精神の闇

天川裕司

精神の闇

タイトル:(仮)精神の闇



▼登場人物

●南方楠雄(みなかた くすお):男性。40歳。独身の在宅ワーカー。パニック障害。

●甲本明人(こうもと あきと):男性。41歳。独身の無職。統合失調症(本編では記載してません)。天涯孤独。

●岡田順子(おかだ じゅんこ):女性。45歳。明人を担当する役所の調査員。


▼場所設定

●楠雄の自宅:一般的なアパートのイメージでOK。

●明人の自宅:一般的な市営団地のイメージで。

●街中:必要ならで一般的なイメージでお願いします。


NAは南方楠雄でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたは心身に何か障害を抱えてますか?

障害というのは字で書くとこんな形になりますが、

誰でもその心の中に抱えている予備的病(よびてきやまい)として良いかと思います。

心は複雑で、1分1秒ごとに形が変わり、

少し負荷が掛かればそれで障害になる…

こんな絵図もあながち冗談ではありません。

しかし同時にその心の複雑さは時に、

犯罪へと暗躍している事もあるようです。



メインシナリオ〜


ト書き〈街中〉


楠雄「へぇ〜、じゃあ障害年金今もらってんだ」


明人「そう。まぁ本当は働きたいんだけどな」


俺の名前は南方楠雄。

今年40歳になる独身の在宅ワーカー。


今喋ってるのは俺の友達で、名前は甲本明人。

明人はある精神疾患に罹っており、俺より1つ年上ながら

その歳で障害年金を貰って暮らしている。


俺はこれを密かに羨んでいた。

実は俺も精神疾患を抱えていて、名前はパニック障害。

パニック障害は年金受給者の対象に含まれず、

同じく個人的理由で本当に仕事ができないのに年金は貰えない。


何度も実情を伝えて食い下がってみたが

かかりつけの心療内科のドクターはもちろんの事、

周りからも「たかがパニック障害の君が年金を貰うなんて有り得ない」

…みたいな事を言われ門前払い。


そんな経過もあって、俺はこの明人をひどく羨んでいたのだ。


ト書き〈1人自宅で〉


楠雄「…なんでだよ。なんで俺は年金もらえないんだ。本当に働けないのに…」


俺は集団の中に入ると過呼吸になり、椅子に座ってられず、

本当に倒れそうになった事が何度もあった。

でも生活する為に何とか金を稼ごうとそれこそ狂奔し、

せめて就労支援施設の中で一般に働いてる人と同じように

自分もまともに働こうと何億回も努力してきたのだ。

この努力は俺にしか分からない。他人には分からない。


そんな人の壁があり、俺のそんな努力は全て無視されて、

ただ「甘えてる」「ほんとは働けるだろう」などと

揶揄される対象になる。あざ笑われるのだ。


そんな事で挫折した時はいつも明人を心の底から羨んでいた。


ト書き〈数週間後に明人の家で〉


それから数週間後。

俺はまた明人に呼ばれて明人の家へ遊びに行った。

明人は今市営団地に1人で住んでおり、

電話で喋っていてもすぐ「遊びに来い」と俺を誘う。


本当はそうして遊びに行くのさえ自分の障害のため億劫な時があるが、

これも友達付き合いだと自分に言い聞かせて遊びに行く。


その日も明人が見たい映画や聞きたい音楽を

俺は見せ続けられ聞かされ続けた。

明人は自分に興味があるものしか話題にしない。


そんな時…


明人「あ、ちょっと待っててくれ。はぁい!」


明人の家に人が来た。


岡田「お邪魔します。あ、今日はお友達が遊びにこられてるんですね?」


聞けば明人を担当している役所の調査員らしい。

年金を受給するにはそれなりの調査が必要で、

定期的に就職活動をしているか、又その障害の状態に変わりはないか、

そんなことを調べたあげく、

年金受給者の資格があるかどうかを確認するのだ。


これが定期的にやってくるらしく、

明人はそのたび受け答えして、ちゃんと年金を貰える状態にある。


でも、それさえ俺は疑った。


就職してるフリをしてるだけなんじゃねぇのか?

明人はここ数ヶ月で何社も回って就活していたが、

どこも数日で辞めている。

初めから働く気などないのだ。


その上で精神疾患のあり方など非常に曖昧なもので、

いちど診断された結果に基づいて本人がそう言えば、

ドクターも周りも当人が言ったその事を信じてしまう。


初めが肝心、とはよく言ったもの。

初めに年金受給対象の障害だと診断されたらそれで良い。

そうでなければ現実に苦しみその障害に苦しむだけになる。

俺がそれだ。


俺はついにそこで怒りが爆発してしまい…


楠雄「…おい明人、冗談言うなよ。お前は働く気なんて初めから無いじゃねぇか。どこも数日で辞めてるくせに。こんな時だけ殊勝ぶって『どうしても辞めなきゃならない理由があった』みたいな顔すんなよ!」


そんな事を調査員の岡田さんが居る前で怒鳴るように言ってしまった。


明人「な、なんだよお前!」


明人は当然怒ったが、それより先に岡田さんが俺を諭すように声を上げた。


岡田「あなた、よくそんな事が言えますね?彼は彼なりに、これまで大変努力してきたんですよ?それを知らないでしょう?私は彼がこの状態になってから、彼の事をずっと見守ってきました。彼が抱えている疾患は、あなたが考えてるような軽いものじゃないんですよ?」


そんな事を言って俺を責めてきた。

でも確かに彼女の言う事にも一理あり、

俺はその場で何も言い返せない。


「ごめん」と一言だけ謝り、その日は家に帰った。


ト書き〈事件〉


でもそれから数ヶ月して。


楠雄「…そういや最近、あいつから連絡ないなぁ」


明人からのいつもかかってくる電話がぱったりやんだ。

あいつは1週間の内に必ず1回か2回は電話してくる。

それが無いのだ。


おかしいと思い俺のほうから何度か連絡してみた。

でもやっぱり出ない。

変だったのは、電話の呼び出し音は鳴るという事。

解約はしておらず、これまで通りの状況だ。


楠雄「何やってんだろう…」


明人だけが忽然と姿を消した…そんな状況になっている。


そしてその真相は、それから何年後かに明らかになった。


(ニュース)


楠雄「…ウソだろ。これ、あの時の…」


逮捕されたのはあの調査員の岡田さん。

彼女は年金受給対象だった明人のその年金を、

騙す形で横領していたのだ。

しかも明人を秘密裏に殺害し、その遺体をずっと

自分が借りたアパートの押し入れに隠すという形で。


岡田さんはいつも通りに調査をし、何事もなく事後処理までしていた。

明人の失踪はもちろん外部には秘密にしながら、

さも彼が生きて居るかのように見せかけていた。

彼女が担当ながら、真相を疑うまでが遅かったのだ。


そしてあとから分かった事だが、

明人はいつからか天涯孤独の身になっていた。

きっとそれを土台に犯行に及んだのだろう。


そして「ずっと明人の事を見守ってきた」みたいな事を言ってたが、

岡田が明人の調査担当になったのはつい最近の事。

初めから都合の良いカモを見つけ、

いっときの衝動でなした犯行のように、計画的ながら

何となくその犯行を達成していたのだろう。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=m3bXThfQ2rY&t=69s

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

精神の闇 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ