましたよ。確かにあなたの言われるように、自分の母親に対する愛情をもって彼女に対せば、これまでのような、欲望に刺激されたような曖昧な気持ちは湧いてきません」


香苗「そうですか♪それはよかったです。で、今後もその心の姿勢は変わりませんか?」


正義「ええ、あの錠剤の効き目が変わらない限り、僕の心も変わらないでしょう」


香苗「そうですか。フフ、あの薬の効果は無限です」


正義「だったら僕の心も変わる事はありませんね。だってあいつの顔、母親になってるんだもん」


ト書き〈正義と明美の自宅を少し遠くから眺めて〉


香苗「私は正義の理想と本能から生まれた生霊。彼の望みを純粋に叶える為だけに現れた。母親に対する愛情をもって彼女に接する、素晴らしい事よね。…でも彼、今後、浮気しなきゃ良いけど」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=Z0Q7_hTdK-M&t=126s

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母親への愛 天川裕司 @tenkawayuji

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