第31話 白い魔狼

 魔狼ガルムを見つけ次第討伐した、まさに魔狼の天敵と呼べる存在になった。そんなボクが困惑する存在に出会ったのはレベルが上がって休憩していた頃だ。


 犬のようにお腹を見せて「ハッハッハッ」と甘えてくる真っ白な狼に遭遇した。


「え、あの?」

「おい、貴様!この我が腹を見せてやってるんだ。ありがたいだろ?撫でろ」


 白い魔狼は偉そうに言った。これがハスキーだったら喜んで撫でたことだろう。この魔狼は大型犬と呼ばれるハスキーの3倍ほどの大きさがあった。


「え、え?ええ?な、撫でるの?ボクが?」

「そうだ、撫でていいとこの我が言っているのだ。はやく撫でらんかい!」


 しきりに「撫でろ撫でろ」と言う魔狼の要求に屈してしまった。もふっとしたふんわりお腹を撫でさせてもらえる。


 そんな感動の瞬間に立ち会える上にしてほしいと言われている。撫でないわけにはいかない。


「ふわぁ……ふわぁ……お、おおっ……」

「おい、なんかキショいぞ、貴様!もっと普通にせんかい!」

「だって、ふわぁっふわぁっなんだよ」

「わかっておる!なんせこの我のお腹なのだぞ!もっふもふじゃないわけがなかろう!」


 手がもふもふに包まれて幸せすぎる。頬も緩みっぱなしだ。こんなの我慢できるわけがない。


 まずい、要求されてないのに、顔を埋めたくなる。くっ、こんなの我慢できるわけ。


「よせ、我はそこまでゆるしておら……なんだそのだらしない顔は!?」


 白い魔狼が肉球で顔を押しのけた。柔らかな肉球に触れて顔がさらに緩んだ。


「だってぇ…じゅるっ」

「きったな……貴様!それでも魔狼の虐殺者か!?」

「え?それってボクのこと?」

「そうだとも!我は貴様のような強い存在が現れたとき、交渉しに来るのだ!なんせ死ねば終わりだからな!」


 あまりにも仲間が殺されていくから、その天敵であるボクを説得しに来たらしい。


「行きたいところがあって、襲ってくるから仕方なく」

「ふむ、行きたい場所を言ってみろ。我が案内してやろう」

「草原にある魔気草が欲しいんだ」

「ぬ?なんだ、草か。そんなものいくらでもやろう」


 白い魔狼は前を歩き、案内してくれた。行く先々で魔狼が出てきては襲おうとする。その度に白い魔狼が牽制してくれた。


「おかしい。なぜ貴様は子らに恨まれておる?」

「あー、鹿と友誼があるから?」

「そんなもの我だってある。互いに食う食われる関係だからな。互いに年老いた個体を狩りに出させ、勝てば飯にありつける。そんな制約を我らは互いにかけておるのだ。だから子らはたくさんいるであろう?」

「リアムが襲われているのを助けたから?」

「リアムが襲われる?馬鹿な!我はそんな命令だしておらぬ。なにやらおかしな思惑があるやもしれぬ。すまぬ、この毛玉を貴様にやる。これでここで襲われることはない」


 白い魔狼は口から毛玉を吐くと、森の奥へと消えていった。


「これ、吐瀉物では……?」


 喋る魔狼と別れて草原へ向かうと、白い魔狼の匂いを嗅ぎつけたのか、子魔狼が近づかなくなった。


 襲われることがなくなると、草原へはすぐに到着した。一面緑色の草が生えている中にポツンと青色の群生地がある。


「カミラさんが欲しがってた魔気草だ」


 見る限りたくさんの魔気草が生えている。丁寧に短剣で根っこも含めて掘り起こす。本で見た通り、根元にチューリップのようなカブがついている。これに魔気を溜め込んで成長している。


「よしよし、結構採れたぞ」


 魔気草はボックスに10個単位でストックできた。鞄と短剣分を除いて5スタック分採取した。鞄の中はレヴァナントと魔狼の現物が入っている。今回の儲けとしては十分だ。


「良いものも採れたし帰るか」


 来た道を戻っていく。毛玉の効力が薄くなってきたのか、子魔狼を見かける頻度が増えてきた。影で暗くなっている場所を狙って歩いていたが、音は消せても匂いまでは消せない。


 振り向けば低い姿勢で狩る準備をしている。


 人参太郎:『どうするつもりだ?』


「うーん、約束はしたけど、襲われたら戦うよ」


 背後から近づく足音。すぐに反撃できるように短剣を構える。


「グルァッ」

「ごめん。ボクもやられるつもりはないんだ」


 飛びかかったタイミングで前進する。肩口を噛みつかれないように躱し、振り向いて短剣を投擲する。うまく躱す子魔狼に急接近して上から頭を押さえつける。すると隠れていた3匹の子魔狼が追加で襲いかかってきた。


 押さえた子魔狼の脳天に短剣を突き刺してその場を離れる。追ってくる子魔狼に短剣を投擲して距離を取らせ、仲間との連携を崩す。


 隙は逃さない。両手に短剣を携えて急接近して連続で斬りつける。度胸と勢いだけで2匹に致命傷を負わせる。


 怯んだ隙に残りの1匹を突き飛ばして浮力の珠をつける。戦うことも逃げることもできない選択を強いて、弱った子魔狼にトドメを刺す。


 仲間を救うこともできず、解除方法がわからないまま暴れるだけの子魔狼にもトドメを刺す。


「ごめんね、これも戦いだから」


 多くの魔物と戦っていていつの間にかレベルが10になっていた。魔気を増やせば戦いの幅も広げられていた。レベルが上がることも忘れて戦いに没頭していた


「あ、でも魔石ないや。能力値は筋力と知力半々にしよう」


 ーーーーーー

【嘉六のステータス】

 名前:嘉六

 レベル:10

 称号:【天空竜の祝福】

 体力:41/55

 魔気:6/6

 闘気:2/2

 筋力:14(+3)

 速力:12

 知力:11(+3)

 能力値+0(+6−6)

【ルーン】

 仙人 闘気(自己のルーン)

 レベル1:腕輪の型

 暗殺者 魔気(回帰のルーン)

 レベル1:短剣の型

【所持品】

 お金:430リン

 ルーン:不明1

 ーーーーーー


 これでストックできる魔気が22になった。量=戦いの質になるのがいい。操れるものが増えてコントロールがきかなくなるなんてのはゲームおいてよくある話だ。


「魔気6の短剣3本、浮力の腕輪2つで残りは投擲用にしようかな」


 魔気がどれだけ込められているかはわからない。ぶつかって初めてわかるからこそ、戦いに心理戦が加わるのだ。フェイントもわざとダメージを受けることも相手を惑わすには十分価値のある戦術だ。


 接敵直後に魔気1の短剣で戦ったら、相手はどう考えるか。賢い魔物なら惑わされることはないが、知能が低ければ、準備をしていなかったな、と捉える。強気でいった結果、罠の可能性がある。これはそういう戦いなのだ。


「まだレベルが低いからそんな敵いないだろうけど、いつかは出るよね、きっと。運営の性格悪そうだし」


 地下労働者のようにドナドナされたことをまだ引きずっている。あれを喜べた人はいないんじゃないってぐらいプライドをズタズタにされる。あそこでこのゲームやめる人が出そうだなと改めて考えると感慨深い。


「ボクって結構メンタルつよつよなのかな」


 人参太郎:『強いだろ。弱音は吐くけど、最後は諦めないし、放り投げない。そんなやつがメンタル弱いわけ無いだろ』


「そっか、そうだよね」


 これは人参太郎さん、彼なりの慰めだ。こうやって優しいところを見せてくれることがある。いじってくるけど、切り替えるスイッチはある。こういうのは人柄に出てくる。


 人参太郎:『欲しいものは採れたんだろ?この後はどうするつもりだ?』


「白い魔狼と会えばストーリーが進みそうな気がするから、このままカミラさんにも会わずに帰るよ」


 人参太郎:『船……?』


「なにか方法はあるはずだよ、たぶん」


 これから船をつくってこの島から脱出するゲームが始まるわけでもない。なにかしらヒューズを呼び出す方法はあるはずだ。

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