竜核の異端者

のんびり屋

第1章 流刑地アルカナ

プロローグ

 とあるゲームのPVをみて、ゲーム人生においてこれにまでにない感動を覚えた。


 突如としてゲーム総合サイトで総合ランキング1位になったゲームがある。数多存在するゲームの中で初めて見る映像だった。スマホやPCで見るような動画ではなく、VR機器で鑑賞する臨場感のある映像だ。


 天空竜を崇める宗教国を舞台に、内乱戦争が巻き起こる。


 ゲームの主人公は、ひとつの領土の一兵士としてその戦いに参戦する。敵をなぎ倒し、戦果を上げることで昇格し、領主に認められて成り上がっていくという物語だ。


 どの領土に属するかは最初のルート分岐によって決まり、後戻りのできない選択を強いられる。ゲームの醍醐味は物語の主軸が自分でありながら、オンラインゲームで他人と共闘あるいはライバルとして戦うことができるということ。


 領主として国を育てて戦うゲームはあったが、一兵士として成り上がるものは少なかった。さらにオンライン要素も加わったものはなかったに等しい。


 主軸となるシステムは全世界でゲームの根幹とされるジェネシスシステムだ。このシステムは全てのゲームに共通したサービスを提供し、開発会社だけでなく、配信者やプレイヤーにまでも得をさせてくれる優れものだ。


 現在は電子媒体だけでなく、現実のショッピングもできる仮想通貨システムがあるため、アカウント登録していない人がいないと言われている。


 話題になったゲームの名前は『終末のエリュシオン』。体験版から数多くのプレイヤーが参戦し、他ジャンルの配信者も集まり、当初からお祭り状態になっている。


 ゲームシステムはただ己の肉体で戦うだけでなく、ジョブに転職してスキルを覚え、自身にあったプレイスタイルで戦うというものだった。。


 話題性から体験版の期間だけでプレイ人口は続々と倍増していった。


 そうしてこのゲームのリリースが発表されると、抽選会には数多くのプレイヤーが集まった。今の時代、どのゲームも入場規制をしている。大人気ゲームだからこそ、入場規制をしてゲームをプレイできる権利の価値を上げているのだ。


 そうすることで既存ゲームの過疎化を防いでいる。システムの根幹が同じだからこそできるマーケティングだ。


 ゲームの大航海時代といっても過言ではないこのご時世にボク、鹿島霧月はゲームのために有給休暇を取得していた。夜中に外を歩けば遠目で補導されかける身長の低さと顔の幼さを持った立派な大人だ。


『終末のエリュシオン』の抽選会には会社を休んで参加した。その日、不自然に体調を訴えたものは数知れず。翌日に大目玉をくらうことを覚悟しての行動だ。


 これは願わくば当選してゲームをすぐにやるという腹積もりで。もしかしたら次の日も不調で休むかもしれない。上司には伝えておいておこう。


「おねがい!当選して!」


 祈った結果、ボクは敗残兵となった。


 ゲームをプレイしている人口は億を超える。そして『終末のエリュシオン』の人数規制は10万人。宝くじに当選するレベルの確率だった。


「次こそ……次こそは!」


 ゲームをしたいという欲とは裏腹にゲームができないことへの不満が諦めに変わっていった。


 リリースしてから1週間が過ぎ、公式から新たな動画が公開された。


 戦闘屋として名高い有名配信者の『須賀刀夜』、そしてVTuberアイドルグループのぶいにゃんのクール担当『天草紫音』のふたりがお互いの領地の命運を賭けて戦争をしているというものだった。


 互いに一歩も譲らない戦い。拮抗する戦場。裏工作を行うプレイヤーたち。胸熱展開が何度も起きる苛烈な戦争に胸が踊らないわけがなく、冷め始めた心にまた熱が灯りだした。


 戦争のハイライトは有名配信者とともに毎週公開された。その動画の最後に抽選するために必要なコードが隠されており、毎度のことながら火が消えそうになったら、薪を焚べられた。


 秘匿性の高いゲームだからこそ、情報は始める人にとっての強みに変わる。有料配信でしか語られなかった序盤のルート分岐も公開されることとなり、火事になりそうなくらい熱が強くなる。


 現在見つかっているルートは全部で7つ。どこかの勢力に属する領地だという。このルートに行くには、どこに行く必要があるなどの情報が詳細に記録されており、新規参加者をより楽しませるための工夫まで用意されていた。


 その領地に属するということは、自分が好きな配信者の人員に加われるということだ。もしかしたら日常的な会話や戦友として名前を覚えてもらえるかも知れない。そんな希望を持つこともでき、ゲーム性以外の面でもプレイヤーの意欲を掻き立てることとなった。


 それから1週間後。また落ちた。もはや悲しみを通り越して無に近い状態になったこの頃、新たに4つのジョブの紹介がされた。


 剣や槍を武器に戦う戦士のジョブ。兵士として前線で戦う主力部隊として配属され、名高い英雄と戦うことができる。


 弓や罠を用いて裏方から援護する弓士のジョブ。前線よりも後方から支援することができる。時には偵察として敵陣に忍び寄ることも可能だ。


 怪我や病気によって戦場から逃げてきた兵士を復帰させる薬師のジョブ。後方支援だけでなく、毒の開発を行い、敵陣を混乱されることもできる。


 交易を発達させて領地を豊かにする商人のジョブ。領地の特産物を増やしたり、都市間の交易を広げることでより同盟を強固にすることができる。


 それぞれの特色を活かし、より高度な戦争を行って勝利しろというものだった。戦争の結果は月一で発表されて名高る英雄となったプレイヤーをランキング方式でゲームに記録される。そして戦況はその日でリセットするそうだ。


 つまりそのリセットが実施された、ちょうどリリースから1ヶ月の当選日は、区切りとしてはちょうどいいことになる。戦争の貢献度がリセットされるならまだゲームプレイできていないプレイヤーにとってはプラスとなる。


「ここは外せない!……絶対に当選してみせる!」


 慣れた手つきで有給取得をしたこの頃。上司からも微笑みを向けられる対象になった。敗残兵の山は後を絶たないこのゲームで、未だに当選日に有給を入れてるのはボクくらい。


 諦めて心が折れたものもいる。


「いや、この序盤のルートを知り尽くしたボクは絶対当選する!」


 勢いとやる気だけなら他のプレイヤーにも勝る点があったはずだった。わかっていた。抽選方法はみんな一緒。どんなに熱があっても、運営には届かない。


 有り余る自信があっただけに、当選結果を見るのが辛い。


「キタキタ!一文字目に『お』の文字!これは『おめでとう』の『お』!」


『お知らせします。入力情報に誤りがあったため、この当選は無効とさせていただきます』


「……は?」


 リリースされてから1ヶ月。まだゲームをプレイできてません。

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