第10話 対消滅
冒険者ギルドの受付にはジト目でみつめてくるミーティアがいる。ビクビクしながら処理したアジを出す。アジを検品すると、にこーっと笑った。
「そうそう。これでいいの、これで」
アジの評価はすべて7だった。常設依頼は1匹から。問題なく買い取ってもらえた。気になるのはその値段だ。
「いくらになります?」
「アジは評価1に対して10リンよ。あわせて280リンね」
「なるほど。これでなにが買えますか?」
「なにも買えないわ」
「ええっ!?」
驚くべきことにアジは最底辺の魚だった。美味しいのにというのはミーティアも同意してくれた。なぜこんなに安いのか、それはいつでも釣れるから。ごもっともな回答になにも言い返せない。
ただし内陸部の方ではそれなりに高価で取引されるらしい。ならば交易だ。そういえばアルカナから出れなかったね。だめだ、詰んだ。
「レベル2になったんですけど、魔石っていくらで買えますか?」
「わぁ、おめでとう!そうねぇ……そのレベルなら1000リンよ」
「たっか!?」
「がんばって釣ってきてね〜」
5匹倒してレベルが上がったことを考えると、10匹倒したらまたレベルが上がらない?そんなことを考えながら港に戻った。
釣りは嫌いじゃない。魚との駆け引き。そして力比べ。逃げられる可能性を考えると緊張してくる。今はまだレベルが低いからなのか、はたまたアジだからかこの駆け引きはない。むしろ向こうからやってくる。
桟橋から垂らした疑似餌に寄って集ってアジが食いつく。よく見ると競い合ってるようにもみえる。この疑似餌がやばい代物の可能性が出てきた。
レベルアップの恩寵で得た能力値はまだ振っていない。アジ以上の強敵に備えるためだ。
「よし、釣れた!」
強くなるためにアジを釣り上げ、10匹貯まったら捌く。その繰り返し。最初の10匹で700リン。その次の10匹で1680リン貯まった。その過程でレベルも3になった。
「え?ループ?」
魔石を買うために釣りをして、レベルが上がったらまた魔石が必要になる。嫌気が差しそうなループだ。調理技術は着実に上がっている。スキルは芽生えたりしない。
「うーん、でもこの方法以外に強くなる方法もないしなぁ」
魔石を食べながら考える。ステータスの体力は魔気を上げたと同時に上がっていた。体力もレベル上昇に関係しているようだ。
ーーーーーー
【嘉六のステータス】
名前:嘉六
レベル:3
称号:【天空竜の祝福】
体力:20/20
魔気:2/2
筋力:3
速力:5
知力:2
能力値+6
ーーーーーー
やっぱりやれることはない。釣りをして美味しいものを食べれるようになるスローライフと思えば案外悪くない。
「もうちょっとがんばってみるよ」
魔気を2にして初めての釣りだったのだが、アジしか来ていない。
「やっぱアジか……代わり映えがないとつまらないよな……」
視聴者に見せる演出としてなにかないか考えていると名案が出た。
「あ、そういえば、アジと正面からバトルしてないよな」
ちょうど釣り上げたアジがまっすぐ頭目掛けて飛んでくる。
「これさ、避けずに魔気を纏ったらどうなるの?」
魚とはいえ、棒状のものが顔面に直撃するのは少し怖い。目を閉じてアジの突進を受け入れる。
「いったっ……」
衝撃とともに後方に弾き飛ばされ、背中から桟橋に倒れた。体力は衝撃で1減っている。対して魔気は纏っていた分が消し飛んでいた。アジは空中で怯んでいる。
「痛たた……こ、れはどういう現象なんだ?」
考えてもわからないことはすぐに聞く。アジの出方を警戒しながら考えるのは得策じゃない。
人参太郎:『攻撃1と防御1の衝突じゃないか?』
雲行き綾憂:『魔気はそれっぽいですね。身体への衝撃はなんなんですかね?』
雪城:『……ねぇ、ステータスの筋力はどう?』
人参太郎:『あっ、それじゃね?』
別人格:『なるほど!』
想像以上に早く結論が出た。頷ける内容だ。
「試しに受けるのはこれで最後にしよう」
動かないアジに接近して魔気を込めた拳で殴って仕留める。
「なんも考えなしにしてたけど、アジに魔気あり攻撃が2回必要なのって、魔気0の防御があるから?」
人参太郎:『あ、うん。そうだろ?いまさら?』
雪城:『そういうところもかわいい。安心して』
よくよく考えると魔気1あれば対消滅する。それなのにボクが纏っている魔気が消えていなかった。攻撃が効かないわけだ。
「ボクも魔気0の防御ってどうかな?」
意見を聞いてみる。
人参太郎:『する必要あるのか?今は2あるだろ?対消滅のほうがよくないか?』
雲行き綾憂:『体力が多いのに魔気を割り振るのは無駄かと』
否定的な意見ばかりだった。
試しに0で魔気を発動しようとしてみる。発動するのに必ず1以上必要ということがわかった。魚の特性かもしれない。
別人格:『そこにアジしかいないなら移動してみたら?』
盲点だった。アジの群れに毎回餌を落としてるからアジが来るわけで場所を変えれば違う魚が来る。
「いいアイデアだ!そうしよう」
アジ周回を終えて精算する。これで貯金額は1380リンだ。
桟橋にあったバケツを持ち、場所移動をする。調理小屋の向こう側には浜辺がある。そこならまた違った魚が釣れるかもしれない。砂浜は足が沈んで歩きにくい。海は澄んでいてアジの群れはいなさそうだ。
釣り竿を振り上げて投擲する。足元に不時着した。
「………」
人参太郎:『そりゃそうだろ』
リールがない釣り竿ということを忘れていた。投擲できないなら海に足をつけて届く範囲に行くしかない。
「冷たっ」
海の冷たさを感じながら疑似餌を落とす。できれば大物を釣りたいところ。しばらくして引きがあった。
「よし!釣れた!」
勢いよく引き上げる。宙に舞ったそれを見た。
「アジ……じゃないっ!」
身体はアジよりも一回り小さく、頭はアジよりも大きい。口を閉じていると少しだけ可愛い。この魚はハゼだ。
ハゼは種類によっては毒がある。食べられる種類は白身魚で天ぷらがおいしい。鮮度が落ちやすく市場にはあまり出回らない。
「こいつはどれくらい耐えられる?」
拳を振り上げて落ちてきたと同時に殴る。ぶつかった瞬間、魔気の対消滅が発生した。衝撃で腕が弾き飛ばされ、ハゼは海へと帰っていった。
「えっ……ええ……」
アジのようにその場で怯むことなく、いなくなったことに戸惑う。一連の流れからハゼは防御に魔気を1振り分けている。当てる方向を考えないとまた海に帰ってしまう。
「力加減でどうにかなるものなのか?」
もう一度、疑似餌を海に落とす。しばらくして竿が引かれる。ゆっくり引き上げると疑似餌に食らいつくハゼの姿。手元に引き寄せ、浜辺の方に張手をお見舞いする。対消滅発生とともにハゼが浜辺に飛んでいく。
「これだ、これならいける!」
ハゼは浜辺に転がると微動だにしなくなった。近づいてトドメの一撃を加える。
「アジよりも簡単そうだな」
ハゼもアジと同程度の強さと言える。攻撃のアジ、防御のハゼと言ったところか。
「こいつも10匹倒したら売りに行こうぜ」
今度はハゼ周回だ。
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