断捨離の極意

天川裕司

断捨離の極意

タイトル:(仮)断捨離の極意


▼登場人物

●井野千草(いの ちぐさ):女性。35歳。OL。潔癖症の断捨離好きだが、ものぐさな性格。とにかく部屋が片付いてないと気が済まない。異常な潔癖気質。

●沢田和樹(さわだ かずき):男性。50歳。千草の上司・部長。

●野曽美香苗(のぞみ かなえ):女性。30代。千草の「部屋を潔癖に守りたい・不要な物は全て捨てたい」と言う理想と欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●会社:デザイン企業のイメージで。千草が働いている。

●千草の自宅:都内マンションのイメージで。

●バー「ディクラトリング(Decluttering)」:お洒落な感じのカクテルバー。香苗の行き付け。


▼アイテム

●「ルビーフクロウ」:風水で扱われている断捨離用のアイテム。これを部屋に置くだけで断捨離がスムーズに進んで行く。しかし依存し過ぎると大変な事になる。香苗が千草にあげる。


NAは井野千草でよろしくお願いいたします。



メインシナリオ~

(メインシナリオのみ=4193字)


ト書き〈会社〉


沢田「おーい井野くーん!」


千草「あ、はーい」


沢田「すまんがコレ頼む!至急作らなきゃいけない書類なんだ。今度のプレゼン用の書類なんだが、なんでも企画部の奴がミスっちゃってねぇ。そこで企画のテーマや文章をまとめるのが得意なキミにぜひお願いしたいんだよ」


千草「わ、分かりました・・・って、ええ?!こんなにあるんですか!」


私の名前は井野千草(35歳)。

このデザイン企業で働いているごく普通のOLだ。

私は昔から作文が得意。

特にテーマや骨子をまとめるのが上手かった。

しかし分量をこなすとなると話は別だ。


ト書き〈終わらない〉


千草「くっそ~、こんなの残業したって全然終わんないよぉ~」


会社に残って仕事をしたが…


千草「ダメだ!あとは持って帰ってやろ!」


全然終わらない。

仕方なく家に持ち帰って、その続きをやる事にした。


ト書き〈帰り〉


千草「はぁ。仕事持ち帰るのヤなんだよなぁ・・・。ホントいい迷惑だわ」


ト書き〈帰宅〉


千草「ただいまー」


私の家は都内のマンション。


千草「ゲッ、やっぱ改めて見ると部屋きったな・・・」


最近はずっと多忙で、部屋は荒れ放題。

いつか掃除しようと思いつつ、結局できないで今日まで来ている。


ト書き〈深夜〉


千草「はぁー駄目だ!続きは明日!もう寝よ!」


ト書き〈3日後〉


そして3日後のプレゼン当日。

なんとか無事に終わったようだ。


沢田「いやぁ~流石だねぇ♪やっぱり井野君に頼んでよかったよ」


部長も喜んでいる。

だけどこんなふうに喜ばれた後、部下は必ず悲惨な目に遭う。


ト書き〈仕事をどんどん負わされる〉


信頼の押し売りをして来るからだ。


沢田「あ、コレ頼むよ!」

沢田「スパっと切れのいいレジュメ作成お願いね♪」

沢田「今度のプレゼン企画の書類自宅へ送るから、少し目を通しといてくれ」

沢田「ボーナス弾むから、よろしく頼むよ♪」


部屋はもうゴッチャゴチャ。

私物と会社の物で溢れ返っている。


千草「もう~!好い加減にしてぇ!」


ト書き〈数日後〉


幾らなんでも会社の物は捨てられない。


千草「はぁ。あの会社ってブラックなのかしら・・・」


入社仕立ての頃はこんな事無かったのに。

最近になって特にひどい。


ト書き〈数日後〉


それから更に数日後。


千草「はぁーもうダメ!」


あれからまた物が増えていく。


千草「私の部屋は会社の物置か!」


私は断捨離好きだが、ものぐさな性格でもある。

余りに汚れてしまったら、掃除を諦めてしまう。


ト書き〈バーへ〉


千草「もういい!飲みに行こ」


或る日の会社帰り。

私は1人で飲みに行った。

いつもの飲み屋街を歩いていると・・・


千草「あれ?こんなお店あったっけ」


全く見慣れない店がある。

カクテルバー「ディクラトリング」。


千草「・・・変な名前。まぁいいや、入ってみよ」


中は落ち着いていた。

私はカウンターで飲んでいた。

すると・・・


香苗「お1人ですか?ご一緒してイイかしら?」


1人の女性が声を掛けて来た。

見ると結構キレイな人。

それに何となく不思議なオーラを携えている。

「昔から一緒に居た人」

そんな感覚が漂うのである。


千草「あの、あなたは?」


香苗「あ、申し遅れました。実は私こう言う者です」


名刺をくれた。

彼女の名前は野曽美香苗。

歳は30代くらい。

職業は「スピリチュアル・メンタルコーチ」。

どうもカウンセラーをしてるらしい。

私は知らない内に、彼女に悩みを打ち明けていた。


香苗「そうですか。おウチが大変な事になってるんですね」


千草「ホントもう嫌になります。ウチの会社ってお給料はそれなりにイイんですが、そのぶん上司に見初められた部下はどんどん仕事を負わされちゃって・・・。私もその犠牲者の1人です。家は会社の物と私物で散乱状態ですよ」


彼女は親身に聴いてくれた。

そして・・・


香苗「それでは少し、こちらをお試しになってみますか?これは風水で扱われている『ルビーフクロウ』というアイテムでして、主に断捨離用グッズとして大変人気があります。お部屋に置けば理想的な断捨離が出来るでしょう」


彼女はバッグから、小さなフクロウの置物を取り出した。

もちろん信じられない。

でも彼女はやはり不思議な人。

そう言われると、次第にその気になって来る。


千草「じゃあ、お試しで」


香苗「お試しですから料金は要りません。取り敢えず、お試し期間は1か月ですので、ご住所を教えて頂ければ私の方からご自宅へお伺いいたします」


ト書き〈3日後〉


それから僅か3日後。

効果は瞬く間に表れた。

部屋に溢れていた会社の物は全て回収された。

更に私は大急ぎで掃除をし始め、部屋は見る見るキレイになった!


千草「はー!すっかり片付いた!」


全く新築のような部屋の中。

元々部屋がどんなに綺麗だったか、掃除をして見て改めて分かった。


千草「ウフフ♪よし!これからは毎日掃除して行くぞ~!」


ト書き〈置物のフクロウを見ながら〉


千草「みぃーんなこのフクロウちゃんのお陰かな♪これからもよろしくね」


その時、フクロウの目がキラリと光った気がした。


ト書き〈数日後〉


でも数日後。


千草「はぁ。まーた部屋汚くなってきたなぁ」


生活していると、次第に物は増えて行く。

生活ゴミは、結局、無くならない。

ものぐさな性格が呻き出す。


千草「ダメだ!ここで頑張んなきゃ!」


物事をやり通す事!

私はきっとそれに欠けている。

私は決意して、その日からとにかく努力した。

3年使わなかった物は全て処分。

日用品も1週間使わなければなるべく捨てる。

買い物は必要最低限の物だけ。

服・小物・化粧品・家具!

とにかく少しでも使わない物は断捨離だ。


ト書き〈挽回〉


千草「ふぅ~♪ハハ、私もやれば出来るじゃない!」


また部屋は見違えるほど綺麗になった。


ト書き〈繰り返し〉


千草「はぁ~また汚れてる!掃除掃除!」

千草「へっへーん♪キレイだねぇ~」


千草「くっそ!まーた汚れて来た!掃除だ掃除!」

千草「ふぅ。これで見違えた」


延々その繰り返し。


ト書き〈後日〉


また会社から荷物がどっと押し寄せて来た。

前と同なじ!

でも私はフクロウに神頼み。

すると不思議な事に・・・


沢田「いやぁ悪いね~」


上司がそれらを回収しに来て、会社の物は全て片付いてしまう。


千草「凄いわこのフクロウ。ホントに断捨離効果があるんだわ」


日常の経過はこれまで通り。

でも、フクロウのお陰で部屋はすっかり片付く。

私は続けて部屋を掃除した。

そしていつしか私はすっかり断捨離中毒になっていた。


ト書き〈1か月後〉


香苗「お久しぶりです。わぁ、お部屋すっかり片付いたようですね」


千草「あ、香苗さん♪」


或る日ふと、香苗が自宅へやって来た。

そして・・・


香苗「それではフクロウの置物を回収させて頂きます。ここまでご自分の力で断捨離出来たんですから、もう大丈夫ですよね。これからは家事とお仕事の両立をしながら、ぜひご自分の力でお部屋を綺麗に保って行って下さいね」


千草「え…?」


忘れていた。

そう言えばこのフクロウの置物はお試しで貰っていた物。

期日が来れば返さなきゃいけない。

でも私はフクロウの魅力に取り憑かれている。

これが無ければ自信が無い。

ものぐさな性格も、このフクロウが直してくれたのだ。


千草「香苗さんお願いです!この置物、私から奪(と)らないで下さい!お願いします!お金ならお支払いしますから!どうか!どうかお願いです!アタシ、このフクロウのお陰でこれまで断捨離を続けて来れたんですよ!」


子供のように無心した。

「それはいけない」

と香苗は何度も私に言ったが、その内・・・


香苗「ふぅ。しょうがないですね。そこまで言うなら分かりました。その置物はあなたに差し上げます。でも千草さん、これだけは必ず守って下さい」


香苗「その置物の効果というのは或る魔力的な力を秘めています。ですから余りに依存し過ぎると、その人は自我を失くすほど置物だけに頼るようになり、自分の力で身の周りの事が何も出来なくなってしまう事があるのです」


ト書き〈数日後〉


それから数日後。

私は更に断捨離の鬼と化していた。


千草「フフフ・・・フクロウちゃん・・・あなたさえ居てくれたら私はずっと綺麗好きで居られる・・・ものぐさな性格に戻らず、この部屋を潔癖に保てるわ・・・」


部屋は誰も住んでいない新築のように綺麗になった。

しかし生活していると・・・


千草「今日は綺麗に片付いても、明日また同じようにゴミが出てしまう・・・」


解決法はただ1つ、ゴミの出処を処分する事。

フクロウの顔を見詰めていた時、又その目がキラリと光る。


千草「ㇵッ、そっか!そうだったんだ・・・ハハ・・・あっははは!」


ト書き〈空き家になった千草の部屋を見上げながら〉


香苗「ふぅ、やれやれ。断捨離の度合いが過ぎて、まさか自分まで断捨離しちゃうなんて。それじゃ誰の為に部屋を綺麗にしたのか、全く本末転倒ね」


香苗「私は千草の『部屋を潔癖に守りたい・不要な物は全て捨てたい』と言う理想と欲望から生まれた生霊。その願いを叶える為だけに現れたのだが」


香苗「彼女は綺麗好きだったけど、いつしかものぐさな性格も併せ持ち、そんな自分を嫌うようになっていた。その性格をフクロウが直してくれたなんて喜んでたけど、それは置物の効果でも何でもない。ただそれ迄の習慣が直していたのよ。せっかくアドバイスしてあげたのに、自分の成長も全部『フクロウのお陰』と片付けちゃった千草。なんとも勿体ない事をしたものね」


香苗「千草は結局、生活のゴミの出処だった『自分』を断捨離し、切断した体を綺麗に押し入れにしまい込んでいた。ん?でもコレって1人じゃ出来ない事ね?誰がバラバラになった遺体を押し入れに仕舞い込んだのかしら?」


ト書き〈手に持ったフクロウの置物を睨みながら〉


香苗「まさかアンタ・・・」


ト書き〈フクロウの目がキラーンと光る〉


香苗「この置物は『ルビーフクロウ』。『ルビー』の語呂を返せば『イビル(evil)』となって、それは『邪悪』を意味する。もしこの子が彼女の断捨離を手伝っていたとしたら。・・・いやいや、そんな不思議な事、起こるワケないか。まぁ何にせよ、彼女がバラバラになっちゃったのは、永遠の謎ってところかな」


ト書き〈マンション前の道を歩いて街へ消えて行く〉


香苗「あの部屋では、今でも千草の霊が掃除している。あとから入居して来た住人も、時々、彼女を見ているようね。そのお陰なのか、あの部屋はあんまり汚れないみたい。でも幾ら綺麗になったって、いわゆる事故物件よね」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=8N4T3N9HOBc&t=151s

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