天使と悪党

天川裕司

天使と悪党

タイトル:天使と悪党



イントロ〜


あなたはこれまでにどんな良い事をしてきましたか?

と同時にどんな悪い事をしてきましたか?

人は人である以上、皆罪人だから、良い事をすれば悪い事もしてしまうものです。

けれどそれを自分がまずどう受け止めるか?また他人がどう受け止めるか?

得てして他人が受け止める事でその人への評価は変わって来るものですが

神様の目から見てその人がどうあるか?これが大事な気もします。

今回は、その2つの事を同時にしてしまった或る男の人にまつわるお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈駅のプラットホームにて〉


俺の名前は面堂(めんどう)カケル。今年20歳になる大学生。

俺は名前の通り、人に迷惑を散々かけてきたほうで、ついさっきもそんなことをしてきた。


昔からカッとなると喧嘩っ早い性格で、普段は本当に温厚で、どちらかと言うとかなり臆病な性格なのだが、

その分、窮地に追いやられるとどうしようもなくなり、

これまでずっと臆病に耐えながら生活してきた分、

勢いに任せて相手をやってしまうほうなのだ。


と言いつつ喧嘩なんてかなり弱いほうで、今まで学校でも散々いじめられてきた。

でもさっき、俺はヒーローみたいに勝ってしまったのだ。


道端で、女の子がある暴力的な男にやられていた。

俺は最近自分の人生に嫌気がさしていたので、つい自暴自棄になり、

その男と女の間に割って入って男のほうをやってしまった。

もうどうにでもなれと男を殴ったら、ちょうどそこに枯れ木があって男は

それに足をひっかけ、後ろ向きに倒れてしまった。


女の人は俺に何度もお礼を言い、ありがとうと言ってくれたが、

男が起きて向き直ってくるのが果たして怖く、そのままの勢いで逃げてきてしまった。


そして今である。今、俺はいつも使っているこの駅に居る。

とにかく朝っぱらからの授業、大学に行こうとしており、

落ち着かない気分ながら何とか落ち着こうとしていた。


俺がなぜ人生に嫌気がさしたかと言えば、それは自分の両親を相次いで亡くしてしまったから。

はっきり言って今の俺は天涯孤独の身。


人によってそんな時いろいろあると思うが、俺の場合はこうなった。

これから金を稼いで自力で生活して行かなきゃならない。

学費もまた払わなきゃいけない。生活費も同時に稼がなきゃならない。

今はまだ貯金があるが、それもいずれ底をつき、俺はいわゆる人生・生活の苦労を膨大に強いられることになる。

やっぱりこんな時、身内に頼ろうとする思いはまず湧いて来ない。


いわゆるこう言う窮地は誰でも平等に突きつけられる人生の試練だろうが、

俺は生来の性格がたたり、それに何となく耐えられない気分になっていた。


それに俺はちょっと前に自律神経失調症・パニック症に罹ってしまい、

それに罹れば人生詰んだなんて言われるのを身をもって知る程に、

今俺の人生は詰んでいるのか…と何度も思う。切実な思い・感覚にあったのだ。


ト書き〈転機〉


やがて電車がホームに入ろうとして来た。いつも通りの雑踏。

呼吸が落ち着かず、またリズムを狂わせて苦しくなりそうになってしまう。

こうなるとまともな思考がもうなかなか働かなくなる。

こんなこと、自律神経失調症・パニック症(それ)になったヤツにしか分かるまい。

いやその場合でも個人差があるから俺にしか分からない事か。


変な事ばかり考えながらぼうっと前を見ていたところ、

1人の男の子がキャッキャと遊んで居やがった。

「まったくこんな朝っぱらから…」なんてちょっと鬱陶しい気分で眺めていたが、

その子を見ている内に段々と自分の昔を思うようになり、

父さんと母さんに連れられて居たあの頃の俺はこんな事で悩まず、苦しむことなく、

唯我独尊みたいな感じで、子供らしく遊んで居たなぁ…


そんなふうに自分の昔を振り返り、その子が少しだけ愛おしくなってしまった。

「ダメだ、ダメだ」と現実にまた戻り、その日の1日を身構えて過ごそうと言う自分になってしまう。

これも世間に出て長年かけて染みつけてきた自分の癖だ。


そして電車がもう入ろうとしていたその瞬間、「きゃあ!」と言う声がどこからか聞こえてきて、

ふっと見ればあの男の子が線路に落ちていた。


「えっ?」と思いながらギョッとした気持ちで俺も前のほうに行った。

皆ざわざわしながらその子を眺めている。「助けて下さい!助けて下さい!」と母親のような女の声がこだまする。


でも皆、その1日を大事に過ごそうとしていた。だから誰も線路に降りない。

自暴自棄になりかけていた俺はさっきのことを思い出した。

殴り倒したの男、動かなかった。それを横目に見ながら、それを恐れて俺は逃げ出したのだ。


「もしかしてあの男、俺が殴った拍子に死んでいたのでは…?」

その疑問がまず心に大きくのしかかり、さっきまでのうやむやとした気持ちがはっきり表れてきて、

その時の俺を苛むように包み込んできた。


そして俺は一瞬の勇気に一生を賭け(懸け)、線路に飛び込みその子の元へ。

昔に帰りたいなんて思いは一切なく、ただ目の前に居るその子を助けたかった。


落ちたその子はただキョトンとしたまま、今何が起こっているのかわからない、

自分に何が起きたのかわからない…そんな表情で呆然としている。


俺はこの駅のホームの構造を知っていた。いつも使っていたから。

線路に降りた俺は自分のカバンを抱えつつ、その子の体を思いっきり引っ張り抱えつつ、

「こっちへ…!」とホーム下の空間に誘(いざな)った。


そのホームの下は大きな空洞になっており、下は砂地で、多分こういう時の為に避難できるようになっていたのだ。

俺はそれを百も承知で知っていたから、無謀な勇気というか、その確信のもとにその子を助けようとしていた。


電車が大きなブレーキの音を立てながら、それでもゴーッと思いっきり入ってくる。もうホーム上のザワザワの音は聞こえない。


電車が停まり、何か駅の上のほうで声が聞こえながら、

俺はその子を目の前にした。その子はやっぱり無表情のままで俺をじいっと見つめてくる。余程ショックだったんだろうか。


俺は最後に良い事をしようと言うその気持ちで、「大丈夫か。…へっ、お前は強いぞ?あの時落ちても泣かなかったじゃないか?大丈夫…」


そう言った後、「あのな、向こうのほうに階段があるからそこから上に上がって、お母さんの所に帰れ。俺ぁそっから降りて外に行くから、黙ってろよ?」


「上に行ったらまたなんやかんや言われるかもしれないし、恥ずかしいと言うか恥ずかし過ぎるからそうするからね、じゃあ行け」


と電車が停まり、なるべく危険がないのを察知した俺はその子を放し、

一緒にとりあえず駅の下をずっと端まで行った後、その子を階段から上げ、俺はそのまま外へ降りて行った。


この駅の事はよく知っている。ホームを抜けた線路から、外へ降りられるのだ。

せっかく買った切符はオジャンになるけど、まぁ仕方がない。

上に上がっていろいろ注目されるよりは良い。

その時でも、俺が殴って動かなくなったあの男の事をやはり考えていた。


ト書き〈後日〉


キャスター「『朝の駅に天使が現れた?』…えぇ、今日のニュースですが… 1人の子供を助けた大学生くらいの男の人の姿は、その子を助けた後どこにも見つからず、そこに居た人達は皆声を揃え…」


キャスター「今朝の朝8時頃、◯◯駅近くの路地裏で男性の遺体が見つかり…それを目撃した通行人の証言によれば『女性が男に絡まれており、それを助けた男性が』…」


それから数ヵ月後。俺は今日も同じようにして大学に通って居る。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=-fEzPkuZbIg&t=67s

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使と悪党 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ