人真似
天川裕司
人真似
タイトル:(仮)人真似
▼登場人物
●人真新宙(ひとま ねお):男性。25歳。人に影響され易い。「自分が無い」と悩み続けるがそのクセをなかなか直せない。内向的な性格。
●夢野仲恵(ゆめの なかえ):女性。20代。新宙の「人真似をやめたい、でもどうしても心の拠り所が欲しい」という欲望から生まれた生霊。
●母親:新宙の母親。新宙が少しでも自立できるように毎日祈っている。48歳。パートをしている。
●部長:男性。50歳。新宙が所属する部署の上司。常に堂々としている。
●同僚:新宙の会社の同僚。男女含む感じで。本編では「同僚1~2」と記載。
▼場所設定
●会社:一般的なデザイン企業。新宙が働いている。
●新宙の自宅:一般的な戸建てのイメージで。新宙の部屋は2階。
●バー「イミテーション」:お洒落な感じのカクテルバー。仲恵の行き付け。
▼アイテム
●「インディペンデンス」:栄養ドリンクのような物。これを飲むと自信が沸いてきて、人前で堂々として居られる。でも有効期間は3か月。
●「ホットベッド」:同じく栄養ドリンクのような物。これを飲むと自己保身に徹底でき、「インディペンデンス」を飲んだ後の後遺症を抑える事が出来る。また自分が「本当に求めていた心の拠り所」へ直進できるようになる。
NAは人間新宙でよろしくお願いいたします。
メインシナリオ~
(メインシナリオのみ=4089字)
ト書き〈会社〉
俺の名前は人真新宙。
ここデザイン企業で働く25歳。
もちろん独身で、実家から通勤している。
新宙「ああ、部長っていつ見ても堂々としてるし、仕事も出来るし、いいなぁ。俺もあんな感じでずっと働けたら・・・。はぁ、でも自信が無いよなぁ俺は」
俺は人真似ばかりする。
ひどく内向的で、いつも自分に自信が無い。
「そんなの誰にだってあるよ」
友達はこう言ってくれるけど、俺はこんな自分が心底嫌だ。
特に人前や緊張する場面では、俺はいつも誰かを演じてる。
・映画俳優
・歌手
・漫画家
・作家
・タレント
時には女優や政治家の調子を真似る事もある。
全ては自分に自信が無い為。
その自分を隠す「隠れ蓑」を持つ為だ。
ト書き〈仕事帰り〉
新宙「お疲れー」
今日もいつも通りに仕事が終わる。
でも明日もまた会社。
人と会わなきゃいけない。
誰かと会う度、俺はいつも疲れてしまう。
新宙「はぁ~ほんっと俺は一体何なんだよ!全然『自分』ってものを持ってねぇじゃねぇか!一体どうすれば安定して生活できるようになるんだよ!」
ト書き〈人真似経歴・武勇伝〉
俺は昔からそうだった。
特に注目を浴びる場所や緊張する場面では、必ず他の誰かを真似ていた。
・大学の論文発表の時はテレビで観た解説者を真似る
・人前でスピーチする時は偉人や政治家を真似る
・恋愛でもラブストーリーの主人公を真似ている
・仕事では自分が影響を受けたビジネスマンを真似る
・思索にふける時は芸術家や作家を真似る
・カラオケではお気に入りの歌手を真似る
とにかく俺は「自分」というものを持って居ない。
そうする事で誰かに頼り、自分を保身するわけだ。
新宙「はぁ・・・こんなんじゃ、これから先やってけないかも」
まるで自分が分裂してしまうような、そんな嫌悪感さえ覚えるのである。
ト書き〈バー「イミテーション」へ〉
新宙「よし!くよくよしたってしょうがない!今日はどっか飲みに行こ!」
いつになく自分のあり方に嫌気が差した俺。
今日は飲もうといつもの飲み屋街に向かった。
そして行き付けの居酒屋まで歩いていた時・・・
新宙「ん、こんな店あったっけ・・・?見た事ないな」
全く知らないバーがある。
新宙「『イミテーション』か。ふぅん、なんか俺の為にあるみたいだな」
中は客が殆ど居らず落ち着いている。
カウンターに座って1人飲んでいた時・・・
仲恵「こんばんは。ご一緒してもイイかしら?」
割と綺麗な人が声を掛けて来た。
断る理由も無いので俺はOK。
その人の名前は夢野仲恵。
歳は20代くらい。
精神カウンセラーをしてると言う。
新宙「へぇ、カウンセラーさんなんですか」
仲恵「ええ」
彼女は何となく不思議なオーラを持っていた。
「昔からずっと一緒に居た人?」
そんな感覚がふと湧いて来る。
それに一緒に居ると何となくだが、いろいろ話したくなる。
「この人なら何とかしてくれる」
根も葉もない事だが、そんな気になるのだ。
気付くと俺は今の自分の悩みを殆ど彼女に打ち明けていた。
仲恵「なるほど、『自分』を取り戻したいと・・・」
新宙「ええ。お恥ずかしい話です。この歳になってもまだ自分に自信が持てず、こんな事を言ってるんですからねぇ。でも緊張する場面や人前に出ると、本当にいつも誰かの真似をして、自分を慰めるように落ち着かせてるんです」
仲恵「いいえ、恥ずかしがる事はありません。結構そう言う方って多いんですよ?特に現代人は『人目を気にする感覚』が従来の人より敏感に働く、という傾向があるようです。ネット等を日常的に利用している現代でしょう?」
仲恵「つまり個人情報が簡単に流出する機会が多い為、人の目や感情を気にする癖が自然に身に付いてしまうのです。それに人は順応力がありますから『そうした環境が普通なんだ・それに適応しなきゃいけない』なんて潜在意識の中で思い込んでしまって、人目を気にする癖が慢性化してしまうんです」
新宙「はぁ・・・そうなんですか」
仲恵「もちろん個人差もありますけれど。それでもあなたのお話をお伺いしたところ、あなたはきっと対人恐怖症・舞台恐怖症の典型かと思われます」
新宙「対人恐怖・・・舞台恐怖症?!」
仲恵「ええ。過去に人前でトラウマになるような経験をされた方には非常に多い症状なのですが、稀に先天的にその記憶・心の傾向を持ち合わせてしまう方も居られます。特に人前でそんな嫌な経験をした事が無い・昔からそうだった・・・と言われる方は、おそらくその先天的な傾向が影響しています」
新宙「ホントなんですかソレぇ?」
いきなりそんな事を言われ、つい苛立った。
見透かされたような気がしたからだ。
でもやはり彼女は不思議な人。
じかにそう言われると、段々その気になって来る。
仲恵「私はこれでもあなたのような精神状態の方を、もう何年も診て来ております。信じるかどうかはあなた次第ですが、おそらく間違いありません」
新宙「それで、そんな状態の僕は一体どうすれば・・・」
仲恵「もし良ければこちらをお試し下さい」
そう言って仲恵は、瓶入りのドリンクを2本差し出して来た。
新宙「何ですかこれ?栄養ドリンク?」
仲恵「それぞれ『インディペンデンス』、『ホットベッド』と名付けられた液体薬です。まぁ栄養ドリンクのような物ですね。『インディペンデンス』はその人に自立心・独立心を与え、どんな状況でも自分をしっかり保たせます」
仲恵「『ホットベッド』は頓服薬になります」
仲恵「『インディペンデンス』の効果は確かですが、有効期間は3か月。その後は自信・自我の喪失感のようなものがやって来るでしょう。それを抑える為の薬です。また他の効用には『本当の心の拠り所』を諭す効果もあります」
新宙「はぁ・・・」
何の事かよく解らなかった。
しかし毎日、自分の情けなさに悩み続けて来た俺。
藁にも縋る思いもあった。
「これで本当に治るなら」
心の片隅で少し本気でそう思ったのだ。
仲恵「ですが『ホットベッド』の方は出来れば服用を避けて下さい。出来れば様子を見、自力でその喪失感から回復する事を望みます。その『ホットベッド』は人を内向的にさせる作用もあり、場合によっては危険を招きます」
「頓服用の効果はあるが副作用もある」
そのように聞こえた。
俺は何となく頷いた。
ドリンクは2本とも無料だったので遠慮なく貰った。
ト書き〈翌日〉
そして翌日。
新宙「なんだ・・・自信が漲るように湧いて来る・・・」
ゆうべ寝る前に『インディペンデンス』を飲んでみた。
「あんな酒場で貰ったような薬、信じられる訳ない!」
なんて思っていたが、やはり飲んでしまった。
でも飲んで確かに俺は変わった。
いつものオドオドした感覚が全く無い。
ト書き〈朝食時〉
母親「あら、アンタどうしたの?なんだか今日はキラキラ輝いてるわね」
新宙「そうさ!俺は変わったんだ♪これからは自分の可能性に大きく羽ばたいていくのさ!母さんにも楽させてあげるからね!じゃ行ってきまーす!」
母親「あの子のあんな溌剌とした笑顔、ホント久し振り。あの子、成長したのねぇ・・・母さん、とっても嬉しいわ。新宙、頑張れ♪ずっと祈ってるからね」
ト書き〈仕事もプライベートも順調〉
同僚1「おいおい、人真のヤツ、すっかり変わったなぁ」
同僚2「ホントねぇ。なんだか輝いてる感じ。すっかり見違えてステキ」
部長「人真君、頼りにしとるよ!」
新宙「はい!」
仕事もプライベートも驚くほど充実して来た。
同僚の俺を見る目も変わり、上司から厚く信頼された。
彼女も出来た!
昇進した!
更に出世街道まっしぐら!
俺は人生の成功者になったのだ。
ト書き〈「インディペンデンス」の効果切れ〉
ト書き〈朝、自分の部屋〉
だが・・・
新宙「はぁはぁ・・・あれぇ?なんでだろ・・・自信が全く出て来ない!」
「インディペンデンス」の効果が切れたのだ。
あれから3か月が過ぎていた。
新宙「だ、ダメだ!やっぱりダメだ!このままじゃ俺が俺でなくなる!また誰かの調子ばかりを真似て、自分を心の中に完全に封印する自分に戻る!」
その時、ベッド横に置いていた「ホットベッド」に目がいった。
新宙「こ、これだ!もうダメだ!飲まなきゃやってられない!これを飲んだら『心の拠り所』が得られるんだったな!それならきっと良い効果が・・・!」
新宙「ふぅ・・・」(トローンとし始める)
飲んだ直後、何となく眠くなってきた。
ト書き〈自●する〉
それから俺は、会社に休みの連絡を入れた。
そして学生の頃に録り溜めたビデオを観た。
俺がその昔、心酔するほど憧れたアーティストの録画ビデオ。
新宙「はぁ・・・やっぱりいいなぁ・・・」
俺は学生の頃に戻ったような気分で、ずっと観続けた。
新宙「・・・でもこの人、確か自●したんだったなぁ・・・」
そのアーティストは早世していた。
その為、絶大な人気を誇るカリスマアーティストにまで成っていた。
それを思い出すと同時に、昔よく読んだ文学作品も思い出した。
心から安心を求められたその作品、作家達。
でも俺が安心を求めたその作家達も皆、自●していた。
この日、母親は朝早くからパートに出掛けて居ない。
家の中はシーンとしていた。
人目が無かったから、俺はすんなり自●した。
ト書き〈新宙の部屋を家の前の通りから見上げながら〉
仲恵「結局こうなったか。やはりあのドリンク『ホットベッド』を彼は飲まずに居られなかった。出来ればあの『インディペンデンス』を飲んだ後、たとえ薬の効果が切れても、新宙には自力で『自身』を取り戻してほしかった」
仲恵「私は、新宙の『人真似をやめたい、でもどうしても心の拠り所が欲しい』という欲望から生まれた生霊。その願いを叶える為だけに現れた」
仲恵「あの『ホットベッド』はね、飲んだ人の心の拠り所を純粋に求めさせ、そこへ直進させる作用があるの。新宙は結局、人真似に温床を求める自分に返ってしまった。だから自●者の真似をして、心の衝動・不安を落ち着けようとした。自分が居なくなるのに心を落ち着けるなんて、全く本末転倒よ」
仲恵「自●して自分を取り戻す・・・馬鹿げたようだけど、得てして現代社会には、こんな所に自分の温床を求めている人が多いんじゃないかしらね・・・」
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=S2oEhVaxOhs&t=78s
人真似 天川裕司 @tenkawayuji
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